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第67話: 夜会のあとの余韻

花火の余韻がまだ夜空に残る頃、学院の屋上は静けさに包まれていた。

夜風が柔らかく吹き抜け、星々はまるで手を伸ばせば届きそうなほど近くに瞬いている。

遠くで聞こえる学院の雑踏も、この高さでは微かなざわめきに変わり、空気はどこか幻想的だった。

アンジーは手すりに寄りかかり、シュネに借りた上着を返す。


「ありがとうございました。それにしても……花火、きれいでしたね……」


シュネは彼女の隣で、夜空を見上げる。


「ああ、あの魔法花火、見事だな。光の軌跡も計算されていたし、魔法粒子の拡散も完璧だ」


「おいおい、こんな時に勉強かよ、勘弁してくれ」


「さすがシュネさん…全部見てたんですね」


ライカが頭を痛める中、アンジーが小さく笑うと、シュネは目を細めて、わずかに微笑んだ。


「俺は、見逃さない。君の魔法もだ」


アンジーは思わず息を呑み、顔を赤らめて俯く。


「そ、そんな…別に…」


「あたしのいるところで、いちゃつくのはやめろ。胃がいてぇ…」


頭の後は胃が痛いらしい。

忙しそうなライカをアンジーは本気で心配する。


「大丈夫ですか?!回復魔法いりますか?」


「まじにならんくていいから…」


シュネはライカに向き直り、眉をわずかに上げる。


「それにしても…ライカ。よく合格できたな。一時期はお前が危うすぎて父上に相談しそうになった」


「あの人に報告とか、勘弁してくれよ~。リオンの特訓の成果が出たんだよ。もう誰もあたしを止められないぜ」


「ライカさん、すごいです!私も見習わないと…」


アンジーが小さく言うと、ライカは肩をすくめる。


「見習う?どこに見習う要素があんだよ。お前は十分強くなったじゃねーか」


その目は少しだけ柔らかく、アンジーの成長を喜んでいるように見えた。


「……光の花火…退屈だね」


少し眠そうなニースがやってくる。

髪をかき乱し、いつもの無表情で夜空を見つめる。


「ニースさん!いらっしゃったんですね!」


アンジーは口元の硬さを崩さないニースに声をかける。


「さっき来た」


「楽しかったですか?」


「さっき来たって言ったじゃん。そもそもあんなうるさい場所に興味ないよ」


「せっかくおいしいご飯もありましたのに…」


「そう、それは残念だね」


ニースは興味のなさそうに呟いた。


「放っとけって。それより、見ろよ」


ライカは夜空を指さす。


「本当ですね。きれいです…こんなにたくさん…」


シュネも視線を合わせる。


「星も…戦いも、すべてはこの世界の一部だ。俺たちの魔法も、な」


アンジーは頷き、目を輝かせる。


「そうですね…来年もまた皆でこうして見れるといいですね」


シュネは口角をわずかに上げ、彼女に向かって小さな笑みを見せる。


「そうだな」


夜の静けさの中で、互いの目が一瞬だけ交わる。

その距離は、戦場での距離とは違う、柔らかで温かなものだった。

ライカは立ち上がり、腕を伸ばして大きく背伸びをする。


「ま、まあ、こんな夜も悪くねぇな。来年の抱負だ!もっと強くなっちゃるぜ!」


「私も…頑張ります!」


アンジーは元気よく応えた。

シュネは小さくうなずき、「明日からの授業も油断するなよ」と言った。

光の反射が彼の冷たい表情をわずかに柔らげる。

風が屋上を駆け抜け、髪を揺らす。

そのたびに、アンジーは少し照れたように髪を直し、シュネは静かにその様子を見守った。

ライカははは、と笑いながらも小さく溜息をつき、ニースは相変わらず無表情で立っている。


「その感動を忘れるな。魔法も戦いも、感情がなければ形だけだ」


アンジーは小さくうなずく。

胸の奥で、魔法への憧れと、仲間と共に戦った達成感がふわりと広がった。

アンジーは胸の内で決意を固める。


「もっと魔法がうまく使えるように、明日からまた頑張ります!」


シュネはその言葉を聞き、軽くうなずく。


「その意気だ。共に進もう」


ライカは腕組みしながら、「あたしも負けねぇからな」と挑発するように笑う。


「あ、あなたたち!まだこんなところにいたのね!!明日も早いのよ!部屋に帰りなさい!」


クラリスの声が下の階から届く。

皆は一斉に立ち上がり、風に髪をなびかせる。


「すいませんでした!」


「もう帰るってー!こっちには主席様もいるんだぜ、大目に見ろよ!」


ライカが声を張り上げて、クラリスに反発する。しかし、それは彼女にとって地雷らしい。目が吊り上がる。


「主席様って…そこにいる問題を起こす主席様のこと!?」


「おい、ニース~お前、なにしたんだよ」


「………うん、まあ…試験を端折りすぎたから、かな…。上からなにか言われたのかも」


「はぁ?!」


無表情の天才は、進級テストを端折りすぎたのだ。

そんな彼に合格を出さざるを得なかったクラリスは、夜会に参加せず、教師たちに納得できる説明や書類作成で心身疲弊させられた。

怒るのも当然だった。


「も、もう帰ります!」


アンジーは元気よく答え、逃げるように皆の手を引っ張る。

3人は笑みをこぼしながら、夜空に溶けていった。

星の光と魔法の余韻が、彼らを優しく包む。

戦いの疲れを癒やし、仲間との未来を見据える――試験の後のひとときは、そうして静かに過ぎていった。

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