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第41話: 花畑に咲く想い

アンジーは無事にクラスへ戻ることができた。

久々に迎えた3人での夕食の時間。

食堂でご飯を受け取り、席につくと…見慣れた顔ぶれの中にひとり増えていた。


「……で、なんで当然のようにここにいるんだよ」


ライカが眉をひそめて問いただす。


「友達と食事をとるのは、当たり前でしょ?」


ニースはさらりと一蹴した。


「は?友達ぃ?」


「君も僕の友達になってくれる?」


「は、はぁ?」


「なってくれるの?くれないの?」


「…ちっ。アンジーは大切な友達だ。そのアンジーの友達なら…なるよ、なるなる」


「ライカさん…」


アンジーは嬉しそうに頬を赤らめた。


「あら、みんなお揃い?お邪魔していいかしら」


と、クラリスが4人の食事に入り込んでくる。

座席はあっという間にいっぱいになって、4人が5人になった。


「アンジーさん、改めてお疲れ様。本当によくやったわ」


「クラリス先生……!」


「この堅物を引っ張り出すの、苦労したでしょう?」


にやりと笑ってアンジーを労う。


「いえ…そんな」


やんわり否定をするアンジーの横で、スプーンをくるくる回すニース。


「……クラリスが、友達作れって言ったんだろ?」


「ニース、ここでは、呼び捨てはやめなさい」


クラリスが眉をひそめる。


「別にいいじゃん」


「えっと…お二人の関係性ってなんでしょうか?」


やけに仲の良さそうな二人の関係が気になり、アンジーは思い切って聞いてみる。

ニースは少し考えた後、


「クラリスは僕のお――」


その瞬間。


「甥っ子よ!」


と、クラリスが強引に遮った。


「えっ、え? 甥っ子……?」


アンジーは目を丸くする。

あまり似ていないような気もするが…。


「それよりも! ニース、先生って呼びなさい!」


クラリスは話題を切り替え、深く追及させてはくれなかった。


「あー、あと!レイナさんが言ってた反逆召喚魔法を教えたのあんたでしょ!あんたには特別きつーーーい説教が必要だから覚悟しなさいよ!」


「レイナ…誰それ」


「とぼけるな!記憶に残らないのを良いことに…けどね、こっちには証拠があんのよ!」


「………あー、教えたかも。だってうるさかったんだよ。図書館なのに一人であーでもないこーでもないって。邪魔だったから…」


「今回のアンジーさんが退学危機を迎えたのはあんたのせいだったのね…!」


「僕が黙ってても、その人は遅かれ早かれ何かしでかしたよ。そういうタイプの人間だった。今回は運悪くー…」


「だまらっしゃい!あんたが絡んだことに変わりはないんだから、これから数日間の図書館の出入りを禁ずるわ!」


「は…なにそれ………」


クラリスは目の前の夕食を「いただきまーす」と食べ始める。

そんな中、ニースは自身が映るスープを見ながら


「僕には時間がないのに………」


雑音にかき消されそうなくらい小さな声で呟いた。


* * *


それぞれが食事を終え、ライカとニースを見送り、部屋へ戻ろうとしたその時、


「……アンジー、少し歩かないか」


ずっと静かだったシュネが背後からアンジーを呼び止める。


「はい、大丈夫ですよ。どこに行きますか?」


「どこでもいい。少し話せたらいいな、と思ったんだ」


「じゃあ、お薦めの場所にご案内します。シュネさんにぜひ見てもらいたいんです」


アンジーは謹慎中に足しげく通った花畑へシュネを連れていくことにした。

退学するか否かの最中だったため、最近は通えていなかったが…

彼女が世話をしてきたその場所は、夜の月明かりに照らされて幻想的に咲き誇っていた。


「……これは、驚いたな」


シュネは思わず息を呑む。


「アンジー、君が世話を?」


「えっと…私だけではないんです。少しでもみんなの癒やしになればって……用務員のおじさんと一緒に」


「……立派だ」


珍しく素直に褒められ、アンジーは胸が熱くなる。

しばらく花を眺めながら雑談を交わした後、シュネはふと視線を落とした。


「正直、不安だった。君が戻ってこれるのか……。でも――」


アンジーを見つめ直す。


「君は、強くなったな」


「シュネさん……」


その言葉に、アンジーの頬が赤く染まる。

二人の間に沈黙が落ちた。だが、嫌なものではなかった。

アンジーが視線を逸らそうとした瞬間、そっとシュネの手が触れる。


「っ……!」


驚いて振り返ると、シュネはわずかに苦笑していた。


「こうして確かめないと……どうにも落ち着かない」


「……て、手を繋ぎたいってことですか?」


「……そういうことだ」


言葉よりも早く、シュネの指がアンジーの手をしっかりと包み込む。

冷たい夜気の中、その温もりはやけに鮮明だった。


「大げさです……」


「そうかもしれないな」


アンジーは俯きながらも、握られた手を離そうとはしなかった。

月光に照らされた花畑の真ん中で、二人の距離は静かに時間を共に過ごした。

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