01. 俺は悪い家に生まれた
俺は悪だ。
生まれた家が悪かった。
俺が生まれたオーグナー家はノースウッド領の暗部。領主にとって邪魔な者を消すのが仕事だ。
名前はレイク・オーグナー。
この世界では、髪の色が明るいほど特別な才能があるとされている。そして俺の髪は純白だった。
父親、もといボスはそれを非常に喜んだらしい。その場で俺を後継者に決めるほどに。
そんなもんだから、兄弟の中でも特に厳しい訓練を課せられた。中でも一番嫌だったのは、命を奪う訓練だ。
最初は蟻を殺すことから始まった。次にバッタ、カエル、ヘビと、少しずつ対象は大きくなっていった。
やがて猿、コボルト、ゴブリン...... その先は思い出したくもない。
命を奪うことは苦手だ。
......
だって、グロイじゃん! マジで血とか見たくないし、断末魔とか聞くと胸がキュッとしちゃうんだよね。マジで向いて無いんだわ。
それでも周りは俺のことを天才だと称える。理由はただ一つ、髪が白いからだ。それだけで天才扱いされるなんて、笑っちまうよマジで。
でも、家の期待に応えたかった。だから、必死に努力をした。
————そして俺が12歳になった次の日、ボスの書斎に呼び出された。
書斎は重苦しい空気に包まれている。古びた本の匂いとかすかに香る血の匂いが混ざり合い、鼻を刺激する。
ボスの近くには、血だらけの浮浪者みたいな男が椅子に括りつけられていた。
うわ、またかよ。......グロ。勘弁してよ。こういうの、本当に無理なんだけど。血とか見るのも嫌だし、マジで気が重い。
「レイク、来たか」
ボスの声はいつもより低く響く。俺は小さく頭を下げた。
「はい。何のご用でしょうか?」
「お前に任務を与える。領主の娘、エミリコの事は知っているな?」
エミリコ・セルバーティ。髪の色は黒く、出来損ないの娘だと聞いたことがある。彼女は難産の末に生まれ、そのため母親は命を落とした。それ以来、セルバーティの奴等はエミリコを呪われた存在だと見なして、ノースウッド領に隔離しているらしい。
「知っています。俺と同じ歳ですよね」
「そうだ。どうやら、エミリコは魔法が使えるらしい」
マジで? うっそやろ。
黒髪というのは、魔法もスキルも持たない出来損ないだ。さらに驚くべきことに、通常は13歳になるまで魔法やスキルを使うことはできない。ただし、一部の特別な才能を持つ者を除いては。エミリコが魔法を使えるということは、彼女がその特別な才能を持っているという証。
信じがたい話だ。白髪で天才と呼ばれている俺ですら、まだ魔法やスキルを使うことはできないのに。
「どこで、その話を聞いたんですか?」
「このクズが偶然見たらしい。なあ、そうだろう!? おい!!」
ボスはステッキを振り下ろし、浮浪者の顔面に一撃を食らわせた。骨が砕ける鈍い音が響き、浮浪者の呻き声が書斎にこだまする。
「うううぅ。 み、みました。しゃ、しゃぶの金は働いて返しますか......」
浮浪者が命乞いをする間もなく、ボスは再びステッキを振り上げ、容赦なく叩きつける。今度は歯が何本か吹き飛び、此方に飛んできた。
「黙れ、このゴミが!」
ひょえええーー 無理、朝ごはん口から出そう。
「今の話、聞いてたな?」
「......はい」
「お前がエミリコの従者になれるように手配する。どんな手段でも使って取り入れ」
取り入れって...... 無茶だろ。訓練ばっかりで、友達なんてゼロだし、同年代の女の子と話したことなんて皆無だぞ。
ここ最近でまともに話した女の人と言えば、メイドのソワールくらいだ。
「どうやって取り入ればいいんですか?」
「方法は何でも構わない。お前は見た目が良いから、色仕掛けでも何でも使え」
色仕掛け!? 友達すらいない俺がか!? ......無茶な話だけど、やるしかないのか。
ただ、殺す任務じゃなくて本当によかった。グロいのはマジで無理...... って、待てよ。これ、もしかして初めて友達ができるチャンスでは!?
「分かりました! でも、なんでエミリコに取り入らないといけないんですか?」
「鑑定の儀で特別な素質を得たとき、エミリコの評価は上がる。その時に手駒として使えるようにしたい」
......友達にはなれねえな。まあ、仕方がないか。生まれた家が悪かったって、諦めるしか、無いよな。