02. エミリコとの出会い
数日後、セルバーティの屋敷に行った。
到着した俺を出迎えたのは、初老の執事。
「レイク様ですね。お待ちしておりました。エミリコお嬢様の元へご案内いたします」
執事は丁寧に頭を下げ、屋敷の中へと導く。古びた石造りの廊下を進む間、執事はエミリコについて話し始めた。
「お嬢様は少々気性が荒く、癇癪を起こしやすいご性格です。時折、暴力的な行動を取られることもありますが...... どうか気を悪くなさらず」
暴力的!? ......気を悪くなさらずって言われても、怖いんだが?
内心ビビりつつ、執事の後をついていった。
やがて一つの部屋の前で止まると、突然扉が勢いよく開かれ、一人のメイドが泣きながら飛び出してきた。
「執事様! お嬢様が...... また水をっ!」
メイドは髪を濡らし、執事にすがりつく。執事は深くため息をつき、穏やかな声で尋ねた。
「なぜお嬢様は水をかけたのですか?」
「何もしていません。急にお嬢様が......」
執事とメイドが話している間、興味本位で部屋の中を覗き込んだ。
そこには一人の少女————エミリコが立っていた。彼女の長い黒髪は水を吸い、しっとりと艶めく。綺麗な翡翠色の瞳が印象的だ。全身びしょ濡れでありながら、その姿はどこか威厳があり、見とれてしまう。
......って、見ている場合じゃない。彼女の方がびしょ濡れだ。
急いで彼女の元へ向かう。ハンカチを取り出してそっと手を伸ばした。
「大丈夫ですか? ハンカチ......」
「触るな!」
大きな声と共に、鋭い目を此方に向ける。
顔は強張り、どこか怯えているように感じる。
え、これ、大丈夫? 仲良くなれる? ......いやいや、自分を信じろ、レイク。友達の作り方は勉強してきた。自己紹介だって100万回は練習してきた。大丈夫だ、俺なら出来る。
「初めまして、俺はレイク・オーグナーです。今日からあなたの従者としてお仕えすることになりました」
彼女は俺の話をじっと聞きながらも、未だに此方を警戒するように身構えている。暫くしてから「分かった」と短く答え、手を差し出してきた。
「握手」
「え? はい」
彼女の手をそっと取る。————その瞬間、エミリコの瞳がぱっと大きく開いた。数拍程の沈黙の後、それまでの不機嫌そうな表情が和らぎ、彼女の口元に小さな笑みが浮かぶ。
「エミリコよ。ねえ、あなた何歳」
「エミリコ様と同じ十二歳です」
エミリコは少し考える素振りを見せた後、微笑んで言った。
「そう。様は付けなくていいわ。普通に呼んでちょうだい」
あれ? 思ってたよりも全然気さくだぞ? "乱暴者で手がつけられない" って話はどこ行ったんだよ?
「レイク! 貴方、屋敷には来たばかり? 私が案内するわ!」
彼女は濡れていることなんて構いもせずに、楽しそうに俺を屋敷に案内しようとしている。その無邪気さに思わず笑っちまった。多分、こいつは良い奴だ。
濡れたままでは風邪ひくかもだし、案内の前に着替えたほうが良いよな。とりあえずハンカチ渡しておくか。
「ありがとうございます。でも、さすがにこのままだと風邪ひいちゃいますし、まずは服を着替えましょうか?」
執事は彼女の事を暴力的だと言っていたが、あれは何だったのだろうか。