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しまったと思ってももう遅い。手を出した貴方が悪いんですよ?

作者: 糸真希

 



 美咲はコロッケを作る為にじゃがいもを茹でていた。私はそれを、キャットタワーに寝そべりながら片目を開けて見ている。美咲ったら、私のご飯を忘れてるんじゃないでしょうね……?今日のご飯はトロトロのやつを乗っけて欲しいわ。


 美咲は竹串を出すとじゃがいもに刺している。中まで柔らかくなったようで、美咲は鍋を持ち上げシンクに熱湯を流し込んだ。


「あっ!」


 美咲の驚く声に頭を上げてそちらを見ると、鍋から熱湯と共にじゃがいもが落ちそうになっていた。思わず美咲は手を出した。


「ああっつう!!!」


 熱湯とじゃがいもが手に当たり大声を出した美咲は手を振り上げた。ああ美咲ったら、また横着したのね。ザルを洗うのが面倒だからと鍋だけで湯切りをしようだなんて。

 美咲は涙目で水道から出る水で手を冷やしている。

 全く……しまったと思ってももう遅いのよ。何も考えずに手を出すから、火傷する事になるの。今度からちゃんとザルを使う事ね。

 私はキャットタワーからひらりと降りると美咲の足元へ向かった。

 美咲、ご飯はまだ?お腹すいたわ。トロトロの美味しいご飯にしてちょうだいね。


「え?なぁに?今ちょっと手が痛いから、待っててね。ご飯かな?あ〜〜まだ熱いぃ……」


 美咲は流水から手を離し、もう片方の手で触りボヤいている。火傷した指先は真っ赤に見える。私は美咲の足に体を擦り付けた。


「ごめーん。待っててぇ〜。」


 私は仕方なく美咲から離れて美咲を後ろからじっと見る事にした。まだ美咲は手を冷やしている。私のご飯はまだまだ用意されないみたいね。私は欠伸をすると、そのまま床で寝転んだ。


「さっきすごい声したけど、なんかあった?」


 心配してやって来たのは、美咲の弟の真哉。美咲の手元を覗き込んでいる。


「火傷?美咲、またザル使わなかったんだろ?」


 呆れた声を出した真哉を、美咲は決まり悪そうに横目で見た。


「じゃがいも?何作ろうとしてたんだ?」


「……コロッケ。あんた好きでしょ?今日お母さんいないし、勉強頑張ってるみたいだから作ってあげようと思ったのよ。」


 真哉は意外そうな顔をして美咲を見返した。美咲は火傷した部分が冷えたのを確認すると、手を動かして痛みの有無を調べている。


「マジ?ありがと。何か手伝う?」


「いいわよ。それより勉強頑張んなさい、受験生。」


 美咲は作業を再開し、じゃがいもの皮を剥き始めた。真哉はふーんとその様子を見てからこちらに気が付いたようで、ふにゃりとした笑顔で近付いて来た。


「ビビ~、こんな所でどうした~?エサかな?」


 そう!そうよ真哉。トロトロのご飯頂戴!私が起き上がって返事をすると、真哉は美咲の背中へ声を掛けた。


「なあ、ビビにご飯あげた?」


「まだ~。」


 美咲の返事を聞いた真哉は大きな手で私の頭を撫でた。「待ってな。」と言うと、ご飯が置いてある場所へ向かう。私もその後ろに続き、トロトロご飯を催促した。


「はい。お待たせ。どうぞ。」


 真哉はお皿を床に置くと、また私の頭を一撫でして立ち上がった。ちょっと真哉?トロトロご飯じゃないじゃない。これはいつものカリカリよ?

 しかし真哉は私の抗議を無視して部屋に戻ってしまった。もう、期待してたのに……美味しい。トロトロのが良かったのに……美味しい。

 美咲がコロッケを揚げ始めたらしい。油の匂いとグツグツという音が聞こえてきた。

 はぁ、美味しかった、ご馳走様。鍋からはカラカラと高い音が聞こえ始め、美咲は良い色に揚がったコロッケを油から上げている。

 窓の外を見るとオレンジ色に染まる空が見えた。お腹が満たされた私は、キャットタワーに登り美味しそうな匂いの中目を閉じた。

お読み頂きありがとうございました。

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