第16話 約束
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
もう9月というのにまだまだ暑いですね。
近年は夏が侵食してきて秋が消えつつあります。
あぁ、私の好きな秋が……。
では、本編スタートです。
ヴォーマッシュ村での情報収集を終えたヒビキたちは、ホワイトたちと情報共有をするためにホテルへと戻ってきた。集合場所となっていたヒビキの部屋に向かうと、そこにはすでにホワイトたちがいた。
「あ、ヒビキ様! おかえりなさい」
「ただいま、ホワイト」
そんな会話をかわして、ヒビキたちは部屋の中へと入る。全員が揃ったことにより、早速情報共有が行われることとなった。
「そちらはどんな感じでした?」
ホワイトにそう聞かれたヒビキは、市場の女性から聞いた話をそのまま伝えた。この村では領主であるテセラの評判がとても悪いこと、テセラがイベントの参加者を誘拐しているという噂があること、村人たちもなぜイベントは女性だけが参加できるのかを知らないこと、村人たちは誰も参加したことがないこと。
「ふんふん、なるほど〜」
ヒビキの話を聞いたホワイトが大袈裟気味に相槌を打つ。
「僕たちが聞いた話と、ほとんど同じですね」
「うむ、そうだね」
ソルトの言葉にも、ホワイトは大きく頷いた。
「村中がテセラのことを嫌っているのに、反抗したりしないんですかね」
そう言ったブラックに今度は首を傾げるホワイト。
「それだけ、この村でのテセラの影響力が大きいってことでしょ。村人たちの畑を全部握ってるとか。それか、裏に強大なものが隠れてるとかね!」
「なんですかそれ」
いつも通りなインカ2人の傍らで、ヒビキは1人真剣な表情で何かを考えていた。そんな主の様子にいち早く気が付いたのは、彼の隣にいたアイリスだった。
「ヒビキ様」
アイリスに名前を呼ばれハッとした表情を浮かべつつ、ヒビキは彼女へと目を向ける。
「何?」
「何か、気になることでも?」
いつも通りの笑みを浮かべているアイリスの目を、ヒビキが真っ直ぐに捉える。
「ホワイトが言った、テセラの裏に強大なものがあるっていうの、可能性はあると思って」
「それってもしかして、前にベグが会ったっていう……」
リリーの言葉にヒビキは頷く。
「うん。黒いマントを羽織った、謎の人物たち。と言っても、僕はその人たちを見ていないし、イベントの参加者が誘拐されてるっていうのも、そしてこれも、あくまでも噂や想像でしかないから。確証はどこにもない」
そう言って少し目を落とすヒビキ。村人たちが言っていた噂は、明日のイベントが始まるまで分からない。全ては憶測の域を出ないのだ。
「それなら、明日のイベント内で様子見、ですかね」
ホワイトがヒビキの顔を覗き込むようにしてそう言った。それにヒビキが再び頷く。
「そうだね。ひとまずは、それでいくしかないと思う」
そして、ヒビキは使用人たちを見る。
「明日のイベントは、4人1組で行動することになる。その場の行動は、各々の判断に任せるよ」
主の言葉を聞いた使用人たちはほぼ同じタイミングで頷き、返事をする。誰にも予想がつかない未知のものを前にして、みなが心を1つにした瞬間であった。
「それじゃあ明日に備えて、みんな休んでいいよ」
ヒビキの言葉で解散となった作戦会議。使用人たちは明日に向けて各自の身支度を整えるために、部屋を退室していく。そんな中、神妙な面持ちを浮かべているヒビキのことを、アイリスは気にかけていたのだった。
その日の夜、なかなか寝付くことのできないヒビキは自室で1人、ベッドに座り窓の外に浮かぶ夜空をぼんやりと眺めていた。
(……)
外で鳴く虫の声以外何も聞こえない静かな空間で、貴族の少年は一体何を考えているのだろうか。もしかすると、何も考えていないのかもしれない。無限に広がる星が散りばめられた夜空を見て、何かを思考することすら、やめてしまったのだろうか。
(……!)
そんな時、不意に部屋の扉がノックされた。それに気付いたヒビキは反対側に座ると「どうぞ」と扉の前にいるであろう人に声をかけた。
「失礼します」
その言葉と共に部屋の扉が開けられる。そうして部屋に入ってきたのは、アイリスであった。
「アイリス……?」
アイリスを見て思わずそう呟くヒビキ。ヒビキと目を合わせたアイリスは、優しげに笑みを作った。
「こんな夜中に申し訳ありません。ヒビキ様が、何か考え事をしていらっしゃったのが気になりまして」
「……」
アイリスの言葉を聞いたヒビキは、一瞬ハッとしたような表情を浮かべすぐに顔を伏せた。
「それで、眠れていないのでは?」
アイリスは少しヒビキに顔を近付けた。だがヒビキが顔を上げることはなかった。そして、ゆっくりと話し出す。
「少し、不安なんだ」
ヒビキは自分の手をぎゅっと握る。
「みんなは強いし、とても頼りになる。だから、みんなのことは信じてるんだけど……」
そう言って、どこか悲しそうな表情を浮かべた。
「……みんなが、もし大きな怪我を負ったら、どうしようって。ベグの時みたいに……」
ヒビキとベグがリオの屋敷を訪れた際、リオが用意したゲームや黒いマントを羽織った謎の人物たちとの戦闘によりベグの4人、特にスペードとチェスは深手を負った。ヒビキはそれがまた起きてしまうのではないかと、恐怖していたのであった。
「……」
そんなヒビキの傍らで彼の言葉を聞いたアイリスはベッドに座るヒビキの前に跪き、彼の両手の上に自分の両手を重ね、そしてヒビキの両手をとった。
「主からそんなふうに思われるなんて、私たちは幸せですね」
少し驚いているヒビキに、アイリスがいつもと変わらぬ笑みを見せる。
「大丈夫です、ヒビキ様。ヒビキ様が信じてくださっていれば、私たちはもっと強くなれます。ヒビキ様の存在が、何よりの支えなのです」
その言葉に再び驚くヒビキ。アイリスからそのような言葉を聞くのは、これが始めてであった。
「そして」
そう言って、アイリスは真っ直ぐにヒビキの目を見る。
「貴方は、必ず私がお守りいたします」
アイリスからの約束に少しの間驚いていたヒビキだったが、きっと今の彼にとって何よりの励みになったのだろう、アイリスに対して優しい笑みを見せた。
「……ありがとう、アイリス」
ヒビキが笑みを浮かべたのを見て、アイリスも同じように笑みを見せる。彼女にとっては、今が何よりも幸福な時間なのかもしれない。
「それでは、そろそろお休みしましょうか」
「そうだね」
そう言って、ヒビキはアイリスからゆっくりと手を離す。
「……あのさ、アイリス」
ヒビキに呼ばれ、少し首を傾げるアイリス。
「? いかがなさいました?」
一方のヒビキは先ほどと同じようになぜか目を落としている。
「……ここに、隣に、いてほしいんだ」
予想外の主からの要望に珍しくアイリスが驚いた表情を見せた。
「……僕が、眠るまででいいから」
アイリスは驚いた表情のままヒビキを見つめていたが、すぐに笑みを見せた。だがそれはいつも通りのものではなく、もっと慈愛深いものだった。
「……眠るまでと言わず、貴方が起きるまで、ずっと隣にいますよ」
アイリスからの返事を聞き、ヒビキもまた笑みを見せる。
「さぁ、早くお休みにならないと、お体に障りますよ」
「……うん」
そのままヒビキはベッドに横になり、アイリスはベッド近くにあるデスクの前にあるチェアをベッドの近くに寄せて座る。アイリスが傍にいるおかげで安心したのか、目を瞑ったヒビキはすぐに眠りに落ちた。
(……)
小さく寝息を立てながら静かに眠るヒビキを見ているアイリス。それはどこか、我が子の眠りを眺める母親のようでもあった。
(隣にいてほしいだなんて。子供らしくて、可愛らしいですね)
先ほどのヒビキの言葉を思い出して、思わず笑みを浮かべるアイリス。
(……なんて、愛おしい方)
アイリスはヒビキに手を伸ばすと、彼の髪に少し触れる。ヒビキはそれに気付くことなく、眠り続けていた。
(貴方が起きるまでも、そして起きてからも。貴方が私のことを必要としなくなるまで、ずっとお側にいますよ)
それはアイリスがヒビキに伝えることのない、彼女の気持ちであった。
(どうか末長く、お側にいさせてくださいね、ヒビキ様)
そして、彼女の願いでもあったのだった。
翌朝。ついにイベント当日を迎えたヒビキたちは、朝からその準備に追われていた。女装という形でイベントに参加するヒビキとソルトは、メーファの手によりその身支度を整えていた。
「ソルト。動かないでちょうだい」
ローズに化粧をしてもらっているソルトは、なぜか今の状況に緊張しているようだった。
「だ、だって、少しくすぐったくて」
「我慢して、すぐに終わるから」
「う、うぅ……」
ローズに注意された後も、ソルトは時々顔を動かしてしまっていた。
「ほら、ヒビキ様を見習いなさい?」
一方その隣でアイリスに化粧をしてもらっているヒビキは、まるで瞑想をしているように目を閉じたままじっとしていた。
「ヒ、ヒビキ様はどうしてそんなに我慢できるんですか……?」
「別に我慢してるわけじゃないけど……。なんだか、少し楽しいなって思って」
ソルトは思わず「え!?」と声を上げる。
「あとは……少し考え事をしてたから」
「そうだ、僕も何か別の事を考えよう。えーっと……あ、そうだ。屋敷の食糧庫を思い浮かべて……」
小さな声でそう呟くソルトは気を紛らわすという方法で落ち着いたようで、顔を動かすことはなくなっていた。そうして、アイリスとローズにより化粧を済ませたヒビキとソルトは、次はカーネとリリーの手を借りて服を着替えることに。
「ヒビキ様もソルトも、想像より痩せてるね」
「えぇ。ですが、それでもある程度は絞らないといけません」
そう言いながらカーネがヒビキを、リリーがソルトを担当していく。当然だが女性の衣装を着たことのないヒビキとソルトは、カーネとリリーになされるがままにしていた。もっとも、それは化粧の時も同じであるが。
「よし。ソルト、少し我慢してね」
「え?」
リリーはそう言うと、ソルトに付けたコルセットの紐を思い切り締めた。瞬間、ソルトが苦しそうな声を出すがそれでも容赦なくリリーは紐を締め続けていた。そんな光景を隣で見ていたヒビキは、目をぱちぱちとさせる。
「……あれ、僕もやるんだよね?」
「は、はい。申し訳ないのですが……」
すでにコルセットを身に付けていたヒビキは、これから自分に行われることに少しばかり恐怖を感じていた。だが致し方ないと思ったのか、覚悟を決めたようだった。
「カーネ、お願い」
ヒビキが相手であるためか憚っていたカーネも、ヒビキに合わせるように覚悟を決める。
「分かりました」
そしてリリーがやっていたのと同じように、ヒビキのコルセットの紐を思い切り締めるカーネ。ソルトと同じように、苦しそうな声を小さく上げるヒビキ。
「ヒ、ヒビキ様。私が言うのもあれですが、大丈夫ですか……?」
「う、うん。気にしないで、多分、大丈夫だから」
ヒビキもソルトもイベントが始まるよりも前にすでに項垂れているような様子であったが、リリーは何も気にせずにソルトの着替えを行っていく。一方カーネはヒビキのことを気にしているようだったが、リリーに合わせるようにヒビキの着替えを行っていった。こうしてメーファの手により、見事可愛らしい2人が誕生したのである。
「ヒビキ様もソルトも、よくお似合いです」
「えぇ。とても可愛いですわ」
アイリスとローズが2人をそう評価する傍ら、リリーは自信満々に頷き、カーネはとても誇らしげにしていた。一方のヒビキとソルトは少し恥ずかしそうにしながらヒビキは笑みを浮かべ、ソルトは顔を赤らめていた。その後、メーファも各々の身支度を済ませ全員の準備が完了した後、別室にて準備をしているホワイトとブラックと合流するために部屋の外に出た。
メーファがヒビキとソルトの身支度をしていた頃、執事が宿泊した部屋で同じように身支度を整えていたホワイトとブラック。彼らはヒビキとソルトとは違い、潜入という形でヒビキたちに同行するためそれ用の準備をしていたのだった。
「ねぇブラックくん」
そんな時、不意にホワイトがブラックへ声をかけた。
「なんですか」
ホワイトの方を見ることなく応対するブラック。
「ヒビキ様とソルトくんの女装姿、楽しみじゃないかい?」
「楽しみっていうか……まぁ、気にはなりますけど」
意気揚々と言うホワイトに対し、ブラックはいつも通りに答える。
「またまたぁ〜! 本当は楽しみなくせに! さてはブラックくん、恥ずかしがっているね!」
「いや別に……。というか、そんなことを言う暇があるなら、ちゃっちゃっと準備してくださーい?」
「もちろん分かってるよ!」
ホワイトと共にいる時間が長いブラックは、クライト家の使用人の中でも突出して癖のあるホワイトの扱い方を誰よりも理解していた。それをブラックがよしとしているかどうかは、別の話であるが。
「ほら、行きますよ」
準備を終えたブラックは自身の相方を呼ぶ。
「うむ。行こうか」
そうして身支度を済ませたホワイトとブラックは、部屋の外へと出るのであった。
こうして、廊下で合流したヒビキたちとホワイト、ブラック。ホテルをチェックアウトするために荷物を持ってフロントを目指す。
「とってもお似合いですね! ヒビキ様!」
ホワイトはヒビキの姿を見るなり、彼に近寄って満面の笑みを浮かべてながらそう言った。その言葉にヒビキも笑みを見せる。
「ありがとう、ホワイト」
そしてホワイトはソルトにも近寄ると、同じように満面の笑みで言った。
「もちろん、ソルトくんもね!」
「あ、ありがとうございます……」
そんな会話を交わしながら1階フロント前へと降りてきた一行は、チェックアウトを済ませるとホテルを出て、イベント会場となっている森林へと向かう。彼らの物語は、まだ序章ですらないとも知らずに。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今回は私の書きたかった回第1弾でした。
過去の自分への約束が果たせたと思います。
いよいよ次話からイベントへ参加するヒビキたち。
森林の中で行われるその催しに
クライト家は立ち向かうことができるのか。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
星月夢夜




