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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
5.凍魔、覚醒

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5.14.鎧たちの告白

 雪が弱まりつつある、トラルタの海岸近く、低木地帯。

 ディゼムはそこに黒い鎧を着地させ、親友とその相棒に呼びかけた。


「アケウ、エクレル」

「どうしたの、ディゼム」


 アケウも白い鎧を降下させ、その先を促す。

 ディゼムは左手だけで黒い鎧の兜を脱いで――右腕は巨大な増加装備に覆われているのだ――、礼を言った。


「助かった。本当にありがとう」


 すると白い鎧から、鈴の鳴るような女の声が発せられる。


『アケウにはともかく、当機にも礼を言うとはな。また雪が強まりそうだ』

『エクレルの軽口はともかく、当機も同じ気持ちです。

 二人とも、感謝します』


 黒い鎧からプルイナがそう言うと、アケウも白い鎧の兜を脱ぎながら言う。


「立場が逆でも、君たちは同じことをしてくれただろ。気にするなよ」


 と、そこで彼は、北の方角を指さした。


「ところで、僕はあの岩の所に持ってきた物を置きっぱなしにしてる。

 ちょっと取りに行ってくるから、君たちは……」

「あぁ、そうか。俺は一旦、あそこの仮説拠点に戻る」


 ディゼムも、稜線の向こうに見える急造の施設を指さす。

 二人は一度別れ、全体の状況も事後処理へと移りつつあった。


***


 凍魔が滅びたその日の午後。

 ディゼムは黒い鎧を着装したまま、トラルタの出入り口となる大岩の前に立っていた。

 ジャイガンティック・ゴーントレットは外して、関所の近くに置いてある。

 彼は外部音声を起動して、合言葉を唱えた。


「セディオ・セディアク!」


 すると、視界が一瞬で切り替わり、森の中になる。

 凍魔を殺したことで、本当に結界の作用が元に戻ったのだ。


「すげぇ、本当に出れた……」

『すぐに戻りましょう。

 メクウィス・ウォミノク!』


 プルイナが外部に向かってそう音声を発すると、ディゼムの視界は再び切り替わり、トラルタの中へと戻る。

 彼は意外な気分で、呟いた。


「え、お前の声でも認識するんだ……」

『そのようですね。これならば、ホウセの槍も問題なく作用するでしょう』

「でも、やっぱ出入りを悪魔に見られたら不味いのは変わりねぇよな……」

『我々が、岩の周辺の地下に施設を作るという手が考えられます。

 インヘリトからそこに転移して、地下で合言葉を唱え、トラルタ内部の地下に作った同じような施設に転移する。

 もっとも、移動の前後の位置関係を検証しなければなりませんが』

「そうだな。とりあえず、宮殿に戻るか」


 仮設拠点は、既に撤収が始まっている。

 ディゼムたちは、出入りの検証を見守っていた青騎士たちに手を振って、宮殿へと飛び立った。


***


 宮殿に戻ると、何とファリーハがいた。

 白い鎧をまとったアケウを伴ってはいるが、彼女の方はいつものポニーテールではなく、髪を編み込んでいる。

 王女は微笑んで、ディゼムたちを労った。


「お疲れさまでした、ディゼム、プルイナ。

 ホウセともども、苦労をかけてしまいましたね」


 それより、と、ディゼムは鎧の兜を脱いで驚く。


「姫様!? どうやってここに!?」

「召喚の魔術紋様を使ったのです。具体的には、あれを」

「召喚……!?」


 彼女が指し示した先――宮殿の広間の片隅に、高さ二メートル程度か、材木を組み合わせて作られた簡素な立方体が置いてあった。

 構成材には魔術紋様がびっしりと描かれており、トラルタの魔術師たちがその周囲に集まって、何やら記録などをしている。

 王女はそちらを見やりつつ、説明を始めた。


「まず我々はインヘリトにおいて、連絡が途絶したあなた方を救出するため、異空間に突入できる魔術具を試作しました。

 突貫で十二種類を作成して、アケウに渡し、同時にわたくしを召喚する組み立て型の立体魔術紋様も作って渡したのです。

 わたくし一人を指定して召喚する程度であれば、価格はともかく大きさはあの程度で済むので。

 あとは彼が試作魔術具を使ってトラルタに入国し、その中で召喚の魔術紋様を組み立てて起動し、わたくしをここに移動させてくれたという次第になります」

「そうか……アケウとエクレルが入ってこれたんだから、外から入るのは問題なかったってこと……スかね?」


 疑問形になるディゼムに、彼女は答えて、


「ホウセから話は聞いています。

 推察するに、恐らくその復活と同時に、凍魔が絶対にここから外に出られないよう、出口を閉じてしまう仕組みだったのでは?

 入口と出口は、同じ場所にあるように見えて全く違う仕組みになっている――という仮説ですが」

『テクノロジーの詳細についてはともかく、その運用については納得がいきますね。

 外部から入るのには何の支障もなかったのでしょう』

「それについては別の機会に譲るとして、既にエシア書記官長とも簡単な挨拶は済ませています。

 自己複製プリンターを供与するという話も、状況を考えれば妥当でしょう」


 王女の説明を聞いて、ディゼムはようやく、彼女がここにいる目的について思い至った。


「……ていうか、姫様はじゃあ、書記官長さんと話をしにここへ……?」

「えぇ。本来あなたがた外交使節が帰還してからという予定でしたが、通信が途絶えてしまいましたので……

 さすがにこれはまずいと、急いでアケウとエクレルを増派に送り込みました。

 ついでに、わたくしもお邪魔しているというわけですね」

「帰りはどうするんスか?」

「万が一悪魔に出入りを見られてはまずいので、二つの世界にまたがって存在するあの岩の地下に、転移の施設を作ろうと思っています」

『本機と同じ考えだったようですね』

「最悪の場合でも、一人用の小型保護セルを作って運んでもらおうと思っています。

 いずれにせよ、設置には鎧の助けが不可欠です。よろしく頼みますね、プルイナ」

『任せてください』

「では、わたくしたちは書記官長がたとの会談の準備がありますので、失礼」

『ファリーハ、すみませんが、最後に一つ』


 会釈する彼女を、プルイナが呼び止める。


「何でしょう?」

『自己複製プリンターの稼働できる期間は、ひとまず十年と期限を区切ってください。

 ここで詳細は語れませんが、あまり長期に渡って使用できない事情ができました』

「……分かりました。交渉するにしても、その方が手札としては良いかも知れませんね。

 では、改めて失礼」

「じゃあね、ディゼム、プルイナ」


 ファリーハとアケウは、会談に向かうようだった。

 彼はふと気になって、プルイナに尋ねた。


「……そういや、ホウセはどこだ?」

『もう通信機が使えますよ』

「そうだった……」


 ディゼムは言われて思い出し、思念で首元の通信機を作動させた。


「ホウセ、今どこだ?」

『宮殿の工房。どうかした?』

「いや……鎧直してるだろうし、手伝おうかと思ってさ」

『んー、じゃあお願いしよっかな』 

「じゃあ、邪魔するぞ」


 ディゼムは通話を終えると、黒い鎧の着装を解除して宮殿の工房へと向かった。


***


 工房では、ホウセが一人で、“原図”に戻した真紅の鎧の修復を行っていた。

 真紅の鎧は魔術紋様の凝集体であり、元の形に戻すと、運動場ほどの面積の方形の記述になる。

 その大半を畳み、一部の箇所だけを広げて修繕しているのだ。

 ディゼムと黒い鎧が中に入って来ると、彼女は軽く手を振って言う。


「おつかれー」


 凍魔を滅ぼしてから、ホウセはすぐに仮説拠点ではなく、宮殿へと撤収してしまっていた。

 まともに顔を合わせていなかったので、ディゼムは少しばかり安堵して、彼女に声をかけた。


「……直りそうか?」


 ホウセはペンで魔術紋様を描く手を止めず、答える。


「自動修復に関係する部分はだいたい直したとこ。

 あとは変形した箇所を削って、誤修正が起きやすそうな箇所だけ大まかに直すくらいかな」

「俺はどこを手伝えばいい?」

「えーと……トからルの、200から300辺りまでかな?

 その辺ちょっとややこしい箇所になってるから、明らかに歪んだ図形だけ削って欲しいんだけど」

「分かった。トからル、な……」


 ディゼムは大まかに畳まれていた“原図”を開いて、彼女の指示した箇所を探し当てた。

 さほど熟練者ではない彼が一瞥しただけでも、精緻な魔術紋様の記述が変形したり、歪められているのが分かる。

 そして、


「あ、()()()貸してくれ」

「ほい」

「おう」


 それ自体が魔術の器具である鋼鉄の紋様削除器――これもトラルタでは高級品と思われた――を借り受けると、ディゼムは魔術紋様を添木に当てて、変形箇所を削りにかかった。

 削りつつ、ホウセに語り掛ける。


「……話は変わるんだけどな?」

「なに?」


 視線は魔術紋様に向けたまま、彼女が返事をする。

 ディゼムは一度手を止めて、ホウセに視線を向けて続けた。


「……ちゃんと謝る。ごめんな、ホウセ」

「何の話ー」


 手を止めずに返事をする彼女に、ディゼムは気後れしつつ、説明した。


「いやこの前のさ……俺の母親の件」

「あぁ……もういいよ。気にしてない。

 人それぞれ、思うところは違うと思うから」


 ホウセも作業の手を止めて、視線を返して言う。


「あたしも……ちょっと余計なこと言ったかもって思うし……

 そこはその……ごめん」


 視線を逸らさず陳謝する彼女に、ディゼムは胸のつかえが取れたように感じて告げた。


「それこそいいんだ。俺もその……ここで見て思ったんだよ。

 書記官長さんとその息子のレブルが反目しあってて……

 そのレブルも娘のヘルディンとはうまく行ってなくて……」

「まぁ……そうだね」

「でもそこを協力してさ、凍魔を倒せたわけじゃんか。

 何て言うかな……俺も別に、あの人の言い分を聞くくらいはしてもいいのかな、ってさ」

「ふーん……」


 ホウセは紋様の修正を再開しつつ、彼に問う。


「仲直りしたいってこと?」

「それはまだ分からねぇよ……でも……」

「でも?」

「そのことでお前と仲たがいしたままなのは何ていうかさ……」


 ディゼムは、適切な表現を探して迷いつつ、口にした。


「嫌……だったから……」

「んー……?」


 彼女はうすら笑いを浮かべながら、半眼でディゼムを見て言う。


「それってもしかして……遠回しな愛の告白?」

「ばっ……いやっ……ちげっ……!」

「あはははは!」


 狼狽する彼を見てホウセが、声を上げて笑う。


「照れちゃってさー! あはははは……!」

「からかうんじゃねぇ……!」


 彼女のそんな表情を見るのは、不愉快な気分ではなかった。


***


 黒い鎧から供与された自己複製プリンターは、一日で高さ三メートル、長さ五メートルほどの食料生産装置へと成長した。

 ゆっくりと自己複製を行いつつ、それは一日当たり、380グラムのパンを1万8000個ほど生産する能力を持っていた。

 その装置が、一日あたり一つずつ増えて行く。

 十日後には十基に増えた食料生産装置が、毎日七十トンのパンを生産する。

 これはおよそ1億8000万キロカロリーに相当し、概算で九万人の腹を満たせる計算になる。

 トラルタの食料供給の九割に達する量だ。

 パンの配給には長蛇の列が並び、時間はかかったがほとんどの人々に行き渡った。

 自己複製プリンターの増えている間は配給に制限がありトラブルも生じたものの、それもすぐに見られなくなった。

 トラルタの人々は自己複製プリンターが限界を迎える十年後までの間、飢える心配をせず暮らしていけるだろう。

 作物の収穫が問題ない時にプリンターを停止しておけば、その分限界も伸びるのだ。

 一方で、政治的な環境はどう変わったか? 

 書記官長エシアの息子であり、反政府組織“抗体同盟”を率いていたレブルは言う。


「抗体同盟は、形を変えて活動を続けようと思っている。

 書記官長は……母は食料の確保と、技術供与の希望が見えてからは、税を緩和するつもりらしい。

 反対する仲間もいたが、将来的には人類が悪魔を駆逐して元の世界に戻るという希望もあるなら、俺たちはそれに協力すべきだろうからな」


 インヘリト王国を参考に、政党制を導入できないかという意見もあるようだ。

 ただ、トラルタにおける知的種族は、人間だけではない。


「今回は、何と言ってもネッキーたちの持ってた剣が決め手になったわけです。

 なので、おばあちゃんたちにも少しは彼らの権利を認めてもらわないと。

 最終的には私も含めて、人間たちには外に戻ってもらって、ここは元通りネッキーたちの世界に戻したいと思ってます」


 とは、レブルの娘、ヘルディンの言だ。

 いずれにせよ、今回の凍魔の出現と討伐――それに伴うインヘリト王国の介入――によって、トラルタの情勢は変化しつつあると言えるだろう。

 まんまる岩の地下に設置した転移の駅によって、インヘリトとの直接の行き来も問題なくなった。

 以上の報告は、それによってトラルタに駐在することとなったインヘリト王国の外交官――つい先日まで外務省が存在しなかったため、促成で教育された人員だが――からのものだ。

 既に凍魔が滅ぼされてから一か月近くが経過し、ディゼムたちもトラルタですべきことを終え、インヘリト王国に帰還していた。

 魔術省の執務室で、ファリーハがそれらを総括して結ぶ。


「トラルタに関しては、そんなところですね。

 みんな、改めてお疲れさまでした――」

『すまんが、解散は少し待ってくれ』


 エクレルが白い鎧からそう告げると、王女はそちらを見て声を上げた。


「はい?」


 続いて、黒い鎧から、プルイナが言う。


『ついでのようになってしまって申し訳ありませんが、本機とエクレルは、あなた方に重大な懸案事項を話そうと考えています。

 我々に近い関係者だけが集まっている今だからこそ、打ち明けておきたい。

 本機と白い鎧の、秘密についてです』


 常に落ち着き払ったその声に潜む真剣さを感じ取ったか、ファリーハが言う。


「よほど重大なことと見ました。二人とも、お願いします」


 それを受けてプルイナが、黒い鎧の赤い眼窩を点滅させる。


『実は、我々XTIAS-6には、この世界では寿命があります。

 今後の状況次第では、あまり長い間、あなた方に協力を続けることができないかも知れません』

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