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いつかの歴史の幕開けを  作者: 星月夢夜
隠者の催し編
13/18

第13話 出発

皆さんこんばんは、星月夢夜です。

今回より新シリーズが始まります。

前シリーズはベグが主体でしたが

さて、今回は……?


では、本編スタートです。

 自然の美しさは、人間では到底生み出すことのできない壮大さを醸し出している。それらは日々多くの人々の心を魅了しているが、とある悪しき人の手によって黒く歪み、そこへ迷い込んだ者を恐怖の道へと誘っていた。そして今も、その場所では命を散らす重く鋭い音が響いている。


 汽車の発車を知らせる汽笛の音が、人々が行き交う駅に鳴り響く。そして今、ゆっくりと走り出した。その汽車に乗車しているソルトは、窓の外の情景が次々と変化する様子を見て思わず感嘆の息を漏らす。


「おぉ……!」


「ソルト。私たちは、遊びに行くわけじゃないのよ」


その様子を見ていた彼の隣に座るカーネが、ソルトに注意をする。


「あ、ご、ごめんなさい……」


カーネにそう言われて項垂れるソルト。その時、そんな彼らの向かいに座るアイリスが柔らかな笑みを見せた。


「まあまあ。確かに、私たちはこれから遊びに行くわけではありませんが、だからこそ、今のうちに楽しんでおくべきだと思いますよ」


「ア、アイリスさん……」


直属の上司であるアイリスにそう言われ、カーネは何も言えなくなってしまう。


「……」


そして、3人の傍らで窓の外をただぼんやりと眺めているヒビキ。彼の目に映る移り変わる光景は、果たして何を表しているのか。この時の彼らには、知る由もなかった。



 ルーイン家の屋敷での出来事から数日後。クライト家の書斎では、あの日に起こった出来事の共有とこれからどうするべきかをヒビキ、ジョーカー、スペード、ダウト、ココアの5人で話し合っていた。


「結局、事の首謀者であるリオ・ルーインは自死。いくつかの証拠があったと思われる、ルーイン家の屋敷も全焼。我々が求めていた真実は、文字通り全て闇の中に消えてしまいました」


あの夜のことを統括するようにそう告げるジョーカー。自身の目の前でリオを死なせてしまったことを、おそらく未だに少し後悔しているのだろう。


「被害だけ受けて、収穫は無しか」


そんな一言を発したココアを、その場にいた誰もが見る。


「言い方というものがあると思いますが」


それに真っ先に反発したのはジョーカーで、睨むようにココアを見ながらそう返す。一方のココアは、鼻を鳴らして顔を背けた。


「……あ」


書斎の空気が少し悪くなり始めた、そんな時。小さく声を上げたのはダウトだった。


「なんだダウト」


彼の隣に立つスペードはダウトを見る。


「今思い出したんですけど、ジョーカーさんとスペードと分かれた後に入った部屋に、写真が沢山あったんです」


「写真?」


思わずスペードが聞き返す。


「あぁ。本当は持って帰ろうと思ってたんですけど、その後にあの黒いマントを羽織ったヤツに襲われて……」


当時のことを思い出したのか、ダウトは嫌そうな表情を浮かべる。


「それで、その写真には何が写っていたんですか?」


ジョーカーがそう問う。


「リオが誰かと握手をしているやつとか、同じような黒っぽい服を着た人たちが一列に並んでいるやつとか」


そこでダウトは考え込む。


「今思えば、その黒っぽい服を着た人たち、あの黒マント野郎に雰囲気が似てるかも……」


「つまりリオ・ルーインは、あの黒いマントの者たちと前々より手を組んでいた、ということでしょうか」


ジョーカーもダウトと同じように考え込んだ。


「どう見ても、使用人という感じではありませんでしたよね」


そのスペードの言葉にジョーカーは頷く。


「なら、そいつらはなんでリオと手を組んだんだ?」


今まで話を聞いていたココアが、不意に問いを投げかける。


「問題はそこですね」


ジョーカーはココアを見る。


「多額の負債をかかえていたはずの彼が、多くの資金、武器、および兵力を得ていた。それらは全て、彼らから提供されたものでしょう」


ジョーカーは再び考え込む。


「しかしながら、彼らがなぜリオ・ルーインと手を組んだのか。そして、彼らは一体何者なのか。それが一切分からないのです」


彼らにとって、その答えが掴めないのが最大の難点であった。


「もしかして、アイツらの黒幕がいるとか……?」


その時、ダウトがそう呟いた。


「黒幕?」


思わずココアが聞き返す。


「だって、そうとしか考えられないじゃないですか。あんなに戦闘力のある黒マント野郎たちが、何の目的もなく動くなんて考えづらいですし。まぁ、ただの想像ですけど……」


「ということは、やはり何の収穫もないのか……」


そうスペードが呟くと、今までずっと何かを考え込んでいたヒビキが不意に顔を上げた。


「いや、そうでもないよ」


ヒビキがそう言うと、使用人たちは彼を見る。


「どういう意味ですか?」


ジョーカーがそう尋ねるとほぼ同時に、書斎の扉が大きく開け放たれた。


「ふっふっふー! ようやくボクの出番だねー!」


書斎にいた者たちが一斉に扉の方を見ると、そこにはなぜか自信満々に立つホワイトと、その隣でため息をつくブラックの姿があった。


「ホワイトさんに、ブラック……?」


スペードが思わず呟く。


「なんでお前らが」


ココアがそう聞くと、ホワイトは大きく胸を張った。


「実は! 秘密裏にヒビキ様にある調査を頼まれてねー。その結果報告に!」


「調査?」


ダウトが首を傾げる。


「そう! これは極秘の! とっても大切な……」


「はいはい。そういうのもういいですから」


少し暴走気味のホワイトを抑えるように、ブラックは彼の言葉を制する。


「ヒビキ様に、リオ・ルーインが主催したあの夜会の参加者を調べてほしいと、頼まれまして」


ブラックは持っているバインダーに挟んでいる書類を見ながらそう話した。


「よ、よく調べられましたね……」


少し呆れたような表情を見せるダウトに、ホワイトがグッと親指を立てる。


「ボクとブラックくんの手にかかれば、楽勝だよー!」


「はいはい」


その時ヒビキはチェアから立ち上がり、ブラックに近寄る。


「結果はどうだった?」


「1人だけ、気になる人物を見つけましたよ」


ブラックは書類を何枚かめくると、ヒビキと目線を合わせるように少しかがんで目的のページを見せて、ある人物の名前を指さした。ヒビキはその人物の名前を読む。


「テセラ・グリーン……」


ブラックは頷く。


「はい。どうやら、ここからだいぶ離れたところにある農村の領主だそうで」


「そのテセラは、近年妙なイベントを始めたらしいよ」


ブラックに続き、補足のようにホワイトが言う。


「妙なイベント、とは?」


ジョーカーが問う。


「年に数回、その農村の近くにある森林に行って、自然の景色を楽しむっていうやつなんだって」


「それだけ聞くと、普通のイベントっぽいですけど」


ダウトがそう言って首を傾げると、ホワイトは企み顔を見せた。


「妙なところはここから。そのイベント、女の人しか参加できないみたい。しかも、その理由は不明」


「え!」


驚くダウトに、なぜかホワイトは自信満々の笑みを見せた。


「ね! 気になりますよねーヒビキ様」


「うん」


ホワイトからの言葉に、頷くヒビキ。


「もしかしたらそのテセラっていう人、リオと面識があるかもしれない。もしそうなら、何か情報を聞き出せる可能性はあると思うんだ」


「同感ですね」


ジョーカーが頷く。


「しかし、我々ベグはスペードとチェスが負傷していますし、そもそも女性ではないのでイベントには参加できませんね」


「でしたら、私たちが参りましょうか?」


その時突然そんな声が聞こえ、皆がその声がした方を見るといつのまにか書斎の中にアイリスがいた。


「アイリス……」


ココアは思わずそう呟く。彼女が書斎に入ってきたことに、誰も気付いていなかったようだった。


「そのイベントは、女性の方しか参加することができないのでしょう? それならば、私たちメーファが適任だと思いますが、いかがでしょうか」


いつも通りの笑みを浮かべてそう言うアイリス。そんなアイリスにヒビキは頷いた。


「僕は構わないよ」


主からのお許しを貰い、アイリスは笑顔を見せる。


「ありがとうございます、ヒビキ様」


そして、深々と頭を下げた。


「どうぞよろしくお願いいたしますね」



 こうして、テセラ・グリーンが領主である農村、ヴォーマッシュ村近くの森林で行われるとあるイベントに参加するために、そこへ汽車で向かっているヒビキたち。


「あの、ところで……」


ソルトが恐る恐る手を少し上げる。


「どうしましたか?」


アイリスがそう尋ねると、ソルトは首を傾げた。


「ど、どうして僕も……?」


今ヴォーマッシュ村に向かっているのは、主であるヒビキとイベントに参加するメーファ、テセラの名前を見つけてイベントの存在を突き止め報告したホワイトとブラック、そして謎の目的でほとんど強制的に連れてこられたソルトの計8人だった。


「いずれ分かりますよ」


アイリスは笑顔でソルトにそう答えるも、ソルトはその笑顔に恐怖を感じたようで少し怯えていた。


「ははは……」


クライト家の者たちは4人4人に分かれてボックス席にいる。上から見て右側に時計回りの順番でカーネ、アイリス、ヒビキ、ソルト。左側にホワイト、リリー、ローズ、ブラックが座っていた。


「……」


そんな2人の傍らでぼんやりと窓の外を眺めているヒビキ。アイリスはそんなヒビキに視線を向ける。


「ヒビキ様は、汽車に乗るのは初めてですか?」


そう声をかけられたヒビキは、少しハッとしてアイリスの方に振り返る。


「うん、そうだよ」


そして、今度は横目で窓の外を見た。


「汽車って凄いね。馬車よりもずっと早く、外の景色が変わっていくから」


「そうですね」


アイリスはヒビキに笑顔を向ける。


「みんなは、初めて?」


ヒビキがそう聞くと、真っ先にホワイトが手を上げた。


「ボクとブラックくんは初めてじゃないですよー!」


「なんでホワイトさんが俺の分まで言うんですか。一緒に乗ったわけじゃないのに……」


呆れた表情を見せるブラックに、ホワイトは自信満々の笑みを見せる。


「なんとなく!」


途端、ブラックが大きなため息をついた。


「私とリリーも、初めてではありませんわ」


インカの2人の向かいに座るローズが、ヒビキを見ながらそう言う。


「えぇ! でも、やっぱり汽車って楽しいですよねー!」


ローズの隣に座るリリーは満面の笑みを見せていた。


「私も初めてではありません」


今までローズたちの方を見ていたアイリスは彼らの返答が終わると、振り返って自分の答えを主に返した。


「ぼ、僕はヒビキ様と同じで初めてです」


ヒビキの向かいに座るソルトも同じように答えを返す。


「……」


ただ1人答えていないカーネは、ソルトの隣で少し苦しそうな顔をしていた。


「カーネ、大丈夫? 顔色が悪いけど……」


ヒビキがそう聞くと、カーネはかろうじて頷いた。


「だ、大丈夫です。ちょっと、酔ってしまって……」


どうやらカーネは乗り物酔いが酷いようだ。


「ほら」


そんな時、カーネの席から間を挟んで隣にいるブラックがカーネに薬を差し出した。


「多分、少しはマシになると思うぞ」


カーネはブラックからゆっくりと薬を受けとる。


「あ、ありがとう……」


そしてそのまま、ゆっくりそれを飲んだ。


「カーネ、大丈夫ですか?」


カーネの向かいに座るアイリスがそう尋ねる。


「はい。じっとしていれば、大丈夫だと、思います……」


そんな時、ヒビキがアイリスを小声で呼ぶ。


「アイリス」


名前を呼ばれたアイリスは、ヒビキにそっと耳を寄せる。


「カーネは、汽車に乗るのは初めてなの?」


ヒビキがそう耳打ちをする。


「えぇ。ですから、自分がここまで乗り物酔いが酷いとは思わなかったのでしょう」


アイリスもヒビキに合わせて小声で答えた。


「……」


ヒビキは心配そうにカーネを見守る。そして、そんなヒビキをアイリスはなぜか笑みを浮かべながら、じっと見ていたのだった。



 遠い旅路の果て。ついに、目的のヴォーマッシュ村に汽車が到着した。わくわくしながら目を輝かせているリリーとホワイト、そんな2人を後ろから見ているローズとブラック。薬が効いたのか元気を取り戻しているカーネ、目的地に着いた途端緊張気味のソルト。そして、真剣な面持ちのヒビキとそれを見守るアイリス。各々様々な思いを抱えながら、一行は駅を抜ける。


太陽の光が照りつけるその村に、それでも黒いものが潜んでいることを、彼らはまだ知らない。



 ヒビキたちがヴォーマッシュ村に向かう汽車に乗っていた頃。クライト家屋敷の処置室では、先の夜会で大怪我を負ったチェスが1人、体を起こし少し退屈そうにぼんやりとしていた。


「……!」


そんな時、突然部屋の扉が開けられたかと思うとそこにいたのはココアだった。ココアは無言で入ってくると、そのままチェスがいるベッド側にあるスツールに座る。


「……怪我は大丈夫か」


チェスが少し驚いたような表情を浮かべていると、不意にココアがそう言った。


「……うん。もう平気だよ」


チェスはココアに笑みを見せる。


「そうか。そりゃよかった」


ぶっきらぼうにそう言って目線を下に向けるココア。


「……ありがとう、兄さん」


だがそんなチェスの言葉を聞いて、すぐに顔を上げた。


「……何がだ」


「僕のこと、助けに来てくれて」


「……」


また目線を下に移すココア。


「ちゃんと僕にも聞こえたよ。兄さんの声」


チェスは二重人格であるが、記憶は共有されていない。つまり、ココアたちが助けに来たあの時のことを"今の"チェスが知っているはずがないのだ。だがそれでも、チェスにココアの声は届いていた。


「……そうか」


ココアにとって、きっとそれは喜ばしいことなのだろう。自分の声が、本来は届かないはずの人に届いた。そして今、こうして一緒に過ごすことができている。


「……」


「……」


2人の間に、少しの間沈黙が流れた。


「頼むから、もう無茶はしないでくれ」


それを破ったのはココアだった。それも、意外な言葉で。


「……!」


チェスは驚く。


「……もしかして、僕がベグに入ったこと、まだ怒ってる?」


「いや。というか、最初から怒ってねぇよ」


そう言って顔を背けるココア。


「嘘だよ。僕と3日も口を聞いてくれなかったよね」


「お前の気の所為だろ」


チェスはムッとした顔を見せる。


「あからさまに、僕のこと避けてたでしょ」


「たまたま会わなかっただけだ」


チェスがココアの顔を覗き込む。


「偶然も重なると、偶然じゃなくなるんだよ」


ココアは別の方向に顔を逸らした。


「たまたまはたまたまだ」


「……」


チェスはまだ納得していない表情を浮かべていたが、話が平行線になると思い止めたようだった。


「とにかく。俺はいつだって、お前の選択を尊重してる。お前自身がベグに所属したことを後悔してねぇなら、俺はそれでいい」


顔を背けたままそう言うココアの言葉に、チェスはハッとしたような顔を見せる。


「兄さん……」


そんな時、いたたまれなくなったのか突然ココアが立ち上がった。


「お前が大丈夫そうで良かった。それじゃあな」


「あ、ま、待って兄さん!」


そしてそれだけを言い残すと、チェスの静止も聞かずに処置室を出て行ってしまった。


「……」


また1人になってしまったチェスは、ただ呆然と部屋の扉を見ていた。血の繋がらない兄へ、言い残したことを心の奥に閉じ込めながら。

再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。

始まりました、新シリーズ。

今回は(一応)メーファが主体のお話です。


これから彼女たちが目にする光景は

太陽が照らすものか、月が照らすものか。

最初のうちは楽しい旅行かもしれません。いいな。


それでは、本日もお世話をしてくれている家族と

インスピレーション提供の友達に感謝しつつ

後書きとさせていただきます。

星月夢夜

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