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旧約 マグノリアの連換術師  作者: 大宮 葉月
断章 貴族街の神隠し
25/222

一話 汽車に揺られて

 カタン、カタンと小気味よく車輪がレールを走る音で目が覚めた。

 朝早くにマグノリアステーションからシエラと一緒に皇都行きの汽車に乗り、座席に座った後どうやら眠ってしまったらしい。

 くぁ……と欠伸をしながら前を見ると、向かいの座席でシエラが車窓から景色を眺めている。


「悪い、寝ちゃってたみたいだ。今は何駅目ぐらいだ?」


「えっと、三駅目のオルトラインを過ぎた辺りです。それにしても、よく寝てましたね? 師匠」


 対面に座っているシエラがこちらを振り向きながら、教えてくれた。

 俺は上着のポケットから懐中時計を取り出して現在時刻を確認する。

 時計は十一時を指しており、皇都への到着予定時刻は午後五時くらいだ。つまり、まだまだ先は長い。


「雑貨屋の在庫整理に、商業組合に一時休業の届け出とか、色々やることあったからな……」

「出立前にお店の在庫だいぶ減って良かったですね」

「シエラも頑張って店番やってくれたおかげだ。ありがとな」


 俺の感謝の言葉にシエラは「これも弟子の務めですから!」と小さな胸を張る。

 実際、シエラが店に立つようになってから店の売り上げは急激に伸びている。

 中には初々しい新人店員目当てで来店する客もいるぐらいだし。

 ちなみに俺たちが留守の間はレンブラント商会に委託販売を頼んでおり、売り上げ金などは戻ってから受け取れるようにとソシエが手配してくれている。

 キーリの爺さんから継いだ色々な思い出が詰まった店だ。それと、俺にテロルの花の香油の作り方を教えてくれた、今はもういないアイツとの約束もある。

 市街騎士団を辞めたのもこの約束あってのことだけど、後悔は無いな。

 俺はしばし、過ぎし日の思い出に浸る。

 車窓から外を眺めると、ちょうど大きな鉄橋に差し掛かったところだった。

 見えてきたのは皇都の方からマグノリアの西に蛇行し、港湾都市セイルを通り南紅海(なんこうかい)へと流れ着くエルボルン大河だ。水源は皇都の北にある山岳地帯からの雪解け水であり、エレニウム帝国の繁栄を担ってきた大河でもある。


「大きな大河ですね!」

「大陸一の川幅と長さを誇る帝国の繁栄を象徴する大河だからな。あれ? 見るのは初めてか?」


 シエラはコクンとうなづくと、車窓から見える雄大な大河の景色に見入っていた。川面に水鳥が水面に浮かんでは、水中の獲物目掛けて潜って行く様子を興味深そうに眺めている。


「マグノリアに連れて来られたときは陸路だったので。何日も窮屈な馬車の中で外を見る余裕なんてありませんでしたから……」


「そ、そうか……。それは、大変だったな……」


 例え教会に権威があろうが過激派なんて連中が、大っぴらに汽車なんて使えるはずも無い。

 ただまぁ、こうやって一昔前には考えられなかった汽車なんてものが大地を走ってる時点で、そのうち機械で出来た個人用乗り物なんてものが出てきそうな気がしないでも無い。

 マグノリアといえば、そういえばシエラに聞きたいことがあったような……。

 この際だ、なんで知ってたのか聞いとくか。


「……そうだ。二ヶ月前のあのときのことでシエラに一つだけ聞きそびれていたことがあるんだが……」


「なんでしょう? 師匠?」


「街が『火の精霊イフレム』の印に覆われていて、打ちひしがれる俺にお前がかけた言葉だよ。”精霊から祝福されたあなたの風”だっけか? あれはどういう意味だ? で、なんで俺が風を呼べるの知ってたんだ?」


「え? え—と……」


 なんだ? シエラの奴、急にそわそわし始めて視線を逸らしたような?

 二ヶ月近く、一緒にいて分かったことはシエラがこういう態度を取るときは話したく無いか、何か隠し事があるときだ。

 気になるといえば、気になるんだよな……。なんでシエラが俺が風を呼べることを知っていたのか。


「えと……。それは……あれです! 聖女の子孫の勘てやつです!!」


「それ、全く答えになってないからな?」


 あうう……とシエラはしょげたポーズを取って見せる。

 最近、可愛い弟子の可愛い仕草にもだいぶ耐性がついてきた。

 まぁ、締めるところは締めないと。……シエラの連換術の師匠になった訳だし。


「意地悪です……。師匠……」


「いや、ただなんで知ってたのか知りたいだけなんだが……」


「師匠……。あのときのこと、……覚えてないのですか?」


 あのとき? なんだ? どういうことだ? いったい……?

 俺がポカンとしてると、シエラは拗ねたようにぷいと顔を横に向けた。


「思い出してくれないなら、私から話すことはありません」


「えっと……? もしかして、昔どこかで会ったことでもあるのか? 俺達?」


 だが、シエラの意思は固いようで心なしか怒ってるようにも見える。

 まずい……。こうなったシエラは早いとこ機嫌を直してくれないと三日間ぐらい口をきいてくれない……。


「悪かった。皇都に着いたら、りんごパイ三個買ってあげるから……」

「五個です。五個じゃないと許しません」

「分かった……。五個だな、約束する」


 誠心誠意、頭を下げて謝罪する。

 ……どっちが師匠か分かったもんじゃない。そんな俺の態度が流石に不憫に思ったのか、シエラもばつが悪そうに表情を緩めた。


「私も大人気なかったです。ごめんなさい、師匠……」

「……ああ。俺のほうこそ、ごめん。気を悪くさせたみたいで……」


 座席内に気まずい空気が流れた。……どうすればいいんだこの状況。

 そんな俺を気遣うように「そ、そういえば!」とシエラが無理に大きな声を出して話題を切り替える。


「師匠とソシエさんは、どのようにして知り合ったのですか?」

「え? ソシエと? どうした、いきなり?」

「以前、ソシエさんから聞いたんです。師匠と初めて知り合うきっかけになった事件があると」

「ソシエが話したのか……」


 あいつと知り合うきっかけになった事件か。色々なことが起き過ぎて、当時は余り把握出来ていなかった事件だ。振り返ろうにも市街騎士団で保管されている捜査資料は閲覧禁止だったはず。


「それで、どんな事件だったんですか?」


 シエラが興味深々といった様子を隠そうともせず続きをせがむ。一年前のマグノリア貴族街で起きたとある事件。あれは……そう。春先のまだ風が冷たい時期の頃。


「貴族の子供達が立て続けに、いなくなる事件があったんだ」


 そして、俺は語り始めた。一年前の記憶をあたかも追体験するように。マグノリアの貴族街で起きた『神隠し』について。

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