第17話 自然
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
この前初めて人気キャラ投票に参加しました。
いつか自分の作品でもしてみたいものです。
誰に入れるかはもう決まっております。
では、本編スタートです。
ホテルを出て、今日のイベント会場となる森林前までやって来たクライト家。少し開けた空間になっているそこにはすでに参加者と思われる女性が集まっており、これからの出来事に思いを馳せながら各々の時間を過ごしていた。
「ほわー、想像よりも人が多いね」
そう言いながら、ホワイトが大袈裟に辺りを見回す。ヒビキたちを除いても、参加者は30人ほどはいそうだった。そんな光景を見て、ヒビキはルーイン家の夜会のことを思い出す。あの日もこのように同じくらいの参加者がいて、そこからグループ分けされて。
「ヒビキ様」
その時、ヒビキは不意に名前を呼ばれた。少しハッとして呼ばれた方を向くと、いつもと変わりない笑みを浮かべたアイリスが立ってこちらを見ている。
「……アイリス」
「大丈夫ですか? ぼーっとしていらっしゃいましたが」
アイリスからの問いに小さく頷くヒビキ。
「うん。大丈夫だよ」
その返事を聞いたアイリスがヒビキに笑顔を見せる。その柔らかな表情を見たヒビキは、不意に昨日の夜のことを思い出す。アイリスが自分と交わした約束。アイリスにとってヒビキの存在はとても大きなものだが、ヒビキにとってもまたそうなりつつあった。
「こちら、森林内の地図になります」
そんな時、今回のイベントの主催者であるテセラの使用人らしき男から地図を手渡される。
「ありがとうございます」
少し声を高くして礼を述べるヒビキ。男はそれに応えるように一礼し、別の参加者へと地図を渡しに行った。男が去った後、ヒビキは怪訝そうな表情を浮かべる。
「僕、男ってバレないかな……?」
アイリスたちメーファの手によりメイクを施され、清楚なワンピースを着た可愛らしい姿のヒビキとソルト。一見ではただの少女にしか見えないと思われる。ヒビキの小言を聞いたアイリスは、彼の耳元ほどまで近寄る。
「ふふっ、大丈夫ですよ。ヒビキ様は、とても可愛らしいですから」
アイリスからの言葉を聞いてもなお、ヒビキは怪訝な表情のままだ。
「それっていいことなのかな……?」
そんな2人の後ろからブラックが顔を見せる。
「ヒビキ様。地図、見せていただいてもいいですか」
ブラックにそう言われ、ヒビキは持っていた地図を広げて見せる。それをヒビキ、アイリス、ブラック、そしていつの間にか近くにいたカーネの4人で確認する。地図は至って普通のもので、描かれている森林にも特におかしな箇所見当たらない。
「地図は普通、だね」
「えぇ、そうですね」
ヒビキの言葉にブラックが同意する。アイリスとカーネも同じ意見のようだった。
「! ヒビキ様、そろそろイベントの開始時刻です」
その時、懐中時計で時刻を確認したカーネがそうヒビキに呼びかけた。ヒビキは地図をしまい、使用人たちと共に開始の合図を待つ。
(テセラが来てくれるといいんだけど)
ヒビキたちにとって、最も接触したい人物であるテセラ・グリーン。その姿だけでも見ることができれば、そう思っていたヒビキだったがイベント開始時刻を過ぎ、使用人と思われる男たちがイベントの説明を始めてもなお、テセラが現れることはなかった。
(テセラは、一体どこに……?)
主催者である彼が、イベントを放っておくとは考えづらい。年に1度、女性のみといった制限をわざわざ設けていることからもその可能性はかなり低い。ならば、イベントが始まろうとしているこの時。テセラはどこで、何をしているのだろうか。
「それでは、ただいまよりスタートです! 森の景色をどうぞお楽しみください」
ヒビキが考え込んでいると、使用人の男の言葉よりイベントの開始が告げられた。参加者たちは地図を片手に、次々と森林の中へと入っていく。
「私たちも行きましょうか」
アイリスに頷くヒビキ。その後ソルト、ローズ、リリーの方へと目をやる。
「気を付けてね」
主からの言葉にそれぞれの返答をする3人。そしていつの間にか、自分たちよりも少し後ろの方にいるホワイトとブラックに手を振る。それに対して大きく手を振りかえすホワイト。
「いってらっしゃいませ〜!」
そうしてヒビキたちは、森林へと歩みを進める。彼らの姿が見えなくなった時、ホワイトは手を振るのをやめ真っ直ぐ正面を捉えたまま、隣にいるブラックに呟く。
「さぁブラックくん、仕事だよ」
それに自身も前を向いたまま答えるブラック。
「えぇ、分かってます」
そして2人は別れ、テセラの使用人たちに気付かれぬように森林へと足を踏み入れるのだった。
ついにイベントが始まり、地図を見ながら森林内を巡っていくヒビキ、アイリス、カーネの3人。会場に姿を見せないテセラのことを不審に思いながらも、ヒビキは今は一参加者としてイベントを楽しむことにしていた。
「……」
普段自然の景色にあまり触れることのないヒビキは、日光に照らされて緑緑しく光る木々や草木、森林の中を流れる小川を見て珍しく目を輝かせていた。
「綺麗ですね」
そんな時、ふとアイリスがヒビキに声をかける。少しだけ驚いた後ヒビキはアイリスを見る。
「……うん」
そして視線を自然へと戻す。
「屋敷の庭園も綺麗だけどここまで広くはないし、屋敷の周りの森林も歩いて入ったことはほとんどないから」
初めてヴォーマッシュ村のような田舎街に来て、良い経験をすることができた。ヒビキはそう感じていた。
「自然って、凄くいいね。屋敷の庭園も、もっと広くしようかな?」
「それはいいですね」
ヒビキの提案を聞いたカーネが彼に賛同する。
「私たちの仕事が増えますがね」
対して、そうアイリスが笑顔で言う。仕事が好きなアイリスにとっては喜ばしいことだろうが、大抵の人にとってはそうではない。現に、アイリスの言葉にカーネが少し嫌そうな表情を見せた。
「た、確かに……」
「それなら僕が手伝うよ」
カーネを慰めるように笑みを浮かべてそう言うヒビキに、今度は驚いた表情を見せるカーネ。
「だ、駄目です! ヒビキ様にやらせるなんて……」
そこでヒビキは首を少し傾げるが、カーネは困ったような顔をしている。そんな2人のやり取りを見ていたアイリスは、森林内の所々にテセラの使用人と思われる者たちがいることに気付き、すぐにヒビキに耳打ちする。
「ヒビキ様。所々にテセラの使用人と思われる者たちがいますので、注意してくださいね」
アイリスの言葉に頷くヒビキ。ヒビキが男であること、そして自分たちの目的がテセラとの接触であることを彼らに勘付かれてはならない。そのため、ヒビキたちは普通の参加者であることを装いつつ、周りに警戒して行かなければならなかった。
一方、そんな3人の様子を木の上から見ているブラックは、ヒビキたちに着いて行きながら森林内にいるテセラの使用人の動向を観察していた。
(使用人たちが森林内に点在しているのは、参加者たちに何かあった時のためにだろうけど。にしても……)
いわば運営側の人間が会場内にいるのは別におかしなことではない。だが彼らを観察している中で、ブラックはある疑念を抱いていた。
(最初から妙にこそこそしてるんだよな。参加者にいることをバレたくないみたいだ)
彼らの存在は参加者側にとって安心感という意味で、非常に重要な意味を持つ。つまり、わざわざ彼らが隠れる必要はどこにもないのだ。
(……今考えても分からないか)
そう思い小さなため息をついた後、ブラックは再びヒビキたちの追跡を再開することに。そして、次の足場となる木の幹へと移ったその時だった。
(……?)
ブラックが本能的に違和感を覚える。よく見ると、移った木の幹には人工的に付けられたと思われる傷がいくつかあり、周りはわずかに変な匂いもした。
(テセラの使用人がイベントが始まる前に、森林内の見回りをしたのか。木の上まで?)
拭いきれない疑問を持ったブラックだったが、それを知らないヒビキたちはどんどん先へと進んでいく。
(……仕方ない。追いかけながら考えよう)
そう思ったブラックは、優先順位を考え今まで通りヒビキたちの追跡をおこなうことにした。
同じ頃ソルト、ローズ、リリーの3人も自然との触れ合いを楽しんでいたが、ソルトだけは終始浮かない表情を浮かべていた。
「うぅ……どうして僕は、女性の服を着ているんでしょう……」
女性のみのこのイベントに参加するために、仕方なく女装をすることになったソルト。もちろん人生でこんな経験のないソルトは、提案を了承してしまったことを未だに悔いているようだった。
「とっても似合っているわよソルト。もっと自信を持ちなさい」
「そうよ! さっきも誰にもバレなかったじゃない! それだけ女の子に見えてるってことよ!」
「こらリリー。それは言っては駄目よ」
ロースにそう言われ慌てて口を押さえるリリー。こんな調子で、ソルトは先程から何回か2人に諭されているのだが、やはり納得には至らないようだ。
「それにしても、ここは本当に綺麗ね」
そう言いながらローズが辺りを見渡す。そよ風に吹かれ、日光を反射してキラキラと輝く木々たちは、まるで舞台の装飾のように煌めいている。
「そうですね! お屋敷の庭園を思い出します!」
「えぇ、私もよ」
クライト家の人間にとって自然といえばやはり屋敷の庭園のようで、特に普段手入れを担当しているメーファにとっては、思い入れが深いようだった。
「そうですね……うわぁ!?」
その時、ローズとリリーの少し後ろでソルトがつまづいて転んでしまう。
「まぁ大変」
そう言って、痛がるソルトに手を差し伸べるローズ。ソルトが顔を上げると、そこには柔らかな笑みを見せるローズがいた。
「大丈夫ですの?」
木々たちと同じように光を受けて輝くローズを見て、まるで聖母みたいだとソルトは思う。
「は、はい……」
ソルトはローズの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。ローズがソルトの服についた草や土を優しく払い落としていると、リリーがソルトの顔を覗き込むように少し腰を折る。
「大丈夫? 腕とか足とか、どこか痛いところない?」
「大丈夫ですよ。僕、なんだかんだ頑丈ですから!」
ソルトの言葉を聞いた双子は顔を見合わす。そして吹き出して笑い始めた。
「もう! なんで笑うんですか!」
まるで3人姉弟のように、微笑ましい時間を過ごすローズ、リリー、ソルト。
その様子を木の上から見ていたホワイトも、思わず笑みを作った。
(楽しそうだな〜、ボクも参加したかったな〜)
そう思ったホワイトは少し悔しそうにぎゅっと目を瞑る。楽しいことや面白いことが何よりも好きなホワイトにとって、今回の自分の立ち回りは少し物足りないようだった。
(ま、これがボクの仕事で役目だから、別にいいけどね!)
ひとりでに笑顔を浮かべるホワイト。インカの仕事は確かに目立ったものではないが、それでもホワイト自身は満足しているのかもしれない。
(……!!)
その時、ホワイトはどこからか視線を感じ取った。瞬間で笑みを消したホワイトが辺りを見回すが、当然木の上には人の姿はない。
(……)
人の気配は感じ取れず、今はもう視線も感じない。だが気のせいではないと思ったホワイトは、警戒心を強めて引き続きソルトたちの追跡を行うことにした。
(……地上の3人には特に変わったことはなし。森林内を彷徨いているテセラの使用人と思われるやつらの動向も、特に変わったことなし)
木の下を観察してそう判断したホワイト。そして次は木の上を再度観察する。
(うーんやっぱり人の気配はないなぁ。でもさっきの、絶対気のせいじゃないし……)
そこで、ホワイトが小声で呟く。
「手練だったら面倒臭いな……」
その直後、静かな森の中に突如として甲高い笛の音が鳴り響いた。それがこの催しの始まりであると、この時はまだ誰も知らない。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
彼らのように森林浴がしたいのですが
この時期に行くとやばそうですね……。
今年はこれで書き納めです。
来年から加速するクライト家vsテセラ。
何卒どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




