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魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る  作者: kadochika
5.凍魔、覚醒

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5.12.滅魔の試み

 雪解け作戦の当日、午前六時。

 予定通り、作戦準備の最終段階が開始された。

 凍魔の生み出した寒波によって降る雪は強まり、トラルタ人たちは早朝から除雪作業に追われていた。

 このまま雪が続けば、トラルタ全土の人間活動が麻痺するだろう。

 その寒波を生み出している凍魔、そしてそれを包み込んでいる巨大氷山周辺の気温は極めて低く、温度計に仕込まれた水銀すら凍るほどだ。

 ディゼムはそこで試製青騎士改を身にまとい、削岩機を氷壁にぶつけ続けていた。

 その後方では、青騎士たちが魔術で突風を起こし、空気の混ざった氷の砕片を後方へと排出している。

 青騎士たちの鎧も防寒仕様への改造が完了し、鎧の下に重ね着をしなくともよくなっていた。

 今は直径三メートルほどのトンネルを、準備開始から一時間ほど掘り進めたところだ。


「小休止!」


 識別用に赤くした肩の装甲を背後からごんごんと叩かれて、ディゼムも削岩機に流す魔力を止め、小休止した。


「今、どのくらいだ? 半分は超えてねぇと思うけど」


 それを聞いて、青騎士の一人が答える。


「推定で1/4程度だ。だいぶいい調子だと思うぞ」

「そうか……」


 休止を終えると、ディゼムたちは氷山の掘削を再開した。

 削岩機はなおも唸り、分厚い氷を削り取っていく。

 そして、何度かの休止を含めて四時間が経とうとした頃、ディゼムの目にそれらしきものが見え始めてきた。

 粗く削られた氷壁の向こうに、うっすらと黒い影が浮かんできているのだ。

 既に掘り進んだ距離は二十メートルを超えており、方向さえ合っていれば、ディゼムは凍魔と黒い鎧に近づいているはずだった。

 掘れば掘るほど、その確信は強まる。


「プルイナ……!?」


 氷の中の黒い鎧を傷つけないよう、ディゼムは慎重になった。

 トラルタの科学者たちが、風向きと氷山の成長速度から逆算した黒い鎧の位置予測は、完璧と言えた。

 ガリガリと周辺の氷を砕き、浮き彫りにするように削岩機を操る。

 凍魔が黒い鎧越しに発する冷気は強まっており、改良した青騎士の鎧がなければ彼らは凍死していただろう。

 そして、ディゼムたちは予定の一つを達成した。


「準備、完了だ……!」


 彼が青騎士たちにそれを伝えると、それを見た彼らも、腰から下げていた連絡用の冊子を開き、そこに書かれていた通信用の魔術紋様を起動して報告する。


「書記官長、黒い鎧が露出しました」

『よし、呼びかけてみろ』

「分かった……圧縮!」


 ディゼムはそれを聞き、削岩機を冊子の状態に戻した。

 そして計画通り、プルイナに肉声で呼びかける。


「プルイナ、俺だ! 聞こえるか!

 トラルタのみんなと協力して、そいつを殺す算段が整った!

 もう戻ってきて大丈夫だ!」


 試製青騎士改の兜を被っているので、ややくぐもっているが、黒い鎧が音を捉えるのには支障がないはずだ。

 その程度には、彼は声を張り上げていた。


「…………」


 だが、声は氷の洞窟に響くばかりで、黒い鎧が動き出す様子はない。

 ディゼムは冊子になった削岩機を他の青騎士に預け、氷漬けの浮き彫りとなった黒い鎧に物理的に接触してみた。

 そして、黒い鎧を凍魔から引きはがそうと、試製青騎士改の力で手をかける。

 が。


「…………ぐっ!

 クソッ……!」


 凍り付いているためか、自身の機能で吸着しているのか、黒い鎧が剥がれる気配はない。

 角度や場所を変えて数分ほども試してみるが、同様だ。


「プルイナ……まだ無理か……?」


 ディゼムが肩を落とすと、そこを再び鎧越しに、青騎士の一人が軽く叩く。


「反応なしと見た。次の段階に移行する。気を落とすな」

「おぅ……悪りぃ」


 ディゼムが黒い鎧から離れると、青騎士から遠話で連絡を受けたエシアが、号令を下した。


『それでは、これより、雪解け作戦を開始する!』

「作戦、開始!」

(たぎ)れ!」「滾れ!」「滾れ!」


 号令と共に、青騎士たちが一斉に、熱の魔術を行使した。

 彼らの手の先から、陽炎のような半透明の揺らぎの奔流が黒い鎧へと延びて、加熱する。

 青騎士を着装するために選抜されたのだから、それなりの技量を持つ熟練者の筈だった。

 それが、七人同時。

 その魔術の交差する中心部分は、鋼鉄であれば簡単に溶融する温度になっているはずだ。

 だが、凍魔から放射されている冷気も相当な物らしく、黒い鎧を包んでいる氷は簡単には溶けないようだった。

 十秒、二十秒と、熱の魔術が浴びせられ続けるが――


「投射中止!」


 そこで、号令と共に魔術が中断された。

 一度に行使できる魔力の限界が来たのだろう。

 呪文魔術は瞬発力や戦闘力に優れるが、長時間行使し続けるのが難しいものも多い。

 熱で表面が溶けて、内部の黒い鎧の姿がより明瞭に確認できるようになった――その時。


「――!?」


 突如、氷を砕いて黒い鎧が動き出した。

 ディゼムは狼狽しつつ、身構える。


「んだとッ!?」


 その後頭部からは凍魔の長い髪がはみ出したまま、周囲に荒れ狂った。

 青騎士の一人が、持たされていた雪解けの剣を突き刺そうと突進するが、しかし、その背後から旋回してきた長い髪に絡め取られ、氷壁に叩きつけられる。


「ぐは――!?」


 同時にその手を離れて、雪解けの剣が転がり落ちた。

 凍魔が、黒い鎧をまとったまま、活動を再開したのだ。


「こいつ……!」


 まさか、黒い鎧を排除せずに動けるようになるとは。

 動きは先日見た時よりも鈍っていたが、黒い鎧の防御力が上乗せされては作戦通りとは行かないだろう。

 もしも黒い鎧の装備まで使えるのであれば、始末に負えないかも知れない。

 ディゼムは試製青騎士改の性能に不満を感じつつ、凍魔の黒い鎧へと飛びかかった。


「クソっ、起きろ! 起きろプルイナッ!!」


 しかしディゼムも鎧越しに凍魔の髪に絡め取られ、そこから圧倒的な冷気が伝わってきた。

 黒い鎧より大幅に劣る青騎士の断熱性能では、改良を加えたとはいえ限界がある。

 彼が死を覚悟したその時、凍魔の黒い鎧を、真紅の閃光が激しく打った。


「ぐッ!?」


 ディゼムは氷壁に叩きつけられたものの、拘束と冷気が緩んで死を免れた。


「こっちだよ!」


 彼を救ったのは、氷の洞窟の入口に待機していたホウセだった。

 今の彼女は修復の完了した真紅の鎧を身にまとい、凍魔を鋭く睨みつけている。

 凍魔は全身を黒い鎧に覆われ、今は視界なども機能していないはずだが、それでも彼女も真紅の鎧を睨み返しているようだった。

 そして、跳躍。


「ほらほらっ!」

「ウゥ――――ッ!!」


 挑発しながら後退するホウセを追って、凍魔は黒い鎧ごと、洞窟の外へと駆けて行った。

 その後を追う青騎士たちが、ディゼムに呼びかける。


「我々も追うぞ!」

「分かってる!」


 ディゼムも痛む脇腹を押さえつつ、走った。


***


 真紅の鎧の力で飛ぶホウセを追って、ディゼムたちの掘った氷の洞窟から凍魔が飛び出してきた。

 凍魔は大きく跳躍し――大重量の黒い鎧を着ているとは思えない――、ホウセに飛びつこうとするが、彼女は空中で大きく縦に回転し、真紅の槍で激しく凍魔を打った。

 凍魔はこれを前方に集めた髪で防御するものの、更にそこに、ホウセは真紅の槍を鎧へと収納し、両手首の部分から小さな錨のついた鎖を放つ。


「深く、絡みつけっ!!」


 じゃらじゃらと空中で運動する錨とそこに追随する鎖によって、凍魔は絡め取られた。

 それを更に、空中で制動を掛けたホウセが大きく振り回し、大地へと叩き付ける。

 ドドン、と激しく雪や土砂が舞い上がるが、凍魔へのダメージはさほどでもないのか、彼女はなおも立ち上がろうともがく。

 が、しかし。


「――!?」


 そのとき凍魔が、黒い鎧の上からでも分かる動揺を見せた。

 そう、そこは既に、事前に魔術師たちが設置した吸引の魔術紋様の内側だった。

 雪に隠れて見えない状態だったが、ホウセによって凍魔が大地に叩きつけられた際に紋様が破損して、効果を発動させたのだ。

 直径30メートルに及ぶ巨大な魔術紋様によって強大な吸引力が働き、さしもの凍魔も身動きが取れなくなったようだ。

 そこに、更に。


「突撃ー!」


 ヘルディンの号令で、ネッキーたちの空を飛ぶ船が数十隻も、凍魔へと接近していった。

 乗船したネッキーたちは、船が凍魔に近づくと、そこに向かって何かを投げつけるような動作をする。

 その動作と同時、黒い鎧の表面に、動物の足跡めいた模様が次々と刻まれていき、もがく凍魔の動きが更に鈍っていった。

 鈍化の魔術印だ。

 一つ一つは老婆の動きを制限する程度でしかないが、数百人のネッキーたちによってその効果が積み重なると、凍魔ですら動きを封じられるようだ。

 自在に動いていた白銀色の髪の束も、ほとんど動かなくなった。

 すると、その時、


「キァァァァァーーッ!!!」


 凍魔が鎧の下で、大気を切り裂くような悲鳴を上げる。

 それに応えるかのように、大地が凄まじい勢いで隆起した。

 いや、正確には大地そのものではなく、そこに含まれる水分が高速で凝固・膨張して、巨大な霜柱になったものと思われた。

 それによって魔術紋様は破壊され、凍魔を大地に縫い留める作用が消失する。

 だが、ネッキーたちの魔術印はまだ効力を残しており、そこにたどり着いたディゼムが一撃を放つのには、むしろ都合がよかった。


「プルイナ――少し痛てぇが、我慢しろよッ!!」

「駆けよ!」「駆けよ!」「駆けよ!」


 青騎士たちの魔術の作用で、ディゼムが試製青騎士改ごと加速する。


「――――ッ!!」


 そして、一瞬の交錯と共に、凍魔に対して魔拳の一撃が炸裂した。

 凍魔は大きく吹き飛び、黒い鎧の部品を撒き散らしながら、雪の降り積もった低木の茂る丘へと激突する。

 その衝撃で噴き上がる土砂と樹木、そして雪。

 ディゼムとホウセ、青騎士たちはその後を追い、呪文で風を生んで土煙の類を吹き流した。


「――!」


 そこには、ディゼムの一撃で黒い鎧をはぎ取られ、残った部分を自ら引きはがしている凍魔の姿があった。

 彼女は言葉こそ発していないが、その表情は不気味に笑っている。

 ディゼムは試製青騎士改の中で、うめいた。


「ここからが本領発揮ってか――クソっ……

 おいプルイナ! まだ寝てんのか!?」


 引き剥がされてバラバラになった黒い鎧からは、しかし、返答はない。

 ネッキーたちの施した魔術印も、黒い鎧と共に剥がれている。

 とはいえ、想定内だ。

 黒い鎧が排除され、自由に動き回れる状態の凍魔に対して、これから彼らが取るべき手段は――


「深く、惑わせ!」


 ホウセの呪文によって、凍魔の周辺に濃密な霧が立ち込める。

 以前であれば、ディゼムは黒い鎧の補助によって、霧の中でも活動ができた――が、今はできない。

 代わりに真紅の鎧の力で悪魔の気配を察知できるホウセが、次の呪文を放った。


「激しく、穿てッ!!」


 強烈な電撃の魔術だ。

 それが凍魔に撃ち込まれることで発生する電光が、ディゼムや他の青騎士たちへの目印となった。

 そして青騎士たちが凍魔に接近し、呪文を放つ。


「落ちよ!」「落ちよ!」「落ちよ!」


 それは、先日関所での戦闘で彼らがホウセに放った、解除の魔術だった。

 あの時は、真紅の鎧を変性・機能不全にする効果が表れたが、では、対象が凍魔ならばどうか?


「――――ッ!!」


 凍魔が魔術を行使したのだろう、強風が発生して霧が晴れる。

 しかし、姿を現した彼女の肌には、目に見えて霜が降りていた。

 元々雪のような色の肌をしていたが、そこに張り付いた霜は、見る間に厚みを増して行く。

 青騎士の隊長が、遠話で報告する。


「凍魔の体表面に降霜(こうそう)を確認!」


 そう。凍魔の肉体は凄まじい低温になっており、本来ならばそれによって、大気中の水分が霜となって体表面に積み重なっていくはずなのだ。

 しかし、凍魔が動き回っていても、海岸に叩きつけられても、そうなる様子は無かった。

 何らかの魔術によって、水分などの凝結を妨げているのだろう。

 その証拠に、青騎士たちの解除の魔術によってそれが解けたのか、凍魔の肌に霜が降り始めている。

 推測は当たっていたのだ。

 凍魔が霜で動きを阻害されたところに、ホウセが真紅の槍を振り回して襲い掛かった。


「あんたに恨みは、ないけどッ!!」


 反撃に振り回される銀白色の髪を、彼女は真紅の槍で絡め取り、遠心力で大地に叩きつける。

 すると、凍魔が魔術によって、急激に質量を増す。


「にょわっ!?」


 それに押し潰されまいと、ホウセは槍を鎧へと収納して後ずさった。

 質量で彼女を押し潰そうと降下した凍魔は、的を外して凍土を踏み抜く形になる。

 そして、そこに。


「絡みつけ!」「絡みつけ!」「絡みつけ!」


 青騎士たちが凍魔に向かって殺到し、何かを投げつける。

 三つの重りを索で繋いだ武器、ボーラだ。

 重りも索も魔術で強化されており、これが複数、凍魔に当たって絡みついた。


「――――ッッ!!?」


 広げていた髪が腕と共に、そして両足が閉じた状態で縛り上げられ、彼女は体の自由を失う。

 そこを狙って、最後の一撃が研ぎ澄まされていた。


「はぁッ――!!」


 仕掛けるのは、レブルだ。

 強化された赤い全身鎧をまとい、両手に握った銅色の小剣――雪解けの剣に魔力を込めて行く。

 彼は凍魔に向かって突進し、そこに青騎士たちが魔術を用いて支援した。


「駆けよ!」「駆けよ!」「駆けよ!」

「――――ッッ!!」


 加速するレブルを目がけ、動きを封じられた凍魔から電撃の魔術が迸るが、


「おっと!」


 電撃はホウセが大地へと投げつけた真紅の槍に導かれ、凍土へと吸われていく。

 

「凍魔――覚悟ッ!!」


 その一撃は、凍魔の胸郭へと深々と突き刺さり、背後へと貫通した。

 レブルはすぐさま手を離し、凍魔から離れる。


「ッ……!!」


 凍魔は己の胸に深々と刺さったその刃を見下ろし――


 ――そして、笑った。


「キァァァァァ――――ッ!!!」


 その叫び声と共に、周囲に激しい衝撃波が発生する。


「ぐッ!?」

「むぅッ……!?」


 レブルは転倒して吹き飛ばされ、それより距離が離れていた青騎士たちも威力に唸った。

 ディゼムはレブルを助け起こしながら、声をかける。


「おい、大丈夫か!」

「手ごたえはあったが……切り札ではなかったのか……!?」

「確かに、死ぬ気配じゃないね……!」


 凍魔を殺せるはずの雪解けの剣で、凍魔が死なない。

 その様子を窺っていたディゼムは、信じがたい光景を見た。


(……んだと……!?)


 凍魔は、まだ自由になる髪の一房で、自らの胸郭に突き立った剣を引き抜く。

 そしてあろうことかそれを、切っ先から喉奥へと吞み込んでしまった。

 ごくり、と飲み下す音が聞こえた気がする。

 その胸の傷跡からは、青黒い血液らしきものが、体表に凍った霜へと染み出していた。

 しかしそれは、様子から見て致命傷ではないようだ。

 闇市場の料理人の顔を思い出し、ディゼムは毒づいた。


「クソ、偽物を掴まされたってのかよ……」


 一方で凍魔は、笑っていた。

 拘束され、胸郭に貫通創を受け、なお笑っている。

 彼女が笑いつつ、徐々にその体躯が大きくなっていくように見えるのは、錯覚だろうか?


「でかくなってる……?」


 ホウセの息を呑むような声で、ディゼムは我に返った。

 そう、確かに大きくなっている。

 ディゼムより低かったはずの身長は、いつの間にか目測で三メートルを超え、更に大きくなっていた。

 全身に付着していた霜も落ちて、手足を拘束していた魔術索も千切れて外れる。

 青騎士の隊長が、遠話の魔術でエシアに報告するのが聞こえた。


「こちら戦闘班――凍魔には、雪解けの剣が有効ではないようです……!」

「怯むな、仕掛けろ!」


 レブルが、削岩機を持って凍魔へと突撃する。

 しかし、


「キァァァァァーーッ!!!」


 十メートルに達しようかという大きさになっていた凍魔が、叫び声を発した。

 すると、レブルの着装していた赤い全身鎧は大きく変形し、彼の身体から脱落してしまう。

 力の増幅を失ったレブルは削岩機の重量を支えられなくなり、転倒した。


「何だと……!?」


 それは凍魔が、青騎士たちの使った解除の魔術を学習したのだと、ディゼムには思えた。


「ヤバい、みんな! 散らばって!!」


 ホウセが声を張り上げると、ディゼムやそれに反応した青騎士たちは、互いに距離を取る。

 凍魔が再び叫ぶと、同様の魔術が発動したのか、直撃を受けたらしい青騎士の一人がレブルと同様、鎧を喪失した。

 凍魔の周囲は、水銀も凍る凄まじい低温のはずだ。

 生身の人間は、そう長くは生存できまい。


「野郎、このクソ寒い中でヤベぇ真似しやがって……!」


 さすがに青騎士は練度が高く、まだ無事な青騎士が着装の解けたレブルや仲間たちを連れて、氷山の陰へと離脱していく。

 遠話で連絡が取れるのは、青騎士の隊長とエシア、副長とエシアの間でだけだ。

 他の着装者同士での緊密な通信連携はできないので、ディゼムやホウセは接近して肉声でやり取りするか、状況を見て各個に判断するしかない。


「あたしが囮をやる! あいつの足を砕いて!」

「やってみる!」

「激しく、惑え!」


 ホウセが魔術で幻影の分身を生み出し、正面から凍魔へと挑みかかる。

 凍魔は戯れているのか、足蹴りで彼女と幻影を一掃しようと試みるようだった。

 ディゼムはその横を駆け抜けて、重量を支える足首に魔拳を見舞おうと構えるが、


「キァァァァァーーッ!!」


 ホウセが幻影ごと、広範囲に放射された解除の魔術を被弾したのが見えた。

 無防備な状態で凍土に転倒した彼女を、凍魔が踏みつぶそうと足を上げる。


「~~ッッ!!!!」


 ディゼムは思わずそちらに飛び出し、着装を解除されたホウセを庇って離脱していた。

 しかし、凍魔はそれを見逃さない。


「キァァァァァーーッ!!!」


 高速・広範囲で到来した解除の魔術を受けて、ディゼムの試製青騎士改も、変形して強度を失ってしまった。

 同時に力の増幅も消えて転倒するが、抱きかかえたホウセを庇おうと、何とか凍土に尻餅をつく。


「か、クソ……ッ!!」

「ディゼム! 今は二手に分かれて――」


 ホウセが彼の腕の中から抜け出し、そう告げる。

 が、ディゼムは彼女を置いて、凍魔に向かって駆けた。

 それを見てのことだろうか?

 巨大化した凍魔が、笑うのが見えた。

 まだ抵抗するのか? 何の力も残っていない状態で、凍えながら走るのがせいぜいなのにか?

 そう言っているように思えた。

 ディゼムは身を切るような寒さの中を疾走しつつ、呟いた。


「俺はな……いつか悪魔を滅ぼしたら元の世界に帰すって約束で、プルイナと一緒に戦ってたんだ……!」


 そして、ゴムのように変形してしまった試製青騎士改を拳に巻くようにして握り、吠えた。


「なら、せめて俺たちだけの力でテメーくらいはぶち殺せねぇと……!

 ここで撤退しちまったら!

 あいつに顔向け!

 できねぇんだよッ!!」


 乾いた冷気でひりつく喉、遠のく聴覚。

 そこに聞こえてきたのは、懐かしいとさえ思える声だった。


『――その心意気だけで十分です、ディゼム!』

『そうだとも。及第点をやるから、むせび泣いて喜べ!』


 それは決して、奇跡などではなかった。

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