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第99話: 黒き再臨

玉座の間を揺るがすほどの衝撃が走った。

光と闇がぶつかり合い、世界を裂くような轟音が響き渡る。

アンジーとリリー――二人の魔法の衝突は、まるで天地そのものを賭けた戦いのように、凄烈を極めていた。


「くそ……!あたしがどんな思いで育てたと思ってんだ……!全てを台無しにしやがって……!許さない、許さないぞ!!」


リリーの瞳から黒い涙が零れ落ちる。

それは怒りと悔恨を滲ませながら、地にまで伸びる漆黒の髪を切り裂くと、そこから無数のノワールが生み出された。


「返せ!!そいつはあたしのだ!!」

その叫びと同時に、ノワールたちは一斉に蠢き出し、起き上がろうとするニース、そして魔力を使い果たして立ち上がれないクラリスへと襲いかかった。


しかし――。


「グルゥゥアアアアア!!!」


轟音と共に、黒雷を纏った獣が空間を引き裂く。

雷獣・バルグラード。

その咆哮だけで、ノワールたちは怯み、次の瞬間には鋭い牙に飲み込まれていた。


「バルグラード!一匹残らず食い尽くせ!!」


息を荒げながら叫ぶライカの肩は、走ってきたばかりのせいで大きく上下している。

荒々しい黒髪が揺れ、目は炎のように燃えていた。


「ライカさん……!シュネさんまで……!」


アンジーが驚きの声を漏らしたとき、背後に立つ銀灰の青年が冷たい声で叫ぶ。


「アンジー!後ろのことは気にするな!」


氷の瞳で敵を射抜くシュネ。

その姿を見て、アンジーは一瞬だけ表情を和らげ、にこりと微笑んだ。


「はい、お願いします!」


その返事に、シュネの胸がかすかに高鳴る。

だが戦況は刻一刻と動いていた。


「墨黒か……生き残りがまだいたか」


リリーは低く呟き、アンジーに視線を戻す。


「あなたを神として崇めていたのにも関わらず……切り捨てましたよね?」


アンジーの声は静かだが、琥珀色の瞳には強い光が宿っている。


「なにいってんだ。死にかけた神のために身をささげるのは当たり前だろ?こいつらは、あたしの魔力の一部になったことを、喜んでくれてるぞ」


リリーは掌に渦巻く闇を弄びながら、不敵に笑った。


「けど、まあ。お前があたしを封印しに来なけりゃ、どこぞで悲劇を生むこともなかったんだけどなー?」


「わ、私が…………?」


アンジーの胸に、不安が揺らめく。

魔力の光が一瞬だけ揺れ、その隙をリリーは見逃さなかった。


「くらえ!!」


闇が奔流となり、アンジーへと叩きつけられる。


「ぐぅ……!」


漆黒の魔力が身体に絡みつき、じゅくじゅくと肉を蝕むような痛みに襲われる。


「アンジー!そんな言葉、聞かなくていい!あんたは、あいつを封印しに来た。それが一番重要なんだよ!それに、あたしは今のあたしが気に入ってる!もしお前がいなけりゃ……あたしは人殺しの重罪人だった!」


ライカの叫びは荒々しくも真っ直ぐだった。


「ライカ……さん……」


アンジーの瞳に再び光が戻る。


「何があろうと、俺たちはお前の味方だ。誰もお前を責めはしない。安心しろ!」


シュネの低い声が響き渡る。

氷の瞳が揺らめき、アンジーを包み込むように見つめていた。


「……ありがとうございます!」


アンジーは胸の奥で感謝を噛みしめ、再び光を解き放つ。

黒い闇を切り裂き、闇魔法を打ち払った。

リリーは舌打ちする。


「かーーーっ!眩しいねぇ~!」


「魂だけのあなたを滅するのは簡単です!さあ、覚悟してください!!」


アンジーの迷いは晴れた。

だが、窮地に立たされそうになったリリーの前に現れたのはーーー


「リリー様!!」


玉座の奥から、血に濡れた姿の女がよろめき出てきた。

シルヴィア。

全身に傷を負い、見る影もない。

クラリスとの死闘の末に敗北した彼女は、それでも恍惚とした瞳でリリーを見つめていた。


「今さら何しにきた?」


リリーは興味なさげに言い放つ。


「申し訳……ございません……。ですが……お身体のことでしたら、わたしをお使いください……! あなたのために作られた身体……あなたのために魂を捧げます!」


震える声でそう告げると、シルヴィアの身体からずるりとノワールが湧き出す。

白と黒の異形が彼女を覆い、その身体を喰らい尽くす。


「い、今……あなたのために……!」


最後の声は熱に浮かされたようで、悦びすら滲んでいた。

ノワールが彼女を咀嚼し終えると、魂の抜け落ちた骸が床に転がる。


「ほぅ……」


リリーはわずかに目を細めた。


「なるほど、確かにな。今のあたしは身体がないと分が悪すぎる…」


彼女の視線の先には、光を取り戻したアンジーと、後ろに控える数人の魔法使いたち。

そして、かつて大切に育て上げたニース。


「……しょうがねぇな。あるもんは使ってやるか」


リリーは吐き捨てると、死体と化したシルヴィアに歩み寄る。


「そんなこと、させません!死者を冒涜するような行為です!」


アンジーが声を張り上げたが、リリーは嗤う。


「うるせぇ、出来損ない」


その瞬間、大量のノワールが溢れ出し、アンジーに襲いかかる。


「くぅ……!」


アンジーは一体ごとに光魔法を放ち、必死に打ち倒す。しかし数は尽きることなく押し寄せた。


「お前はそこで指咥えとけ、ガキ」


リリーが冷笑しながら囁くと、彼女の身体はずるずるとシルヴィアの骸に吸い込まれていく。


「させません!!」


アンジーは最後の一匹を焼き払った。

これで終わり――あと少しで届くーーー

そう信じ、手を伸ばしたその瞬間。

玉座の間は黒い靄に覆われる。

禍々しい闇が渦を巻き、空気さえも凍りつかせていく。

あと一歩。

ほんの少しだけ早ければ、リリーの復活を阻めたはずだった。

だが間に合わなかった。


「……くっ」


唇を噛む。

自分の力の至らなさを呪うように、悔しさが胸を焼く。

その目の前で、二度と蘇らせてはならない存在が、闇の中で息を吹き返そうとしていた。


「あぁ……まあまあの身体じゃねぇか?」


肩を回し、指を鳴らしながら…。

そこに立つのは、もうシルヴィアではない。

リリー――その黒き魂が新たな肉体に宿り、この地に再臨したのだった。

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