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“俺”

作者: 雉白書屋

 朝。目を覚まし洗面所に行き鏡を見た、ぼ、俺は驚いた。

 ……頭に変なものがついている。

 デカイおたまじゃくしみたいのが両サイドに二つずつ。

黒くて寝癖かと思ったけど触ってみると硬い。

イボ? 粘着? クソ生意気な妹の悪戯か?


「おはよ。ねえ、俺のあた――」


「ん、お兄ちゃん、なにそれ! あはははは!」

「おおー! はははは!」

「あら、あはははは!」


 リビングに行くと家族全員大爆笑。飼っている金魚まで俺を笑っている気がした。


「わ、笑うなよ!」


「ふふふ、でも可愛いじゃない」

「そうそう、お兄ちゃん、女の子みたいだよー」


「お、俺は男だぞ! こんなのつけて学校行けるかよ!」


「ふふっ『俺は男だぞ』だってさ、可愛い子ちゃんがねー」


「おい!」


「痛い!」


「こらこら、朝からやめなさい」


「でも父さん、俺……」


「ふふっ、まあまあ。そのうち馴染むか何かなるだろう。

さ、それより朝ごはん食べて学校行く支度しなさい」


 俺はしぶしぶ言うとおりにし、家を出た。

 教室に入るとやはり思っていた通りの反応。


「お、お前、それ、ふふははは!」

「あははは! かわいいー!」

「お? 取れねー! どうなってるんだこれぇ! あはは!」

「どういう風の吹き回し? はははっ!」


「うるせえな、俺だってわからないんだよ!」


「ひゅー、かっくいい」

「お、イメチェンか? はははは」

「まあまあ、いいじゃん」

「そうそう、そのうち馴染むって」


 散々からかわれ、でも不本意ながら奴らの言うとおり、何日かすると馴染んだ。

 俺自身もそうだが、周りもだ。

すると、不思議な事にいつの間にか俺の頭についていたあの黒いのは消えていた。

 徐々に小さくなっていったのかある日突然消えたのかどちらかはわからない。

まあ、なんでもいいや。悩みから解放されたんだから。




 と、いう話を今ふと思い出したのは今日が中学の同窓会だからだろうか。


「おいっすー」

「久しぶりー!」

「元気してたかー?」


 老けたけど、みんな面影があった。それがなんだか不思議だ。

おっと、老けたなんて言ったら顰蹙を買ってしまうな。

 まだみんな二十代。ぼちぼち仕事に慣れ始めた頃だ。

大人びたって言ったほうがいい……と、そうだ。いい機会だ。


「なあ、昔さ、僕の頭の横に何かついてたことなかったっけ」


「んー? 何かって……ははは!」

「はははははっ! おい、みんな見てみろよ!」

「え? あははは!」


「え、なんだよ」


「お前、頭につけてるのなんだ?」

「ふふふふっ、かわいいー!」

「ははははっ、写真、写真!」


「え、嘘だろ? また? また僕の頭に――」


「ふふっ、“僕”だってさ」

「さすが、一流会社に就職したやつは違うなぁ上品、上品」

「え? そうなの?」

「そうそう、俺は高校まで同じだったけど、こいつはいい大学に入ったんだよ」

「あー、それで言葉遣いもねぇ」

「あれ? でも昔も彼って“僕”じゃなかった?」

「あー、そうそう! こいつある日いきなり“俺”に変えてきたんだよ」

「はははっ、あったあった!」

「ああ、急だったし険しい顔してたからあれ笑ったなぁ」

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