06. 追放されたました
「レイク様? 何か落ち着かない様子ですね?」
「ああ、ごめんソワール。なんて言うか、ちょっと緊張しています」
教会の待合室。
部屋の調度品かなんか弄っていると、ソワールに声を掛けられた。
「レイク様なら大丈夫です。あなたは人より、多く神様に愛されて居ますから」
ソワールが俺の手を取り、優しく握りしめる。「ほら、そんなに緊張しないで」そう言って上品に笑うと、栗色のショートボブがふわりと揺れる。
給仕服を着た彼女は、いつも俺をそばで支え続けてくれる。グロイのが嫌で泣いてしまった時も、彼女に慰めて貰った。
「私はレイク様が努力をしてきたことを見ています。才能にも恵まれているんですから、ね? そんな顔しないでください」
「ソワール。いつもありがと」
ソワールには恩を貰ってばかりだ。彼女の為にも、俺は頑張ろう。
ドアをノックする音と共に、神官が部屋へと入って来た。
「レイク・オーグナ様。準備が整いました。どうぞこちらへ」
さあ、何の素質なんだ。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「レイク・オーグナー。お前は......」 神官と握手をすると、何か奇妙なものを見るかのような、そんな目つきで俺を見る。
「......無能だ」
は?
「もう一回、聞いても良いですか?」
「無能だ。さっさと行け。オーグナーの天才などと言われていたが、単なるチンピラという事か。ほら、さっさと出ていけ」
意味が分からなかった。何故? 俺、無能なの? 今まで努力してきた意味って、なんなの?
こんな事になるなら、何も努力しない方が良いじゃんか。
ふら付く足で帰ろうとすると、神官に呼び止められた。
「おい無能! 髪の色を偽装する事は禁じられておる。オーグナーに調査団を派遣するからな。そのように言っておけ! あと、お前は見栄をはって染めるなど、恥ずかしいとおもわんのか? 卑怯な事はやめろ!」
は? 何? ムカつく。染めてねえよ。俺は神官に向かって中指を立てた。
「染めてねえよ! てめえこそちゃんと髪生やせよ! ハゲ!」
「は、は、禿とらんわ!」
しんどいけど、ボスに報告しなくてはいけない。外にはソワールが待っている。まずはソワールに言わないと。
はあ、かっこ悪いな。無能だなんて。
マジで。これからどうしよう。
♦♦♦♦♦♢♦♦♦♦♦
「そうですか。ボスの所へ行きましょう」
無能だったことを言うと、いつも優しいほほえみを見せてくれるソワールが、人形のように無表情になった。
ソワールは俺が無能だったとしても、そんなの関係なしに付き合ってくれる。ただ、沢山応援してもらってたのに、こんな結果になって申し訳ない。
「ソワール、ごめん」
「はい、そうですね」
「え?」
「早くいきましょう。逃げないでくださいね。面倒ですから」
「ま、まって。何か、いつもと違くない?」
「レイク様、私達はオーグナーですよ? 貴方が無能な所為で、計画は練り直しです。ボスに報告しに行きましょう」
何だよ、それ。何なんだよ。マジでキツイ。マジで参ってくる。
ソワールは俺にとって大切な人だ。正直、俺の初恋であり、今でも好きだ。それなのに、それなのにさ。そんな感じで言われると、すごく辛いんだけど。
「そ、ソワール! 好きだ!」
ソワールなら、俺が無能でも一緒に居てくれる。そのはずだ。
「レイク様、貴方に対して愛情みたいなものは一切ありません。分かりますか? すべて演技です。だからそう言うのは迷惑です」
もう、何もかもが嫌になって来る。もういいや。もう頑張らない。