表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/129

第20話:空に浮かぶ試練の門

試験当日──。


朝靄に包まれた魔法学園の広場には、すでに多くの受験者たちが集っていた。

貴族の子女も、遠方からやってきた庶民の生徒も、それぞれ緊張の面持ちで空を仰いでいる。

天空には、巨大な魔法陣がゆっくりと輝きを増していた。

幾重にも重なる魔紋が回転し、渦を巻きながら光の扉を開く。

そして、その先に──異形の迷宮が姿を現す。


空中迷宮アエリアル・ラビリンス


浮遊する無数の足場、蜃気楼のように揺れる構造物。

空間は歪み、上下左右の感覚すら曖昧になる、まさに“試練の門”。


「……あれを登れってかよ」


ライカがあきれたように呟いた。


「すごい……まるで天空の塔みたい……」


アンジーがぽかんと見上げる。


「感心している暇はない。三人一組で登録されている。名前が呼ばれたら転送だ」


冷静な声で、シュネが現実に引き戻す。

その言葉と同時に、空から試験官の声が響き渡った。


「エントリーナンバー・021。シュトゥルム、ライカ、アンジー──転送開始」


光に包まれた瞬間、三人の身体はふわりと浮かび、次の瞬間には、迷宮の最初の足場の上に立っていた。


「──うわ、高っ!!」


遥か下には地面が見え、足元の足場は不安定に揺れている。

先に広がるのは、空中に散らばる複雑な構造物。

宙に浮かぶ石板が、試験のルールを告げた。


〈試験内容〉

三名一組で迷宮を突破せよ。

途中脱落は失格。

尚、魔力使用には上限が設定されている。

過剰使用時は強制脱出となることを留意せよ。


「つまり、誰か一人でも脱落したらアウトってことか」

「魔力制限まで……これはかなり厳しいですね」


ライカとアンジーが顔を見合わせる。


「だが、逆に言えば、力任せでは突破できない。知恵と連携、そして運も問われるだろう」


シュネの目が鋭く細められた。


「行くぞ。無駄口はここまでだ」


三人は息を合わせ、最初の足場へ跳躍する。

足場がぐらりと揺れ、すぐに次の構造が浮かび上がる。


「ライカ、右! 足場が崩れるぞ!」


「チッ、サンキュ!」


ライカが俊敏に飛び移り、魔法の補助で体勢を立て直す。


「わ、わたしは……どうすれば……」


「アンジー、足場の模様をよく見てみろ。いい機会だ、自分で考えてみるといい」


「え、えっと……」


「ちょっ、あたしは!?」


アンジーが困惑している間にも、ライカは鹿のように次々と足場を渡っていく。


「落ち着いて。魔力の流れで、安定している箇所がわかるはずだ」


「……あっ、これ……! 線が光ってる!」


「そう、正解だ。じゃあ──手を貸そうか」


シュネはさっと手を差し出し、アンジーを優雅にエスコートする。

二人が一緒に足場に着地した瞬間、光が広がり、新たなルートが開かれた。


「なんかあたしと対応違くね?」


「そうか? 普段通りだが」


涼しい顔で返しながら、シュネは華麗に二人を導く。


「悠長にしてる暇はないぞ。次に進むぞ」


「お前が一番悠長だったけどな! 甘々すぎんだよ、この贔屓貴族が!」


***


迷宮の中層──。

三人はすでに十数の足場を越え、空間の深部へと踏み込んでいた。

空は赤く染まり、遠くで他の受験者たちが脱落していく光が見える。


「思ったより……体力も消耗する……」


「魔力圧も上がってる。普通の奴ならもう吐いてる」


ライカが肩で息をしながら言う。

だが、シュネの目は前方の異変に釘付けだった。


「それに…“選別”はもう始まっているようだな」


その言葉を裏付けるように、迷宮中央に浮かぶドーム状の構造が、赤黒く脈動を始めた。


「っ、魔力の揺らぎ……!?」


ゴウッ──!


突如、凍てつく氷の壁が三人の前に現れる。

魔力の放出源は見えず、尋常ではない圧力に空気が軋む。


「なんだよ、これ!?」


「………おおよその検討は、ついている」


──“そう簡単に、合格できると思うなよ”


それは、シュネの脳裏に残る父の言葉。

試験の背後に、彼の影を感じ取る。


「妨害か……まったく陳腐だ」


そのとき、誰にも聞こえるはずのない“声”が響いた。


『………遅すぎ。しょうがないから、手伝ってあげるよ』


「え……誰?」


アンジーの瞳が揺れる。

けだるげな少年の声──と同時に、体の奥底から湧き上がる魔力。


「アンジー、伏せろ!」


ぼーっと立つアンジーに気づき、シュネは咄嗟に上空から降り注ぐ魔力の矢を身を挺して防ぐ。


「こっちだ!防御壁を張るから、入れ!!」


ライカが応戦とばかりに障壁を張るが──


「数が多すぎる!」


「このままじゃ……!」


削られていく防壁。

だが…


(……なんだろう…今ならなんでも出来そうな気がする…!)


閃光が走り、空間が震える。

次の瞬間──

すべての魔力の流れが、静止した。

氷の壁は消え、魔力の矢は力を失って落ちていく。

中心に立つアンジーの手からは、淡い琥珀色の光が溢れていた。


「……わたし、いま……」


「よくやった、アンジー。今、一瞬だけ──この迷宮の重力魔法に干渉したな」


シュネは「お疲れ様」と小さく呟き、彼女の背中をそっと押した。

彼女の指先は震えていたが、そこには確かな“感覚”が残っていた。

そのとき、空中に鐘の音が響いた。


「時間がない。全員でゴールに到達しなければ、失格だ」


三人は頷き、再び走り出す。

あの声の正体は? この力は──

アンジーは胸に残る余韻を感じながら、最終区画へと踏み込んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ