第9話 片影
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
自分は漫画を読むのが好きですが
買ってから何ヶ月も放置することがよくあります。
これって、あるあるじゃないんですか。
では、本編スタートです。
ダウトと分かれたジョーカーとスペードは突然姿を消したリオ・ルーインを追いかけて、ホールの奥にある階段を登る。その上はリオがさきほどまでいた踊り場で、そこには1つの扉があった。2人はその扉を挟むように分かれ壁に背をつけジョーカーはナイフを、スペードは銃をそれぞれ準備する。そして目を合わせて頷き、ジョーカーが思い切り扉を蹴破った。
「……誰もいませんね」
扉の先は少し横に広い廊下になっており、そこには誰の姿もなかった。人が隠れられる場所も無い。
「ジョーカーさん、奥にまた扉が」
スペードの言葉を聞いてジョーカーが奥を見ると、彼の言う通りまた1つ扉があった。
「行きましょう」
「はい」
そうしてジョーカーとスペードが奥へと進み出そうとしたその時、ジョーカーは前方に人の気配を感じた。
(……!)
すぐさま進行をやめ、スペードを手で制止するジョーカー。スペードは少し驚くものの、すぐにその意味を理解することになる。突然ジョーカーたちが向かおうとしていた奥の扉が開け放たれ、中から大勢の黒いマントを着た者たちが出てきたのだ。
(使用人、ではないようですが、この者たちは一体……?)
ジョーカーは謎の風貌の敵の正体に疑問を持ったが、彼らはまるで2人に余地を与えさせないかのように、腰に携えていた剣を素早く抜いた。その時溢れ出る殺気を、2人は感じとる。
「どうやら、リオは奥の手を持っていたようですね」
冷静を保っているジョーカーだが、内心は少し焦っていた。
(ヒビキ様、どうかご無事で……!)
一刻も早く主の元に向かわなければならない、そのために邪魔する者を一掃する。その考えは、スペードも同じだった。
「しかしながら、奥の手があるのはルーイン家だけではありません」
ジョーカーは、ナイフを敵の1人に向ける。
「我らクライト家の使用人を、甘く見てもらっては困りますね」
そう言ってうすら笑うジョーカー。これから起こることを想像して、彼は自身の気分の高揚を感じていた。
「スペード、早く終わらせますよ」
「はい、ジョーカーさん」
スペードの返答を聞いたジョーカーは先手を打つように素早く前に走った。そのあまりの速さに反応が追いついていない敵の一瞬の隙をついてその喉にナイフを突き刺し、横にはらう。辺りには血飛沫が舞うが、それを見て敵が怯む様子はなかった。
(……)
左方から敵が突いてきた剣をナイフで弾くように上に向かせバランスを崩させた後、右方の敵の振り下ろす剣を後ろに少し引いて避け、敵の首に蹴りを入れる。その衝撃で敵の手から剣が離れた。
「少しお借りしますね」
剣を床に落ちる前に左手で掴んだジョーカーは、それを左方の敵の心臓に的確に突き刺す。それから手を離して右手のナイフを左手に持ち替えた後、右手で左方の敵に刺した剣を抜いて右方の敵を斬る。そして、借りた剣を返すと言わんばかりに額に剣を突き刺した。
(……やはり、何か妙ですね)
そうやって敵を次々と倒していく中で、ジョーカーは目の前の謎の敵に違和感を感じていた。
(彼らが戦闘慣れしているのはまず間違いありません。ですが、彼らは本気を出していない。それに、なんでしょう、この感じは……)
ジョーカーが感じているものは、言葉に表すことのできない不気味なものだった。
(まぁ、かまいません。敵が本気を出していないのならば好都合。このまま殲滅するのみです)
何があろうとも、敵を倒していくジョーカーの手が緩まることはない。それはスペードも同じだ。ジョーカーから少し離れたところで応戦しているスペードは、敵の攻撃を避けながら頭の真ん中に的確に弾丸を打ち込んでいる。スペードは近接戦は不得手だがジョーカーがとんでもない速さで敵を倒しているため、あまり苦にはなっていないが本人は自分自身に憤りを感じていた。
(クソッ、これじゃあジョーカーさんの足手纏いだ)
スペードはジョーカーの役に立てていない自分に焦りを覚える。すぐに彼の援護にまわらなければ、そう思えば思うほど動きが無駄に大きくなっていく。敵の数は確実に減っていたが、それと同時にスペードの体力も徐々に削られていた。その時、疲労がみえたかスペードの足の力がほんの少し緩まった。その一瞬の隙を敵は見逃さず、後方からスペードに剣を振り下ろす。それに対して反応が遅れたスペードは右肩にその斬撃をくらう。
「……ッ!!」
走る痛みに耐えながら迎撃のため、右手に持っていた銃を左手に持ち替えて敵の額を撃ち抜く。負ったダメージのせいで、スペードは右肩が上がらなくなってしまう。
(もっと、上手くやらないと……!)
さらに焦りを覚えるスペード。さきほどと同じように後方から来た敵に今度は素早く反応し、弾丸を打ち込む。だがその事に集中しすぎていたせいか自身の後方にまわった敵の存在に気付かず、攻撃を受ける直前にそれを知ることになってしまった。
(しまった……!!)
もう間に合わない、そう心のどこかで思いつつもスペードは敵に銃を向けようとする。しかしやはり遅く、敵の剣が振り下ろされる、はずだった。剣を振り上げている敵の動きがなぜか突然止まり、その体は崩れ落ちるように床へと倒れる。その後ろに立っていたのは、血塗れのジョーカーだった。どうやらこの敵が最後だったようで、彼の後ろの廊下には死体が大量に転がっている。
「ジョーカー、さん……」
短い時間の中で変わり果てた尊敬する上司の姿に、スペードは唖然とした。それに対してジョーカーは首を傾げ、そしてスペードの右肩を見て少し驚く。
「スペード、肩は大丈夫ですか?」
「えっ? あ、はい、大丈夫です。ジョーカーさんこそ、大丈夫ですか……?」
不安そうな表情を浮かべるスペードに笑みを見せるジョーカー。
「えぇ、これは全て返り血ですから。私自身は大丈夫ですよ」
戦闘を終えた後にも関わらず平気そうなジョーカーを見て、スペードは自身の持つ銃を強く握りしめた。
(周りが全然見えていなかった。もしジョーカーさんがいなかったら、俺は死んでいた)
この状況下でジョーカーの足を引っ張ることはしたくないと思っていたスペードだったが、自分の存在自体が邪魔なのではないか。ここにきて、そう考えるようになってしまった。
(俺は、ジョーカーさんの役に立てていない)
右肩の怪我がズキズキと痛む。それは、鼓動と同期している。頭の中で木霊するようにその音が響く。
「スペード。行きますよ」
その時、ジョーカーの声がスペードの意識を呼び戻す。スペードはジョーカーの存在が自分の中でどれほど大きいものとなっているのか、それを改めて思い知ることになった。自分のことをジョーカーが必要としている、そう思うことでスペードは自分の心をなんとか保っていられた。
「……はい」
先に行くジョーカーの後にスペードは続く。この廊下に入った時と同じように2人は扉を挟むように分かれ、目を合わせ頷き、そしてジョーカーがその扉を蹴破った。
ジョーカーとスペードが黒いマントを着た謎の敵を倒したとほぼ同じ頃、客間の左奥にあった扉を開けたダウト。その先には、数々の拷問器具が置かれていた。大きめの物から小さめの物まで、至る所に置いてある。しかもどれもまだ新しく、これから使われるといった様子であった。
(えぇ……)
この部屋は他の場所とは打って変わって地味な内装だったが、それが気にならないほど拷問器具の存在感がある。いや、威圧感と言った方が正しいのかもしれない。
「趣味悪……」
拷問器具を見ていたダウトは思わずそう呟く。ダウトはこういった器具のことをほとんど知らず、どういった用途なのかも分からないがそれでもその殺伐とした雰囲気は伝わってきた。
(これをこんなに集めて、リオは一体何をしようとしてたの? いや、理解したくないけど)
あまりこの場所に長居したくないと思い、早急に部屋を出ようとするダウト。ここから出る扉を開けるために部屋の中に背を向けたその時、ダウトは背後にただならぬ殺気を感じた。驚いて振り返ると、黒いマントを着た謎の人物が今まさに剣で薙ぎ払おうとしていたところだった。
「……ッ!!」
ダウトはその攻撃を身を後ろに引くことでかろうじて避けるものの、完全には避けきれずに剣先がダウトの服を掠めた。その拍子に、この部屋に入る前にダウトが客間で取った写真が床に落ちる。リオ・ルーインに関する貴重な手掛かりを屋敷に持ち帰りたい、ダウトはそう思ったが一度身を立て直し目の前の敵と改めて向き合ったその時、それが不可能になりつつあることに気付く。
(クソッ! コイツ、どんだけ殺気放ってるの!?)
相手は全身が黒いマントに覆われているため表情は一切分からず、声も発していない。それでも、目の前の敵が今までにないほど強い殺気を持っていることは容易に分かった。そしてそれは、まるで呪いのようにダウトに絡みつこうとしていた。
「……上等じゃん」
ダウトは燕尾服のジャケットの内ポケットから小さめのナイフを取り出す。ダウトは体に何本も小型のナイフを仕込んでいる。チェスとのゲームの時に2本喪失していたが、ダウトからするとたった2本、という感覚だった。
(ジョーカーさんとスペード、それにヒビキ様とチェスさんだって頑張ってるんだ。オレだって命張らないと、格好つかないもんね?)
内心はそう思いつつも、ダウトは冷や汗をかきはじめていた。今まで人生を楽観的に生きてきたダウトにとって、これほどまでの恐怖に遭遇したのは初めてだった。だが、ダウトは逃げるわけにはいかなかった。
「早く、そこどいてよ」
そう言って狂気じみた笑みを浮かべるダウト。もう、覚悟は決まっている。さぁ、行こう。自分が後悔しない道を。
ルーイン家の屋敷の地下にある坑道に落ちたヒビキとチェスは、奥深くへと歩みを進めていた。だがその道のりは長く、どこまで行っても目の前の景色が変わることはない。
「一体、どこまで続いてるんだろうね、この道……」
いつまでも同じ光景に少しずつ不安を感じていたヒビキはそう呟く。しかしチェスからの返事は無く、さらに彼が持っている灯りも動きが止まる。違和感を覚えたヒビキが振り返ると、今まさにチェスが地面に崩れていくところだった。
「チェス!」
ヒビキは咄嗟にチェスの体を支え、ゆっくりと地面に座らせる。どうやら、チェスの体はとうに限界を迎えていたようだった。チェスは身体中の痛みに顔を歪めている。
「チェス……」
チェスに寄り添いながら彼の名前を呼ぶヒビキ。自分たちが今置かれている状況を思わず忘れてしまうほどに、ヒビキはチェスの身が心配で不安で胸がいっぱいだった。そんな主の心境を汲み取ったのか、チェスは苦痛に耐えながら笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ、ヒビキ様。少し休めば……」
そこで言葉が止まってしまうチェス。今の彼には少しばかりの休息では意味がないということを、ヒビキは理解していた。
「……チェス、ここで待ってて。奥には僕が行ってくるよ」
だからこそ、ここからは1人で行かなければならない、そう考えていた。
「駄目です、貴方に、もしものことがあれば……」
「大丈夫」
ヒビキはゆっくりと立ち上がる。
「上のみんなは、今も必死に戦ってる。彼らの主として、僕もやるべきことをしなきゃ」
そう言って笑みを作るヒビキ。その思いは、すでに十分強くなっていた。
「……でしたら、これを」
チェスは自身が持っていたランタンをヒビキに差し出す。
「いいの?」
「えぇ。少なくとも、貴方の方が、灯りは必要でしょう」
チェスにそう言われたヒビキは少し渋りながらも、彼からランタンを受け取る。チェスを真っ暗な空間にいさせることは少し気が引けたが、灯りが無いと行動ができないという事実も同時に存在していたのだ。
「……それじゃあ、行ってくるね」
もはや顔を上げる余力すら無くなっていたチェスだが、それでもヒビキに向けて笑みを作った。
「……お気を付けて」
チェスの言葉を聞いて、ヒビキは再び坑道の奥へと歩みを進める。その背中をかろうじて見送ることができたチェスは、少し前のヒビキの笑みを思い出す。少し悲しそうな、そんな笑みを作ったヒビキを見て、チェスは彼の父親であるトウヤの面影を感じていた。
(お父様に、似てきましたね、ヒビキ様)
かつての主だったトウヤの姿と、その息子であるヒビキの姿が重なる。
(今度こそ、主を、守らねぇといけないのに……)
だんだんと、意識が朦朧としてきたチェス。本当はヒビキを1人で行かせたくなかった。だが今の自分にできることなんてたかが知れている。そう思って送り出したのだった。
(でももし、ヒビキ様に何かあれば、俺は、自分のことを、永遠に、許せないだろうな)
そして、瞼が完全に閉じられる。
(ヒビキ様、どうか、ご無事、で……)
主の身の安全を願いながら、チェスの意識は坑道よりも暗い闇の中へと落ちていった。
重傷のチェスを残し、1人坑道の中を進んでいくヒビキ。今の彼にとっては1人になった不安よりも、この空間に対する恐怖よりも、重傷を負っているチェスの身を案ずる思いが何よりも優っていた。自分は本当はチェスの側にいるべきだったかもしれない、と今でも少し思っているヒビキ。しかし、彼には1つ気になっていることがあった。
(僕とチェスをここへ落とした穴を作った、あの大きな揺れ。あれは多分、爆発による揺れ。スペードといた時にもあった)
奥へと歩いていきながら、ヒビキは考えを巡らせていく。
(スペードといた時の揺れは隣の部屋での爆発で、だったけど、穴ができた時の揺れは地下での爆発。今、僕とチェスがいる坑道で起こったもの)
そこからみえてくる、ある1つの結論。
(この坑道には、間違いなく誰かいる。それも、大きな揺れを起こせるほどの爆発物を持った、誰かが)
そして今、ヒビキはその敵を探そうとしている。
(僕なんかにできることは、限られてるけど)
それでも歩みを止めることはできない。いや、止めたくなかった。
(彼らの、主として)
ヒビキがそう思いながら進んでいると、少し奥に明かりが見えた。敵が持つ光かもしれない、と思ったヒビキは警戒するもののどうやらそうではないようで、その場でずっと灯されているもののようだった。
(あれは……?)
その灯りにどんどん近付いていくと、その正体が明らかになってくる。ヒビキが辿り着いたそこは、簡易的に造られた基地のような場所だった。いくつかの机に木箱、散乱した工具に説明書のような紙、さらにはこの屋敷内外の地図まである。そしてここはレールの分岐点にもなっており、真っ直ぐ進むレールと左に曲がるレールとに分かれていた。
(この坑道、一体どういう構造なんだろう)
その全貌を知るためにヒビキはある机の上に無造作に置かれていた、この坑道の地図を手に取る。
(これがあれば、坑道を出られる)
ヒビキがそう思った矢先、地図のとある表記が目に留まった。坑道が直線になっている場所、ちょうどヒビキが今いる簡易基地を左に行った道の少し奥に、何箇所か赤いばつ印が付けれている。
(これ、何の印だろう?)
坑道の地図には、その印が一体何を表してるのかは書かれていなかった。気になったヒビキは机に置かれている他の紙の中に、説明が記載されているものがないか探し始める。すると、1枚だけ達筆な字で書かれた資料を発見する。その資料の1番下にはリオ・ルーインとサインが書いてあった。どうやらリオが書いたものらしい。だが、驚くべきはその内容だった。
(坑道の一部を、爆破……!?)
そこには、屋敷の地下にある坑道の一部を爆破して屋敷を崩落させろと書かれていた。坑道の地図にあったばつ印は、その場所を爆破しろという目印なのだろう。その目的はどうやら屋敷の崩落のようだが、なぜそのようなことをするのか、その理由は皆目見当もつかない。いや、それは今のヒビキにとっては些細なことだろう。
(もし屋敷が崩落したら、上にいるジョーカーたちが……!)
ルーイン家の屋敷の崩落は、もちろん屋敷の所有者であるリオに甚大な被害をもたらす。最悪リオ自身も巻き込まれる可能性も大いにある。しかしそれは、クライト家の使用人たちにも同じことが言えた。リオと同じ場所にいる彼らもまた、崩落に巻き込まれる可能性が非常に高い。
(それだけは、絶対に阻止にしないと)
新たな事実を知ったヒビキは、その思いをまた強くする。
(急がないと……!)
そして、坑道の爆破を止めるために左の道に走り出す。今の彼の心の中にあるのは、彼にとって家族とも呼べる使用人のことを守る意志だけだった。ヒビキには戦う術は何もない。ナイフを扱うこともできず、銃を使うこともできず、高い身体能力を有しているわけでもない。それでも、彼にはやらなければことがある。守らなければいけないものがある。
(お願い、間に合って)
ヒビキは走る、暗い暗い坑道の中を。ただ1つの灯りと、強く輝く想いを持って。
黒いマントを着た謎の敵を倒した後リオを追ってさらに奥へと行くために、廊下の奥にあった扉をジョーカーが蹴破った。その扉の先には、もう1つのホールがあった。今までジョーカーたちがいたホールよりも広く、装飾もより一層豪華な造りになっている。どうやら、さっきの廊下を挟んで2つのホールは相似型に造られているようだった。だが、そんな中にふさわしくない姿をジョーカーとスペードは見つける。それは、ホールの奥にいる大量の黒いマントを着た謎の敵とリオの姿だった。
「リオ・ルーイン……」
ジョーカーが小さな声でそう呟く。ジョーカーとスペードがいる場所は踊り場で、さきほどまでのリオとは立ち位置が逆になったと言えるだろう。だがそんなことを気にすることなくジョーカーは踊り場から飛び降り、スペードもその後に続いた。そしてゆっくりと歩み寄り、2人はリオに近付いていく。
「君たちは、素晴らしいね」
ジョーカーとスペードがリオの近くまで来た時、突然リオがそう話し出す。その声は、人が多いにも関わらず静かなこの空間ではよく聞こえた。
「何がでしょうか?」
自分たちの最終目標である敵を目の前にしても、ジョーカーはいつも通りの笑みを浮かべていた。
「君たちの能力だよ。私の用意したゲームをクリアし、さらには彼らまでも倒してしまうとは。とてもただの貴族の使用人だとは思えない」
そう言うリオは、不気味な笑みを浮かべている。
「褒め言葉として受け取っておきますね。もっとも、貴方から褒められても、全く嬉しくありませんが」
ジョーカーの皮肉を聞いてリオは笑う。
「私の目に狂いはなかった。君たちを献上品として送れば、私の将来は安泰だ」
それを聞いたジョーカーはリオを睨む。彼の言葉にとてつもない不快感を感じたのだ。
「貴方の将来になど、私たちは微塵も興味はありません。私たちが知りたいのは、リオ・ルーイン。貴方がこのようなことを起こした、その目的です」
そこでジョーカーは笑みを作る。
「死にたくなければ、教えてくださいませんか?」
ジョーカーの言葉を聞いたリオは不意に笑みを消した。その目には狂気が宿っている。
「……君たちが知る必要はない。今の私は、死を恐れてはいない」
リオがそう言い終わるとほぼ同時に、リオのまわりにいた黒マントの敵が一斉に剣を抜いた。廊下での時よりもその数は多く、一見して不利に見えるがジョーカーはさきほどと同じように気分の高揚を感じていた。自身がなぜそうなっているのか分からないが、敵を殲滅するのにこれほど良いことはないと、ジョーカーはそう思った。
「スペード、いけますね?」
「はい、ジョーカーさん」
一方のスペードは安心と不安と、期待と憤りと、そんな様々な思いを抱えすぎていた。だがもう後戻りはできない。ジョーカーの役に立つためには自分を無理させるしかない、たとえ自分が壊れても。自分が優れた存在であるためには、自分よりも優れた人の背中を追い続けなければならない。さぁ、行こう。その身が朽ち果てるまで。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
散り散りになったみんながそれぞれ
今の自分が成すべきことを成そうと奮闘しています。
そんな彼らの姿の変化が、とても楽しみです。
少しずつ道に影を落としつつも
"朝"に近付いているヒビキとベグ。
夜の中で、一体どこまでもがくことができるのか。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜