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第1幕 孤児院長 クルーエル様

 ――翌朝、外に出ると子供達の声が聞こえてきました。


風の矢(ウィンド・アロー)!」


 ちょうど子供達が風の矢を案山子のような的めがけて放っているところでした。


「子供達に魔法の訓練をさせているのですよ。」


 ふと後ろから声がかかり、振り向くとクルーエル様がいらっしゃいました。


「将来冒険者になりたいとか、魔法の研究をしたいという子供のために、小さい頃から魔法を使えるように教えているのです。」


 魔物が発生するこの世界では、きっと需要があるのだとか。

子供達の放つ魔法を興味深く見ていると、クルーエル様から声がかかりました。


「よろしければ、バトラー様にもお教えしましょうか?(わたし)は風魔法しか使えませんが、それでよろしければ……。」


 クルーエル様は少し寂しげな表情をされたのち、目をそらすように子供達の方に目を向けました。


「そうですな……クルーエル様さえよければギルド登録が終わってからご教授いただいてもよろしいでしょうか。」


「任されました。」


 再び笑顔に戻ったところで、子供達がクルーエル様に気付いたようです。


「エル先生!」


 クルーエル様が目に入ったとたん、子供達が集まってきます。


「このおじちゃんは?」


「こら!この御方は……」


「いいのですよ。(わたくし)はバトラー。じいやとでもお呼びください。」


 にっこりと笑うと、子供達がこちらにも集まってきます。


「さて、朝食にしますよ。」


 部屋に着くと長方形の長机がありました。どうやら子供達は自分の席というものが決まっているようで、各自の席に座ります。


 部屋に用意されていた椅子の半分程度が埋まると、子供達は食べ始め、クルーエル様はどこかへ行ってしまいました。


「クルーエル様はどちらへ?」


「寝込んでるやつらにご飯食べさせてるんだよ。最近熱で寝込むのが増えてるんだ。」


「エル先生は……『(わたし)が光魔法をまた使えるようになれば』って……」


「だから、(わたし)たちが先生の代わりに光魔法を使えるようになるまで頑張ってるの!」


「ぼくもえうせんせーのためがんばう」


 お互いを思いあういい関係ですね。


 ――朝食が終わるとクルーエル様は子供達の看病で手が離せないとのことで、年長の男の子のルーツ君に冒険者ギルドへと案内してもらうことになりました。

12歳とは思えないくらいしっかりした子で、街の主要なお店を紹介しながら案内してくれました。


「ここが冒険者ギルドだよ。」


 ルーツ君とは冒険者ギルドでお別れをし中に入ります。


 ギルドの中に入ると、中は閑散としていました。

魔物がいる世界のためてっきり人気がある職業と勝手に想像していたため、当てが外れて少し恥ずかしい気持ちになりました。


「冒険者ギルドにようこそ。本日はご依頼でしょうか?」


 カウンターのようなところに向かうと受付のお嬢さんが声をかけてきました。


「いえ、冒険者登録を行いたいのですが……。」


 確かにこんなじいが冒険者というよりは、さる御方から命を受けてやって来たと考えるのが自然でしょうか。


「し、失礼しました。冒険者登録ですね。ではこちらに必要事項を記入してください。」


 種族や名前を記入し渡すとあっさりと登録が完了しました。

冒険者ランクはFランクから始まり、E・D・C・B・A・Sの順に上がっていくとのこと。受付のお嬢さんからFランクの木製のギルド証をいただきました。


 依頼はクエストボードと呼ばれる木製の板に貼られている依頼表から各自引き剥がして受付に渡すと受注となるようです。

ひとつ上のランクの依頼まで受けられるとのことで、Eランク昇格には討伐依頼を1回以上成功することが条件のため、(わたくし)はEランク依頼の東の森のゴブリン討伐依頼を受けておき、孤児院へと戻りました。


 ――孤児院へ戻ると、二人組の男性が孤児院から出ていくところを見かけました。帰り際に鉢を蹴る様子から、どうやらいい関係ではないようですね。


「あら……バトラー様、おかえりなさい。すみません、見苦しいところをお見せして……。」


 中で詳しく伺うと、あれは教会本部が雇った冒険者とのこと。


「教会本部は、(わたし)が最近光属性魔法が使えなくなったことを受けて、聖職者として教会を利用するに値しないとし、立ち退くよう圧をかけているのです……。」


 光属性魔法は怪我の回復や病気の回復、悪霊や闇魔法を祓う特性があることから、聖職者としての仕事ができないと判断が下されたそうな。


(わたし)一人なら構わないのですが、病で寝込んでいる子供達は一緒に追い出すと言われてしまい…。ここの寄付金も教会から賄われておりましたがそれも止められ……今はノロン領主様のご厚意で寄付いただいた分でなんとかなっていますが、それでも厳しく……。次は大勢の冒険者の方々と一緒に来ると言われました……。(わたし)もそろそろ潮時かもしれませんね。」


 そういって笑ったクルーエルさんは少し無理をしているように感じました。


 昼食をいただいたあと、魔法の講義をしていただくことになりました。


(わたし)が説明できるのは風属性魔法ですが、バトラー様は風属性魔法の適正はございますか?」


「適正……ですか?確か鑑定で全属性魔法のスキルがあったのですが、そちらの事……でしょうか?」


「ぜっ……!?………やはり使徒様は凄い御方なのですね……。」


 ジト目になり、バトラーと呼ばずあえてそう呼んだところから察するに、少しクルーエル様の地雷を踏んでしまったようですね。


「自分の身体に流れる熱い魔力の流れを感じて集め、魔法の効果をイメージして、その魔力を放出するように…………風の矢(ウィンド・アロー)


 子供達が放っていたより一回り大きな風の矢がビュンと飛び、案山子のような的のど真ん中に刺さりました。


「大切なのは魔法のイメージです。魔法は魔法名や魔力量も大事ですが、イメージした通りにしか発動しません。いかに魔法をイメージできるかが効果につながります。」


「イメージですね。わかりました。………風の矢(ウィンド・アロー)


 風は空気の温度差や気圧によって引き起こされるもの。風魔法も空気を圧縮して、薄い空気のほうに送り出すイメージで唱えれば…


―――バァン

カランカラカラ…


 案山子のような的の首から上の部分がもげて弾け飛びました。


「これは……すみません。」


「い、いえ…………すさまじい……威力ですね。イメージがお上手なのですね。もしかすると、バトラー様は魔法名さえわかればどんな魔法でも使いこなせるのかもしれませんね。」


「魔法名とは伝聞や書物で知るものなのでしょうか?」


「そうですね。基本的には人に教えてもらったり研究者様によって書かれる魔法書を読んで魔法名やその効果を知るのですが、閃くこともあるのだそうですよ。」


「閃く……ですか?」


 閃く、という単語の意味がいまいちピンときませんでした。


「そうです。(わたし)も体験したことはないのですが、魔法との相性が高い方は、こういう魔法が使いたいって思ったときに自然と魔法名が頭のなかに浮かんでくるそうですよ。」


 確かにそれは閃きですが、それはなんか第三者に頭のなかをいじくられているようで少し怖いですね……。


「ふふっ。バトラー様なら、きっと凄い魔法が閃くかもしれませんよ?」


 クルーエル様がお茶目な顔をされてそう仰います。あの顔は……見覚えがあります。奥様がよくしていらっしゃった顔です。


 試しに念じてみると、どうやら()()()()()()()()ようで――


「試してみても、よろしいでしょうか?」


「え、ええ。あの、何を――」


 それをイメージした時、はじめて魔力を少し持っていかれたような感覚を覚えました。どうやら魔力消費が大きいみたいですね。


特級(エクストラ・)解呪(ディスペル)


 手のひらから暖かい光が離れ、クルーエル様がその光に包まれた後、霧散していきました。


「え……と。どのような魔法だったのですか?」


 何をされたかわからないご様子のクルーエル様にご助言することにいたします。


「クルーエル様、()()()()()()()はいかがでございましょう?」


「……………まさか!?」


 その問いかけに(わたくし)が無言でうなずくと、クルーエル様は驚いたあとに神妙な面持ちとなり、やがて目をつむり唱えます。


「………ヒール」


 暖かい白い光が(わたくし)を包み、癒しを与えてくれました。


「ありがとうございます。腰の痛みが和らぎましたよ。」


「っっ!?…………ありがとう……ございます……!!」


 涙が溢れだすクルーエル様にハンカチを差し出し、


「さあ、(わたくし)もお手伝いしますので、子供達を癒して差し上げましょう。」


「はいっ……!……はいっ!」


 笑顔になったクルーエル様を鑑定すると、状態が正常と表示されておりました。

ふと気になったことがあったため、教会の窓に反射して写る自分を鑑定したところ、1%ほどMPゲージが減っているのを確認しました。風の矢(ウィンド・アロー)の時は気付きませんでしたが、これが魔力が減ったという状態ということですね。


――寝込んでいる子供達を二人で癒したあと、ギルドの依頼を受けてきた旨を伝え孤児院をあとにしました。


 先程の男冒険者にはギフトの『探索』で目印(マーカー)を付けておいています。

(わたくし)は執事用の白い手袋を外し、同じ質感の黒い手袋を付け、


「では、()()退()()のお時間です。」




 ――探索は車のナビゲーションのようにリアルタイムで表示されます。

赤いマーカーの方角に進むと、やがて黒い屋根、白がベースの大きな教会が見えました。ここが教会本部でしょうか。


「さて………影移動(シャドー・トラベル)


 閃いた闇魔法をそのまま唱えると、(わたくし)は木の影に吸い込まれていきます。

この魔法は影へと隠れ、影から別の影へと移れる魔法。暗躍するには相応しい魔法でございます。


 影伝いに移動し門兵にも気付かれることなく教会本部の中に入ります。


 1階のフロアにはいかにも荒事に慣れていそうな冒険者達が100人程、フロアの奥手には左右に階段が伸びており、2階の中央が壇上のようになっているところに、身なりの整った男性がおりました。


「明日、孤児院を占拠する。抵抗した場合はガキは殺していいが、女は殺さずとらえろ。成功した場合は全員に金貨1枚だ!」


 壇上の身なりの整った男性がそう宣言すると立ち去り、やがて荒くれ達は沸き上がりました。


「参加するだけで金貨1枚なんて、大盤振る舞いだなぁっ!」


「俺はこれが終わったら装備新調するんだ…!」


「久々に景気のいい仕事で嬉しいねぇ!なあ、お前さんは何に使うよ?」


 騒ぎの中に紛れ込んでも気付かれないとは、よほど金貨1枚とは大金のようですね。


「そうですね……。(わたくし)なら…………孤児院に寄付でもしましょうかね。」


「何言って――」


無数の(マルチ・)木の拘束(ウッド・バインド)


 思い付いた木魔法を唱えると、1割を除いた冒険者が木の固いもので縛りつけられていきました。

そのまま――


範囲(スリープ・)睡眠(オーバーオール)


 闇属性魔法で眠らせます。


「っ!このっ!!やろう!」


 後ろから残りの冒険者の複数人が斬撃を繰り出してくるのを屈んで(かわ)し、


無数の(マルチ・)氷の刺(アイス・ニードル)!」


 奥にいた魔法使いの氷魔法の刺攻撃が飛んでくるのを影の中に潜って(かわ)します。


 影から魔法使いの背後を取り、


闇球(ダークボール)拘束(・バインド)


 魔法使いを闇魔法の球体で覆うことで先に拘束しておき、影に潜ってから


底無し沼(ボトムレス・スワンプ)


 土魔法で剣士達の足元に底無し沼を作った後、素早く動き背後から昏倒させます。


「峰打ちでございます。」


 これにて100人あまりの拘束完了です。


 さて、長めの睡眠にかけ、ギフト『空間収納』の中に放り込み、二階へと向かいます。




 最奥の部屋には先程の身なりの整った男性がいました。


「――ふっふっふっ……これでクルーエルはワタクシのもの……。あの孤児院から追い出し、ワタクシが封印を解いてやればイチコロです……!!明日が……たのし……み……で…………」


 影の中から睡眠(スリープ)をかけ眠らせ、その後拘束し、『空間収納』へと放り込みます。




 ――ひと息ついた後、身なりの整った男性がいた室内をくまなく調べることにしました。

なるほど。この男性が書いたと思われる日記によると、この身なりの整った男性――フロディという名の神官長が私情で自作自演の封印と解呪をしようとしたみたいです。そして……


「これは……面白い手土産が用意できてしまいましたな。」




 一通り調べ終わると影移動(シャドー・トラベル)で教会本部から抜け出し、そのままの脚で東門前の門兵の方にギルド証を見せ領の外へ出て、東の森へ向かいます。




風の刃(ウィンド・ブレード)


 森に入ると20匹ほどの群れがいたため、風魔法で鋭利な風を作り出し、辺りのゴブリンの首を跳ねました。


土創造(アース・クリエイト)


土魔法で作ったナイフで討伐証拠部位となる魔石だけを取り出し『空間収納』にしまい、残りは燃やします。




 領に帰り冒険者ギルドに向かいます。

相変わらず閑散としたギルド内を見回すと、先程対応していただいた受付のお嬢さんがいらっしゃいました。


「おかえりなさいませ、バトラー様。討伐依頼のご報告ですか?その場合、ギルド証と討伐証拠部位をご提出ください。」


「ゴブリンの討伐、終了いたしました。ギルド証と、こちらが魔石となります。」


「ありがとうございます。1……2――――20匹ですか。Eランクのゴブリン討伐依頼ですと、1依頼につき10匹がノルマとなりますのて、今回は2回分の依頼達成となります。報酬をご用意いたしますね。少々お待ちを。」


 受付のお嬢さんが他の職員に指示を出し報酬を用意させていました。少し時間がかかりそうだったため、ちょうど良いかもしれません。お嬢さんに()()()()()()()()ことにします。


「あの、お聞きしたいのですが、こちらの冒険者ギルドは普段からこんなに人がいらっしゃらないのでしょうか?」


「いえ、ギルドにこんなに人がいないことは滅多にありませんよ。」


「なるほど。何か理由があるのでしょうか……?」


「いえ、今朝からギルドマスターとも話していたのですが、理由までは分からないと言われておりまして……。」


 このご様子ですと、教会本部から冒険者ギルドに依頼したのではなく、フロディ神官長がギルドを通さずに冒険者を募った可能性が高いですね。

ここは味方を増やすためにも


「理由、お教えいたしましょうか?」


「え……わかるんですか?」


「ええ、たまたま知ってしまったのですが……。」


「ちょっ、少々お待ちください。」


 話そうかと思ったタイミングで、慌てたご様子のお嬢さんは受付の奥へ消えて行きました。

数分後、バタバタと音を立て戻って来ると、


「お待たせいたしました。先に報酬の銀貨2枚をお渡しします。それと、討伐依頼の達成によりEランクへ昇格となります。Eランクのギルド証がこちらになります。」


 そう言われ、銀貨2枚とギルド証を渡されました。ギルド証は木製から鉄製へと変わっていました。


「そして、こちらへお越しください。ギルドマスターがお話を聞きたいそうです。」


個室へと案内されました。




――コンコン

「入れ」


 受付のお嬢さんが扉を開けると、そこはギルドマスターの書斎となっているようでした。


「アンナか。」


「失礼いたします。ギルマス、先程のバトラー様をお呼びいたしました。」


「ご苦労。下がっていいぞ。」


 アンナと呼ばれた受付のお嬢さんは失礼しますと言い戸を閉めていきました。


「俺はノロン領のギルドマスターのジャックだ。あんたがバトラーか。冒険者がここに来ない理由を知ってるとか」


 ギルドマスターのジャック様は筋肉質でがっしりした御方でございました。


名前:ジャック

性別:男

年齢:37歳

レベル:128

種族:人間族

職業:大剣使い

スキル:特級剣術

称号:ノルン領ギルドマスター・Sランク冒険者

状態:正常


「はい、(わたくし)はシャドー・バトラーと申します。それで、冒険者がギルドに来ない理由なのですが……」


「ああ、まずは座って話を聞かせてくれ。」


「失礼いたします……。きっかけはたまたま孤児院にいた時に聞いてしまったお話なのですが……。」


 ギルドが信頼に値するか確かめるためにも、 "捕縛して『空間収納』にしまってあること" については伏せておき、残りの部分については起こったことをそのまま話すことにしました。


「…………そいつが……マジなら、真っ先に侯爵に報告しないとだな。あの孤児院は侯爵から目にかけるようよく言われててな。あの孤児院からは優秀な魔法使いの冒険者が何人か出ていて、ウチも助かってんだ。そのためにもまず、事実確認のために調査が必要だな……。」


 どうやら侯爵寄りの立場の方のようですね。安心できそうです。


「いえ、それには及びません。こちらがフロディ神官長が冒険者に渡した依頼書になります。全部で100枚ほどございました。」


 証拠物を執事のスーツの襟の中から出したように見せながら、実際には『空間収納』から取り出します。


「用意が良いな……ってぇっ!?……こっ、こんなのどっから手に入れたっ!?」


「すみません、実は独自に調査しておりまして。それで、肝心の100名の冒険者についてなのですが……。」


「ああ、そうだな。そっちも何とかしねぇと。他の冒険者や侯爵と相談してどうにかするよう作戦を練らねぇと……」


「いえ、実は……冒険者100名、捕縛して裏手に置いているのですが……」


「…………は?」


「こちらに連れてきてもよろしいでしょうか?」


「マジかよ…………お前さん、ほんとになりたてのEランクか……?いや、そんなことより奥に広い部屋がある。そこを開けておくから、連れてきてくれ。」


「かしこまりました。」


 話が終わり、一旦ギルドの外に出た後、『空間収納』から冒険者とフロディ神官長を出します。

その後駆けつけたギルドマスターとギルド職員とともに、捕縛した人達を広い部屋へと運んで行きました。


「まさか、神官長まで連れてきているとは……。ほんとにどうやったんだ、まったく……。」


「それは……」


「まあいい。冒険者は自分の実力を隠す奴も多いからな。さて、俺はこの寝てる神官長を連れて侯爵に報告してくる。一応お前さんのギルド証を預かっておいてもいいか?恐らくだが、こいつらは今回盗賊に値する扱いになると思う。そうなると、盗賊の討伐・捕縛はDランク昇格の条件のひとつだから、侯爵次第ではあるが、お前さんのランクがひとつ上がるかもしれない。」


「なるほど。そういうことでしたら、お願いします。」


「明日には返すから、また明日、取りに来てくれ。じゃあアンナ、後は頼む。」


 そう言うと、ジャック様はギルドの外へ出ていかれました。


「そういえば、名乗っておりませんでしたね。すみません。私はギルド職員のアンナと申します。ではまた明日、ギルドでお待ちしておりますのでお越しください。」


「かしこまりました。」




 ――話が終わり孤児院に戻りますと、クルーエル様が光魔法を子供達に教えているようでした。

こちらに気が付くと、クルーエル様は笑顔で手を振ってきました。


「おかえりなさい、バトラー様。依頼は達成されましたか?」


「ええ、なんとかなりました。」


「そうでしたか。あの、改めてありがとうございます。バトラー様がいらっしゃらなければ、(わたし)……子供達を治すことができませんでした。」


「いいえ、(わたくし)は少しお手伝いしただけです。その子達が今元気なのは、クルーエル様のお陰でございますよ。」


「バトラー様……。」


「私も一時的とはいえお世話になっている身ですから。これくらいのことなら喜んでお力になりますよ。」


「ありがとうございます。それでは、夕食のご用意も腕によりをかけないといけませんね!」


細い腕で握りこぶしをつくり、ふんすっとお茶目な顔をつくると、部屋の中へと入り、子供達と(わたくし)もそれに続きます。


その日は昼食よりも少し凝った美味しい夕食を召し上がりました。

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