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女王蜂@授業

「……と、このように侵入する角度によって空気の抵抗も変わってくるワケだ。そうなると当然速度に関わり、タイムにも影響する。前回の操縦体験でもやったな? それじゃあ、ドローンが障害物を越えるための経路を予測するシミュレーションを兼ねた練習問題をしてもらおう。プリントを配っていくぞ」


 一台のドローンが、教壇の脇に置かれていた紙袋からプリントの束をアームを使って取り出し、教室中を縦横無尽に……私達生徒の合間を縫って、配っていく。今、教室内にあるドローンは……プリントを配っているもの、先生の持っているタブレットの映像をプロジェクターから天井付近で映しているもの、その映像を投影するためのスクリーンを垂らしているもの、教壇の上にある教材をかたづけているもの……計四台。先生曰く、それらのドローンは靴の中に仕込んだ小型コントローラーから足の指を使って操作しているとのこと。先生は足で細かい作業をするのが特技なのだそうで、今のように座りながらはもちろん、歩きながらでも操縦できるらしい。背もたれ付き回転椅子から全ての行動を司っているその様はさながら、数年前に私が出演したドラマの主人公の「安楽椅子探偵」のようだ。回転椅子と、先生の着けているVRゴーグルが安楽椅子探偵には無い滑稽さを生んでいるが……そこを指摘する生徒はあまりいない。でもたまにいる。


 外部講師、蜂之音はちのね梨苺桃りいも先生。元々はプロのドローンレーサーで、世界ランカーになるほどの実力があったらしい。引退後の現在はテレビ番組などの映像撮影を請け負ったり、世界各地で講演を開いたり、操縦技術を生かした数学・物理の派生授業やドローン体験会を通じて子ども達にドローンの楽しさや有益さを教えているそう。最初の授業の自己紹介のときに先生本人がそう言っていた。この学校……星花せいか女子学園とは、卒業アルバムに使う上空からの写真撮影を依頼されてからの縁とのこと。


……そういえば、明日の撮影でも空撮シーンの予定があっt


「きゃあっ!」


 誰かの悲鳴。

 ガラスの割れる音。

 鈍い衝突音。


 何かと思って、問いていたプリントから目を離し顔を上げる。


理加さとか危ない!」


 不思議と、友人の声を認識する方が早かった。


 プロジェクターを提げていたはずのドローンが、目の前に墜落してくることよりも。


 人は、事故に遭う瞬間をスローモーションのように感じることがあるらしい。

 けれどそれに対して適切な行動をとることができるかどうかは、また別の話なわけで。


 落ちて、落ちて、近づいて。

 止まった。


「……っと。大丈夫だったか?」


 どうやら、すんでのところでプリント係のドローンが弾き飛ばしてくれたらしい。蜂之音はちのね先生が、私に駆け寄ってきた。VRゴーグルを外した先生は、安堵の表情を浮かべている。


「は、はい……」


 体の不調だろうか。何故だか、胸の真ん中あたりにチクっとした痛みを覚えた。


『すみませ~~~ん! ボール蹴りすぎちゃいました~~~! こっちに戻してもらえますか~~~?』


 窓の外、階下から声がする。

 ふと見まわすと、教卓の前にサッカーボールが落ちていた。


「その声は綿式わたしきか。気ィつけろよ」


 はぁ、とため息をつきながら教卓へと戻った先生がボストンバッグから取り出したのは、災害用の携帯式バッテリーのような見た目の、取っ手のついた金属製の箱。側面には、六角形の模様がいくつも描かれている。


「……よし、かたづけるか」


 先生がタブレットを操作すると、六角形の模様が開き、そこから無数の小さなドローンが飛び出してきた。

 サッカーボールを窓の外へ投げるドローン達。

 割れた窓ガラスの破片を集めるドローン達。

 破損したドローンを回収するドローン達。

 一つ一つはあまりうるさくなくても、ここまで同時に飛んでいるとさすがに飛行音が耳障りになってくる。


「せ、先生はいくつドローンを操れるんですか!?」


 騒音のなか、クラスメイトの一人が聞いた。


「いっぱい、だな」


 そう答えた先生は、なんとなく誇らしげだった。


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