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第45話: 審査と晩餐会への招待

「次、トラヴィス班、前へ!」


「はいっ!」


金髪を揺らしたトラヴィスが元気に返事をし、華やかな料理を運び出す。

色とりどりの皿に盛られた料理は、一目で派手さを狙ったものと分かる。

さらに、メンバーの一人が魔力で料理に小さな光の羽根を舞わせると――


「……派手すぎる」


クラリスの冷たい視線が刺さった。

講堂の空気がぴしりと張り詰め、審査員たちは反応に困った様子で黙り込む。

見た目は華やかだが、味と釣り合っていない。

クラリスは一口だけ口にし、すぐにスプーンを置いた。


「素材の持ち味を殺しているわね。魔力演出に逃げすぎ。残念だわ」


会場に小さなどよめきが走る。トラヴィスの顔が引きつった。


「次、マリア班」


「よろしくお願いします……!」


控えめな声と共に、真面目に仕上げられた料理が並ぶ。

飾り気はなく、味そのものを勝負にかけたのが分かる。


クラリスは丁寧に口へ運び、少し首をかしげた。


「味は悪くない。でも魔力の流れが不安定ね。食べる人にとっては、落ち着かない印象を与えるわ」


「確かに……後味が揺らぎますな」


審査員の一人が頷いた。

努力は伝わるが、記憶に残る一皿にはならない。

マリアは唇を噛みしめ、仲間たちと視線を交わす。


「次、カルロス班」


豪快なカルロスが大皿を運び出すと、場内がざわめいた。

肉の塊を豪快に焼き上げ、香ばしい匂いが充満する。

観客の中には思わず喉を鳴らす者もいた。


「ふむ、迫力はある」


クラリスは肉を切り分けて口にした。

だが数秒後、表情が厳しくなる。


「……焼き加減が雑。表面は焦げているのに、中は生焼け。これでは台無しね」


カルロスの班員たちが苦い顔をした。

勢いと迫力だけでは評価を覆せない。


そして、講堂の空気がふっと変わる。


「アンジー班、前へ」


三人は無言で立ち上がった。

皿を持つ手に力が入るアンジーの肩を、ライカが軽く小突く。


「緊張しすぎだぜ、アンジー。いつも通りでいいんだよ」


「は、はい……!」


ニースは何も言わず、スッと一礼して料理を差し出した。

魔力の飾りも、演出も、何ひとつない――けれど、皿から立ち上る湯気が、まるで息づいているかのように感じられた。


クラリスが、一口。


「……ふぅん。冷製はやめたのね」


審査員の一人がスープをすくって驚いたように目を見開いた。


「これは……繊細だけど、深い味ですね。魔力の主張がないのに、舌に残る余韻がある」


あれからニースなりに何かを研究したのだろう。アンジーとライカは前菜の評価にほっと一息ついた。


次はライカがメインを運ぶ。

香ばしい匂いと共に皿が並ぶと、クラリスはじっと観察した。

食べ応えのある肉料理に、力強い魔力が込められている。


「食べ応えもあり、作り手の強い意志を感じる」


中々の高評価を得られたらしい。ライカは小さなガッツポーズをした。


最後にアンジーの料理。


「……これは」


審査員の一人が、目を細めてスプーンを口に運ぶ。


「温かい味だ。食べる側の感情に寄り添ってくる……まるで心を撫でられているような」


アンジーの頬が照れくさそうに染まり、ライカはにやっと笑う。

ニースは何も言わず、ただ立ち尽くしていた。


* * *


全チームの発表が終わると、講堂の空気が再び張り詰める。

壇上に立つクラリスが、無表情のまま言い放つ。


「結果を発表します。――今回の優勝は、アンジー、ライカ、ニース組」


「やっぱり……!」「うわ、マジか」「1年かよ!!」


ざわめきが一気に広がった。驚きと納得の混じった声が飛び交う。


「えっ……わ、私たち?」


アンジーが目を丸くする。


「やったじゃん」


ライカが肩をぽんと叩き、にかっと笑う。

その横で、ニースだけは微動だにせず、口を結んでいた。


「そして、優勝チームの料理は――王家を迎える晩餐会の献立として正式に採用されます」


クラリスの声が重く講堂に響いた。


――カチリ、と何かが壊れるような音が、アンジーには聞こえた気がした。


「……王家?」


ニースがぽつりと呟いた。アンジーが振り返ると、彼の顔から血の気が引いていた。


「ニース…さん…?」


「どうしたんだよ、今更。クラリスが言ってただろ?王様が来るんだよ」


ライカが何気なく笑いながら言う。

しかしニースの瞳だけは暗く沈み、他の誰とも違う色を宿していた。


その夜が、彼らにとっての転機になることを――まだ誰も知らなかった。


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