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旧約 マグノリアの連換術師  作者: 大宮 葉月
二章 皇太女と砂月の君 前編
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六話 愛弟子の連換術属性

 機関室に辿りついた俺達は、内部の異様な熱気に思わず後ずさる。室内の温度が異様に高すぎる。汽車を走らせる動力を蒸気で賄っているのだから、暑いはずではあるのだろうけど。


「暑いです。師匠⋯⋯」


「確かに……蒸気が漏れてむわっとしすぎてるな」

 

 機関室の中は白い霧が立ちこめるサウナ常態になっていた。

 中で異常を見つけるにしても、ものの数分でのぼせそうだ。汽車の仕組みなんかそこまで詳しく無いぞ? 石炭を放りこんで火力と水で蒸気を発生させて、蒸気圧でピストンを動かして車輪を回すんだっけか?

 

 加えて、最近の汽車は安定した動力として火力を補助する火属性の連換玉、ボイラー内部の水量の調整をする為の水属性の連換玉が使われてるらしいが。


「まずは内部の熱を逃さないとだな、風でなんとか出来るか?」


 連換術で生み出せる自然現象は、行使するエーテルの属性でも変わってくる。

 例えば風の元素を火属性のエーテルで行使すれば温風に、水属性のエーテルで行使すれば冷風になる。

 

 単純に威力を高めたいときや、土の連換術のように特性を活かしたいときは同じ属性のエ—テルを行使するのが基本だ。

 幸い機関部内にある水属性の連換玉が、水属性のエ—テルを常に生み出しているので冷風を纏えば室内の高温にも耐えれるかも知れない。


「冷風を連換して室内の温度を下げた後、その後で俺たちも冷風を纏ってから踏み込んでみるか」

「冷たい風ですか? 連換術のことについてなら、詳しく聞きたいですが今は我慢します」

「これが済んだら、幾らでも詳しく教えるさ。まずは、汽車を止めないとな」

 

 そうと決まればやるべきことは至極単純。

 連換術師らしく超常現象は元素を用いて解決する。


「元素収束」


 左手の連換玉に風の元素と水属性のエーテルを大量に取り込む。

 機関室の入り口は外と直結しているので、元素残量を気にする必要はない。


「元素解放!」


 機関室内に身も凍えるほどの冷風をありったけ流し込む。中の熱気と反応して水蒸気のような霧が生まれるが、徐々に内部の温度は下がっていってるようだ。

 これなら冷風を纏わずとも突入は問題ないはず。

 恐る恐る機関室を覗き込もうとすると、シエラに上着の袖をくいっと引っ張られた。


「ん? どうした? シエラ?」

「またです、師匠。機関室の中から妙なエーテルの気配です。何だろうこれ? 火と水の連換玉から産み出されているエーテル同士が反発し合って、蒸気機関の中で喧嘩しあっているような——」


 随分と抽象的な表現だな。火と水が相入れないように、両者の属性を兼ね備えたエーテル同士も相入れないのは当たり前のことだけど。ただ、エ—テル同士が“反発”し合うなんて聞いたことが無い。そんなことが出来るとしたら、エーテル以外の要因か?


「ん? あれは——」


 霧が少し晴れて見通しの良くなった機関室を覗き込むと、圧力計辺りに真っ白なやや大きい卵形の何かがはめ込まれている。

 

 似たような形状の物を二ヶ月前、マグノリアでも見たことを思い出す。

 取り込んだエーテルを変質させるだけでなく、街に巨大な『火の精霊(イフレム)』の印を刻んだ通常では有り得ない機能を兼ね備えた黒い連換玉。

 確か、聖堂の司祭と直接対峙したクラネスの話しだと黒色玉(ニグレド)という名前らしいが。それの色違いだろうか?


「あれです、師匠。あの白い卵形の何かが、火と水のエーテルに干渉して反発させ合ってるみたいです」

「圧力計のところに本来嵌められていたのは、風の連換玉だろうな。誰がこんなことを⋯⋯。そういえば実験とか言ってたな、あいつ」


 となるとあの白い連換玉さえなんとかすれば、汽車の暴走は止まりそうだが。問題は干渉するには連換玉と同じエーテル属性の術者がいないと出来ないこと。最悪無理やり取り外して破壊するしか無さそうだ。

 

 二ヶ月前みたいにシエラに無茶はさせられない。あのときは、街中が変質した聖女のエーテルに覆われていたからこそ出来たことであって、本来なら使役者が既に決まっている連換玉の制御を乗っ取るなんてこと、とてもじゃないがさせることなんて出来ない。

 

 最悪、乗っ取りに失敗すれば連換玉に取り込まれた使役者のエーテルで、自らの体内エ—テルが乱される危険性だってあるからだ。


「師匠、ひとつ思いついたのですが」

「白い連換玉の制御を乗っ取るのなら駄目だ。あの時とは状況が違う。危険があるかもしれない。念のため入り口あたりに待機しててくれ」


 シエラを下がらせて、圧力計に嵌められた白い玉に手を伸ばす。

 堅いなこれ、ガッチリ嵌ってて取れない。

 なんとか取り外そうと試みるも、ロックされてるのかうんともすんとも言わない。

 

 蒸気圧も異常だ。制御弁がほとんど機能していないんじゃないか?

 そのとき、白い連換玉から異様なエーテルが吹き出し、機関室を再び高温に戻した。


「熱っ——」

「一度出ましょう!!  師匠!!」


 あっという間に元の高温状態に戻ってしまった機関室から急いで抜け出す。

 もう大河を渡る鉄橋に差し掛かるまで時間が無い。このスピードでカーブに突っ込めばとてもじゃないが無事で済むとは思えない。

 

 アルの話だとラスルカン教過激派にとってシエラは必要な存在のはず。何故こんな危険に晒すようなことをする?

 

 それとも、この列車ジャック事態が俺とシエラを狙った根元原理主義派(アルケ—)の仕業か?


「師匠。あの白い連換玉ではなくて、水の連換玉に干渉するのは駄目ですか?」


 滝のような汗を流しながらシエラは俺の瞳を真剣な表情で見つめる。

 確かにその方法なら危険は無いだろうが、何か考えがあるのだろうか。


「汽車は蒸気で動いてるのですよね? 常にボイラーの内部の水温を低温にして一定に保てば蒸気は生まれず、徐々にスピードは落ちていくのでは?」

「確かに、蒸気が出なくなればピストンが動かなくなるから、速度は落ちて動きは止まるか。よし! それでやってみよう!」


 シエラはコクリと頷くと熱気が漏れ出す機関室の正面に立ち、意識を集中する。すると彼女の体から虹色の糸のようなエーテルが現れて、機関部に取り付けられた水属性の連換玉と接続した。


「接続確認した。——やり方は覚えてるな?」

「もちろんです。任せてください、師匠!!」


 シエラの身体から伸びた虹色のエーテルが静かに輝きだす。連換玉に自らの体内エーテルを染み込ませて使役者として承認させる。

 この承認を経て、初めて連換術師は己の身体に宿っているエーテル属性の連換術を使うことが出来る。本来なら時間がかかるのだが、シエラの持つ特別な虹色の七色属性のエ—テルはどうやら容易に、それも四大属性全ての連換玉を承認させることが出来るらしい。


「連換玉の制御完了です。師匠」

「相変わらず凄いな。よし、まずはボイラー内部の温度を下げよう。水の元素と水のエーテルで冷水を連換してみるんだ」


 分かりました、師匠。と、返事をしたシエラは水の連換玉に意識を集中し始める。

 機関部に嵌められた水の連換玉が青色に輝き始めた。


『元素⋯⋯収束』


 連換玉に大量の水の元素と、水属性のエーテルが取り込まれていく。

 マグノリアの一件があった後、ロレンツさんにシエラを弟子にしたことを打ち明けると、彼はその場でいくつか予備で取っていた四大属性の連換玉を譲ってくれた。

 シエラの本来の連換術の属性は協会本部で計測しないと分かりようが無いが、おそらく俺は水属性ではないかと睨んでいる。

 四つの属性の連換玉と接続してみて、一番相性が良かったのが水属性の連換玉だったからだ。

 本人も満更では無さそうで、エリル師匠から貰った連換術の教本の水属性の項目を繰り返し読み込んでたくらいだしな。元からあるエーテルを無意識化で感じとる才能といい、現時点でE級の実力ぐらいはあるかも知れない。


『元素解放!!』


 シエラの叫び声と共に、水属性の連換玉が勢いよく輝きだす。よし、上手くいった⋯⋯あれ?


「水が連換玉から溢れちゃった??」


 連換した冷水をエーテルで誘導する向きを間違えてしまったようだ。勢いよく流れる冷水でみるみる内に機関室は水びだしになっていく。

 

 いつのまにか機関室内の謎の高温状態も徐々に収まってきている。不幸中の幸いかボイラー内部にも冷水は注入されたようだ。

 

 一瞬だけ汽車のスピードが一時的に上がったが、徐々にスピードが落ちてきた。

 よし、今のうちにブレーキを思い切りかけてやれば……。


「シエラ、そのまま冷水を連換し続けろ!! 今のうちにブレーキをかける!!」

「りょ、了解です!! 師匠!!」


 ありがたいことに耐熱性グローブがそのまま放置されてある。煤まみれのグローブを拝借して俺はブレーキを思い切り引いた。

 ギィィィィー⋯⋯という耳障りな金属音が響くと共に汽車のスピードがみるみる落ちていく。


「と ま れ ———!!」


 カーブを緩やかに蛇行し、大河と平行に架けられた鉄橋の入り口付近でようやく、暴走した汽車はその動きを完全に停止した。

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