03. エミリコは呪われている
エミリコと出会ってから一年程が経った。
今日も、2人で城を抜け出して城下町に来ている。
ちょうど "鑑定の儀" という祭事が近づいていて、城下町はいつも以上に賑やかだ。視界に見える人々は楽しそうな様子。あちらこちらに屋台が並び、楽器を演奏する者まで居る。
そんな賑やかな中、俺とエミリコは広場の噴水の前で串焼きを食べていた。
「おいしい! レイクももっと食べなさいよ!」
こいつ、どんだけ食べるんだよ。あっちこっちの屋台に引っ掛かっては食い物を買い漁ってるせいで、俺の腹はもう限界だ。
「太るぞ」
「ふとっ!? ねえレイク? デリカシーって言葉、貴方知ってる?」
「知らない」
「......だから貴方は友達が居ないのよ」
ふぁ!? こいつ、俺の心を抉りやがって! デリカシーのかけらも無い奴だな!
「うるせえ。お前だって友達いねえだろうが」
エミリコはむっとした顔で肩に軽くパンチを入れてきた。
痛くも痒くもないそのパンチは、なんだか妙に温かく感じる。
エミリコと一緒にいると、不思議と気が楽だ。出会う前までは訓練ばかりで息苦しい毎日だった俺にとって、彼女との時間はかけがえのないものになっている。
だからこそ、心が苦しい。ボスはエミリコを利用しようとしている。そして、俺はその計画に従い、彼女との仲を深めちまった。
......
「んん!? あっ」 うわ。ボケっとしてて、串焼きを服に落としちまったよ。
「ちょっと、大丈夫?」
「ごめん。ぼーっとしてた」
「ふうん。私が心配したのは串焼きの方なんだけどね」
「ひどない!? 俺は串焼き以下なの!? ......まだ食えるよ、3秒ルールの適応範囲内だ」
「まったく」と小言を言いながらエミリコはこちらに体を寄せる。そして辺りをちょろちょろ見てから、汚れた服に手を当てて呟いた。
「クリーン」
淡い光と共に服が綺麗になる。
————エミリコはさらっとやってのけたが、これは魔法。彼女が魔法を使えるのは特別なことだ。
ほんとエミリコは凄い。それに比べ、俺はいまだに魔法が使えない。"天才" と呼ばれているのに。......鑑定の儀が不安だ。
「ありがと、助かった」
エミリコは「ん」とだけ言って頷いたが、その直後に顔を曇らせる。暫くすると俯いて耳を塞ぐ。そしてブツブツと何かを呟き始めた。
「うるさい、うるさい、私は違う。そんな事考えてない。違う、違う。私はそんな嫌なこと考えない......」
......まただ。何なんだよ、これ。
この状態のエミリコに声をかけると暴れ出すことがある。だから、俺はただ彼女を見守ることしかできない。......何もしてやれねえんだ。それが歯がゆい。
————エミリコは呪いか何かにかかっているんじゃないかと思う。しかし、呪いにかかると体に痣ができると言われているが、体を調べても何も無かった。どれだけ調べても奇行に繋がる情報が見つからない。
しばらくして、エミリコは落ち着きを取り戻す。
「......ごめん。もう大丈夫!」勢いよく立ち上がり、空の串を人混みの方へ向け、言葉を続けた。
「さあ、レイク。いくわよ! 毎年、神様が世界を作った軌跡の劇があるの。一緒に見ましょ!」
「......ああ。行くか! 劇か、初めて見るなー」
クソッタレが。なんとかなんねえのかよ。まじで。
いつもエミリコは元気に振る舞う。俺はそんな姿を見ると、堪らなくしんどくなる。
「レイク? 人混みには気を付けてね? 貴方、迷子になっちゃうんだから」
「......ならねえよ。道は覚えてる」
何とかしてやりたいのに、時間だけが過ぎる。一体、どうすりゃいいんだ。