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旧約 マグノリアの連換術師  作者: 大宮 葉月
二章 皇太女と砂月の君 前編
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二十七話 錬成

「チッ⋯⋯汚水の量が思った以上に多すぎる」


 触れる端から間欠泉のように汚水を竜巻で巻き上げるが、巨大カエルの着水により氾濫した汚水の濁流は尚も周囲に溢れており迂闊に身動き取れない。

 向こうの通路の方から聞き慣れない言葉の悲鳴のようなものも聞こえてくる。俺達が後をつけようとしていた過激派の奴らも巻き添えにあったらしい。


「後輩、そのまま風を維持して。清流を連換して風と結合する!!」


 竜巻の隙間から浸水しようとしてくる汚水を、水を連換して食い止めていたアクエスが棍を高速で回転させながら叫ぶ。普段の彼女からは想像も出来ない覇気に気圧されるが、言われた通り風の勢いは緩めない⋯⋯。


「うわっ!? 本当に君達二人に任せて大丈夫なんだろうね!?」

「今更過ぎるだろうが!? 心配しなくてもしっかり守ってやるから安心しろ!!」

「アルさん!! 私の近くに寄ってください!!」


 シエラがグローブを右手に装着しながら叫ぶ。

 手首の関節部分を保護する金具にある玉溝には、空のように青い連換玉が嵌っておりキラリと輝いていた。


「元素⋯⋯収束」

「ん、ちゃんとエーテルと水の元素を必要な分だけ取り込むこと出来てるよ、シエラ。その調子」

「気を配っていただき感謝します、アクエスさん!! 元素解放!!」


 掛け声と共にシャボン玉のような水の膜がシエラとアルを覆うように連換された。

 汚水といえども水は水。これなら、汚水の侵入はしばらくの間防げるかもしれないが根本的解決にはならない。


 強風で周囲と遮断されているからか、周囲のエーテル残量がかなりの勢いで目減りしているのが感覚で察する。つまりこの状況は長くは持たない。


「まだか!? アクエス!?」

「ん、準備完了。いくよ!! 元素結合!!」


 棍の中央の持ち手、龍の顎門から吐き出されるように大量の清流が荒れ狂う風に纏わり付いていく。意思を持つかのようにうねる水の奔流は、瞬く間に竜巻と一体化した。


「これは⋯⋯??」

「水の連換術の特性『結合』。連換した水を異なる元素と結びつけることが出来る。というか、連換術師なら知ってて欲しい知識」


 ようやく棍の回転を静止させたアクエスが、呆れるような視線を向ける。そんなこと今言われてもなぁ⋯⋯。風の連換術の特性だって死にかけて初めて気付いたくらいだし。俺のそんな煮え切らない態度に何処か思うところがあったのか、彼女はポツリと呟く。


「⋯⋯本当にグラナがあの人の弟子??」

「え?」


 何だ?? 小さくて良く聞き取れなかったけど⋯⋯なんか重要なことを言ってたような??


「二人共、お喋りは後にしてくれ!! あの巨大カエルくん、こっちに向かってくるぞ!!」


 アルの怒声にハッと前を向くと、巨大カエルが両足をたわむように力を溜めているところだった。再びあの巨体で宙に飛び上がるとすれば、まき散らされる汚水は先ほどの比では済まないだろう。


「もう一回あれをやられたら次は防ぐの厳しそう」

「同感だ。カエルには気の毒だが、ここで仕留めるしか無さそうだな」

「師匠!? 無茶です!?」


 水の膜を維持したまま、シエラが震えを抑えることもなく驚き声を上げる。

 よく見れば息も荒い。才能があるとはいえ連換術の扱いに慣れていないシエラが、連換した水を維持するのは心身共に負担がかかっているのだろう。


 やむを得ない⋯⋯か。


「アル。シエラを連れて先に行け。次にアレをやられたら守りきれそうに無い」

「了解だ。僕達が残っても足手まとい⋯⋯だろうしね。直にジャイルくんが応援を引き連れて戻ってくるはずだ。それまで耐えてくれよ」

「え?? し、師匠!?」

「シエラ、お願い。貴女達の安全が最優先」


 アクエスのいつに無い真剣な声音にシエラもぐっ⋯⋯と口惜しそうに唇を噛む。

 俺はそんなシエラの頭にポンと手を乗せる。大丈夫と口には出さずとも伝わると信じて。


「後でちゃんと追いつくから。⋯⋯アルが無茶しないか、見張っててくれ。今はお供のジャイルもいないしな」

「わ、分かりました⋯⋯。師匠も無理しないでくださいね?」

「あんなカエル如き、問題無いさ。さぁ、今の内に」


 不安そうなシエラをアルの方に送り出し視線で目配せする。

 アルがコクリと頷いたのを確認し、俺は巨大カエルを牽制しているアクエスの隣に立った。

 汚水から身を守るために強風を連換した代償か、消臭霧も吹き散らされたようで容赦ない悪臭が鼻腔を突く。仕留めるにしても短期決戦を仕掛けないと悪臭で鼻がいかれてしまいそうだ。


「さて、どうする先輩??」

「悪臭も脅威だけど、触れるだけでもこっちの生命エーテルが汚染されそう。まずは、こっちにおびき寄せて⋯⋯!?」


 突然アクエスに腕を引っ張られて驚くが、目の前に迫るあるものを見てギョッとする。

 巨大カエルの口から勢いよく発射されたのは、奴の身の丈以上に長く強烈な刺激臭を放つ舌だ。

 咄嗟に避けた俺達の背後の壁を直撃したそれは、信じられないことに石壁を粉砕し破片を絡めとって再び奴の口に戻る。


 あのカエル⋯⋯明らかに俺達に敵意を持ってる? と思わざるを得ない攻撃だ。

 それにしても、あの馬鹿でかい巨体はどうやったら止められる??

 冷静に奴の次の行動を見定めていると、意図せずしてアクエスと背中合わせになった。


「後輩、元素固定した風刃は飛ばせる?」

「いや⋯⋯。俺の連換術は遠距離戦向けじゃ無いからな。それにあのぶよぶよとした肉に、斬撃の効果は薄そうだ」

「意外、ちゃんと見てたんだ?」

「あんな異常生物を拝むのは初めてだけどな。⋯⋯!! 来るぞ!!」


 背中合わせでやり取りしていた俺達にカエルが両足で地面を蹴って襲いかかって来た。

 あんなのに潰されたらたまったもんじゃない⋯⋯。両足から風を連換して脚力を強化し、急いでその場から離れる。

 せめて触れることさえ出来るなら、風穴をブチ開けてカエルの体内に浄化の風を送りこむことも出来るのだが⋯⋯。


 人間相手だったらいくらでも弱点思いつくのに、カエル相手に有効な戦法なんて思いつかない。


「よっと⋯⋯動きが鈍いから躱せなくは無いけど、このままじゃジリ貧」


 アクエスが棍を棒高跳びの棒のように扱って宙を舞い、カエルから距離を取る。

 あの分厚い肉を貫通するほどの威力を持つ決定打が今すぐにでも欲しい。何か鋭くて尖った⋯⋯。


「あ⋯⋯」


 あるじゃないか。モスクで俺に取り憑いてる精霊と意識を同調させた時に、無意識で出来たあれが。確か⋯⋯こんな感じだったはず。


「元素⋯⋯拡散」


 左腕に無意識に纏わせている籠手のエーテルイメージを崩し、騎士が持つ馬乗用のランスの形になるように変換。籠手を嵌めた左腕がずっしりと重くなったような錯覚を覚える。


「元素⋯⋯固定」


 ランスの形を成したエーテルが崩れないように、風の元素で固定する。

 いわば、これは風の連換術で作った『武器』だ。風を連換するより遥かに強烈な負荷をも感じる。⋯⋯維持するだけでもエーテルが大量に必要であり、長期戦なんて出来そうもない。


「嘘⋯⋯エーテルイメージの『錬成』なんて出来たの?」

「モスクで精霊の意識と同調した時にな。身体で覚えたんだよ」


 体力の消耗を抑えつつ、驚くアクエスに手短に答える。何はともあれこれなら触れずに一撃ぶちかませる。


「アクエス、消臭霧はまだ使えるか?」

「香水の残量が心許ないけど、まだ大丈夫」

「それを聞いて安心した。テロルの花には僅かながら生命エーテルの浄化作用がある。霧をあのお化けカエルに思いっきり噴射してくれ。そしたら、俺が仕留める」

「了解、行くよ!!」


 元素⋯⋯同位。


 カエルに向かって走りながらアクエスが連換術の発動準備に入る。

 俺も左腕の『ランス』の先端を真っ直ぐ向けて、全速力で駆け出した。

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