第42話: 創造祭と特別企画
創造祭が始まるー…
学園は朝からどこもかしこも大騒ぎで、飾りつけや出し物の準備に走り回る生徒たちの声が響いている。
「……はぁ。騒がしいのは嫌いなんだよな」
ライカは額に手を当て、あからさまにうんざり顔をしていた。
その隣で、アンジーは目をきらきらと輝かせている。
「わぁ……!すごいです、ライカさん!楽しそうですね!」
「お前の目は宝石か何かかよ……」
とライカは小声でぼやいたが、本人には届いていない。
シュネはといえば、そんな二人を横目でちらりと見ただけ。
「浮かれても意味はない。俺たち一年は関係ないだろう」
そう言って涼しい顔で教室へと入っていく。
アンジーの肩をちょんっと触れながら。
花畑での一件依頼、シュネの距離が少し近くなった気がした。彼の柔らかい視線にアンジーは顔を少しだけ赤くする。
「そうそう。一年はお祭りなんかより勉強が仕事だしな」
二人の独特な雰囲気を感じつつも、ライカも続こうとした、その時――
「あら、そんなことないわよ」
背後からひょっこりクラリスが現れた。
「ひっ……先生!?」
とライカが肩を跳ねさせる。
クラリスは笑みを浮かべつつ、生徒たちに告げた。
「今年の創造祭には特別企画があるの。『魔法料理コンテスト』よ」
「魔法……料理?」
アンジーがぱちぱちと瞬きをする。
クラリスは大きく頷いた。
「そう。優勝したチームには王族を迎える晩餐会で、自分たちの料理を振る舞う名誉が与えられるわ」
「王族に……!」
アンジーの瞳がさらに輝きを増す。
「でも一年には関係ねーだろ」
ライカがぼそりと突っ込む。
「いえ。一年生は“優勝チームだけ”晩餐会に参加できるの。だから挑戦する価値はあるんじゃない?」
クラリスの言葉に、アンジーは勢いよく手を挙げた。
「やります!ライカさんも、一緒にやりましょう!」
「はぁ!?なんであたしが――」
「料理だったら、私たちにもできますよね?」
にこにこと迫られ、ライカはぐっと言葉を詰まらせる。
「……まぁ、出来なくはないけどな」
そこでアンジーとライカの視線は、同時にシュネへと向かった。
「……なんだ。俺の顔に何かついてるか?」
シュネは怪訝そうに眉をひそめる。
ライカは深いため息をついた。
「こいつ、絶対料理なんかしたことないだろ……」
「俺を何だと思ってる。……いや、確かに台所に立ったことはないが」
そんなやり取りをしていると、教室の隅から「なに?なに?」と声が上がった。
振り向けば、椅子にだらしなく腰かけていたニースが首を傾げている。
クラリスは彼を迷わず引っ張り出した。
「あなた、ちょうどいいわ。お友達のサポートをしてちょうだい」
「友達のサポート?……分かった。やる」
ニースはあっさりと承諾する。
「おいおい、軽すぎだろ」
とライカが呟くが、もう遅い。
クラリスは腕を組み、満足げに微笑んだ。
「ちなみに私は審査兼サポート役に任命されているの。だから、あなたたちのメニューは私が監修するわ」
「先生が監修……!心強いですね!」
アンジーは両手を合わせて感激する。
クラリスは軽くウィンクしてみせる。
「魔法料理はただ作るだけじゃない。“感情の魔力”を込めるの。普通の料理とはわけが違うわよ」
「感情の……魔力……?」
アンジーが小首をかしげる。
「そう。さあ三人で修行よ! ニースもちゃんと付き合うのよ!」
「しょうがないな…」
とニースが不満を漏らす一方で、アンジーは胸を高鳴らせていた。
――こうして、アンジーたちの“特訓の日々”が始まろうとしていた。




