ドローンが彩る帰り道
「特に異常はありませんね」
休日を狙って、内科を受診してみた……ものの、そう医者には言われてしまった。あのゲレンデでの撮影の日からなかなか時間が取れず、一ヶ月ほど経った。今でも、蜂之音先生のことが胸の内側に引っかかる。本当に、どうしてしまったのだろう。
「うおーっ! すっげー!!」
帰路で突き刺さってきた、少年少女の歓声。
見ると、公園に小さな人だかりができていた。小さな子ども達と、その保護者らしき大人達。そしてその中心には……蜂之音先生。
『虻島町内会主催 ドローン体験大会』
公園の入り口に立てられた手描きの看板から、この状況を察することができた。
「なあ! 今のもっかい見して!」
「いいぞ」
先生は了承すると、手に持ったコントローラーでドローンに指示を出していく。先生のことだ。おそらくはそのコントローラーすらも「視覚的に分かりやすいように」以上の意味はないのだろう。そうでなければ、あのコントローラー一つで空中を舞う無数のドローンを縦横無尽に駆ることなんて到底できないはずだ。いくつあるか数えようとしたら頭が痛くなるほどの小さなドローン達は隊列を成し、垂直方向に四角く広がっていく。
すると。
「お雛様だー!」
ドローン達は光り、空中に雛人形の絵を浮かび上がらせたのだ。もうそろそろそんな時期かと意識を逸らした隙にも、ドローン達は多様なドット絵を描いていく。
ぼんぼり。
菱餅。
桜の木。
そのどれもが、周囲の全員から拍手を引き出すに十分すぎるほどのクオリティーを誇っていた。
「私、どろ~ん飛ばしてみたい!」
「僕も僕も!」
「ああ、一人ずつな?」
ドローンに魅了された子ども達が、我も我もと先生のもとへ集まり、手ほどきを受けていく。
先生に後ろから手を添えてもらいながら恐る恐る浮かべる子、はたまた、綺麗に着陸させることができて頭を撫でられる子。
……そんな光景が、私の"どこか"にカチッと嵌った。嵌って、押し寄せた。
私も、先生に撫でてもらいたい。
……羨望?
嫉妬?
どうしてそんな感情が?
「子ども達、みんな先生のことが好きなのね」
「そうねぇ」
私のすぐそばで談笑していた二人の保護者が、最速でその解答を運んできた。
……「先生のことが、好き」。
そうか。
そうだったんだ。
ようやく分かった。自分の、これまでの不調の原因が。
ずうっと私を悩ませていた胸の内の異物がカラダの奥底に溶けていくのを実感しながら、私は家路へと戻っていった。
心がふわりと軽いような、ずしりと重いような、不思議な気分だった。