第12話 終演
皆さんこんばんは、星月夢夜です。
ついに最初のシリーズが完結します。
最後まで彼らの姿を刮目してくださるよう
お願い申し上げますね。
それでは、本編スタートです。
リオ・ルーインとの戦いが終わり、屋敷の外へと脱出したジョーカー、スペード、ダウトの3人。ジョーカーが念の為先頭を歩いて周囲の確認を行い、もう自力では歩くことのできないスペードをダウトが支えながら屋敷の前を目指す。
(ヒビキ様、チェス。どうか無事でいてください)
歩きながら、ジョーカーはふとそう願う。リオとの決着がついたとはいえ、彼らにはまだやるべきことがある。地下に落ちた2人の状況はジョーカーたちには分からない。だからこそ、願うしかない。
「すご……火がもうあんなに」
ヒビキとベグ、他の貴族たちがいたホールは外からでもその激しさが分かるほど燃え盛っていた。最初に見た、あの豪華さは今ではもう見る影も無い。
「……これが、栄華を求めた者の結末」
激しく燃えていくルーイン家の屋敷を見ながら、ジョーカーは小さくそう呟いた。その時、屋敷から少し離れたところに止まっている一台の馬車を発見する。しかも、その近くにいる人影には見覚えがあった。
「アイリスとコフ……?」
ジョーカーが思わずそう呟くと、それを聞いたダウトが驚いた表情を浮かべた。
「えっ!? いるんですか!?」
「えぇ、あそこに」
ジョーカーは馬車の方を示す。すると同時に向こうもジョーカーたちの存在に気が付いたようで、急ぐようにこちらに駆け寄ってくる。そして彼らは、燃え続ける屋敷の前で合流するのだった。本来であればアイリスとコフがなぜここに来たのか、なぜルーイン家の屋敷が燃えているのかというのを互いに言い合うはずなのだが。
「スペードさん!!」
「スペード!? 一体何があったの!?」
重傷を負っているスペードを見て、後から来た彼らはそれどころではなくなったようだった。
「事情を説明している暇はありません。とにかく、スペードを安全なところへ」
ジョーカーはそう言った後に、ここには安全な場所などないのだと思った。それでも今は、なんとかしてスペードの身を守りたいとそう考えていた。
「分かりました。ダウトさん、スペードさんをこちらへ」
「あ、はい!」
ジョーカーからの言葉を受けて、アイリスはスペードを支えるダウトを燃える屋敷から少し離れた場所まで冷静に誘導し始める。
「プリンさん、ソルトさん。お手伝いいただけますか?」
その時アイリスが振り返り、プリンとソルトに声をかけた。
「はい! 分かりました!」
「任せてなのー」
そうして4人はスペードの身を守るために、安全な場所へと移動していく。
「おい、ヒビキとチェスは?」
そんな時、ココアはジョーカーにそう問うた。ここにいるはずの2人がいないことに、当然疑心感を抱くだろう。
「それが……」
ジョーカーはその場にいるココアとシュガーに突如としてホールにできた巨大な穴にヒビキが落ち、そして彼を守るために怪我を負っていたチェスも共に落ちたということを話した。
「なら、早くヒビキ様とチェスを助けないと!」
切迫した様子そう言うシュガー。
「問題は、その方法ですね」
それに対してジョーカーは顔を曇らす。2人が落ちた地下に行く方法も分からず、彼らが今どこにいるのかも分からない。助けに行くには絶望的な状況であった。
「もしかしたら、ヒビキ様とチェスさんが落ちた場所は坑道かもしれません!」
その時、急いでこちらに戻ってきたダウトがまるで叫ぶかのようにそう言った。その言葉にジョーカーは驚く。
「どういう意味ですか?」
「チェスさんが言ってたんです、この屋敷って鉱山の跡地に建てられてるって。ヒビキ様が穴に落ちた時に左右に道が続いてるって言ってたから、可能性はあるかもしれませんよね!?」
少し焦り気味に言うダウトに、ココアが異議を唱える。
「だが今から地図も無しに坑道の出入り口を探すってなると、この人数でも時間がかかるぞ」
「じゃあどうするんですか!」
ダウトもココアの言い分は理解していた。彼の言うとおり、坑道の入り口を探すのはあまりにも効率が悪いと。しかし現状それしか方法が思い付かず、しかも時間が無いという今の状況にかなり焦っているのだった。
「……それなら、ヒビキ様とチェスさんが落ちたという、その大穴から行くのはどうですか」
その時。いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、アイリスがこちらへと歩いてきたのだ。誰もが考えたくなかった打開策を持って。
「アイリスさん本気ですか!?」
ダウトはアイリスにそう問うが、それでも彼女が笑みを崩すことはない。
「それしか、方法がないのでしょう?」
そう返されたダウトは、ただ黙ることしかできなかった。
「……」
同じくジョーカーも、ただ黙っていた。だがおそらく、彼の中にはアイリスが言った策が最初からあったのだろう。しかし、もうこれ以上誰にも怪我を負ってほしくないと思っていたがために、言い出すことができなかったのだ。
「ジョーカー」
ココアが名前を呼ぶ。ジョーカーは覚悟を決めるように深呼吸をする。そして、目の前の仲間たちを見た。
「……分かりました。ならば、私が行きます」
ジョーカーの願いを叶えるためには、自分自身が行くしかないと考えたのだ。
「私も行きます」
だが彼の予想に反して、アイリスはすぐに名乗りを上げた。
「しかし」
「言い出したのは私ですから」
そう言ってアイリスは笑顔を浮かべる。クライト家のメイド長として、執事長を1人で行かせるわけにはいかないと、そう考えたのかもしれない。
「なら俺も行く」
アイリスに続き、ココアも名乗り上げた。ココアはジョーカーを見る。
「文句ないな?」
おそらく、ココアもアイリスと似たようなことを考えたのだろう。ジョーカーは今はそれを知る由もないが、自分は本当に1人ではないのだと改めて思った。
「……えぇ。でしたら、ダウトとシュガーはここに残ってくださいますか」
ジョーカーの言葉にダウトは心配そうな表情を浮かべる。
「でも……!」
「私たちは大丈夫です。必ず、全員ここへ戻ってくると約束しますよ。ですのでスペードのこと、お願いしますね」
「……分かりました!」
微笑んでそう言うジョーカーに答えるように、ダウトは笑顔を見せた。
「絶対戻ってきてね!」
そう言って、シュガーはジョーカーに向けて拳を突き出す。ジョーカーはほんの少し驚いたようだが、すぐに笑みを見せて自身の拳を付き合わせた。
「えぇ、もちろん」
そして、ジョーカーは振り返り燃え盛るルーイン家の屋敷と対峙する。
「では行きましょう」
その掛け声と同時にジョーカー、アイリス、ココアは屋敷の中へと走り出す。こうして3人は、地下にいるヒビキとチェスを助けに行くことになった。彼らの最後の演目が、始まろうとしていた。
燃え盛る屋敷へと入場したジョーカー、アイリス、ココアの3人。かつてヒビキたちがいたホールの真ん中付近に、ヒビキとチェスが落ちた大穴があった。
「私から行きます」
今の彼らには、その穴の深さや先がどうなっているかを気にする時間はなかった。ただ一刻も早く、主と仲間を暗い場所から助けに行かなければならないのだ。
「分かりました」
「分かった」
アイリスとココアがジョーカーの言葉に頷くと、ジョーカーはそれを確認して大穴の中に入った。その後にアイリス、ココアと続いて入っていった。
「真っ暗で、何も見えませんね」
ココアが下に到着するや否や、ジョーカーがそう言う。
「マッチならあるが」
「それでは数秒しかもちません」
「んなこと分かってる」
ジョーカーとココアがそんな言い合いをしていると、不意にびりっと布を破くような音が聞こえた。
「ココアさん、マッチをつけてくださいますか?」
そしてアイリスの急な要望に、2人は驚く。
「あ、あぁ。別にいいが」
ココアはアイリスに頼まれたとおりに、内ポケットからマッチを取り出して火を点ける。ふわっと辺りが少し明るくなったと思った矢先、そのマッチの火に細長い白い物が近付く。それはそのまま火と当たって火が燃え移り、あっという間に簡易的な松明となった。
「ありがとうございます、ココアさん」
その松明を持っているアイリスは、普段と変わらぬ笑みを浮かべている。
「……お前、どこでそんなものを」
アイリスにそう聞くココア。ジョーカーが下の方に目をやると、アイリスの着ているメイド服が少し破れていることに気付く。
「貴方、自分の服を……」
「えぇ。良い感じの木の棒も落ちておりましたので」
そしてアイリスはにっこりと微笑む。
「それにしてもダウトの言った通り、ここは本当に坑道だったのですね」
アイリスが持つ松明の明かりで周りを視認できるようになり、どこまでも左右に続く道とレールといったこの場所の姿が顕になる。
「おい、これ」
その時、不意にココアがそう言った。ジョーカーとアイリスがココアの視線の方を見ると、そこには大きな血痕がありそれはこの坑道の奥の方へと続いていた。
「おそらくチェスのものでしょう。彼はここに落ちる前から怪我を負っていましたから」
ジョーカーはその血痕が続く方に目をやる。
「この血痕を追っていきましょう」
ジョーカーの言葉にアイリスとココアは頷く。そうして3人はチェスが残したと思われる血痕を辿り、坑道のさらに奥の方へと足を進める。今もこのどこかにいる、主と仲間の無事を祈りながら。
ジョーカーたちがヒビキとチェス救出のためにルーイン家の屋敷に入った頃、先の戦いで怪我を負ったスペードは応急処置を受け馬車の中に、そしてその近くにはダウトとシュガーが寄り添っていた。
「……」
ダウトは意識のないスペードを隣から少し苦しそうな表情で見ていた。そして2人の向かいにいるシュガーはそんなダウトの様子を見て、少し首を傾げる。
「スペードのこと、やっぱり心配?」
シュガーにそう言われると、ダウトは驚いてシュガーを見る。
「べ、別に心配なんかじゃ……」
そして目を逸らすダウト。こんな状況下でも素直にならないダウトにシュガーは笑みを見せた。
「沢山心配してあげなよ。それが、スペードに届くかもしれないし」
ダウトは少しハッとしたような表情を浮かべると、隣にいるスペードをちらっと見てまた目を逸らし、今度は俯いた。
「……」
そうして俯いたまま、何も話さなくなったダウト。
(これは、私は出た方が良さそうね。外のプリンとソルトの様子も気になるし)
そう思ったシュガーは外にいるプリンとソルトのところへ向かうことにし、黙って馬車の外に出た。シュガーがいなくなった後もダウトはしばらく口を瞑っていたが、不意に彼はスペードのことを見る。
「……死んだら、許さないからね」
まるで恨み言のように、そう呟きながら。
一方、未だ屋敷の前に残っている貴族の誘導を行っているプリンとソルトは、最後の参加者を誘導し終わると少し離れた場所から燃え盛る屋敷を見る。
「皆さん、大丈夫でしょうか……」
大穴に転落し消息が分からないヒビキとチェス。そして、2人を助けるため燃えるルーイン家の屋敷に飛び込んだジョーカーたち。この場では今の彼らの状況は分からない、だからこそソルトはただ案ずることしかできなかった。
「きっと大丈夫なの。みんな、ちゃんと帰ってきてくれるなの」
「そうよ!」
プリンの言葉の後に明るい声が聞こえプリンとソルトが振り返ると、そこにはシュガーが立っていた。
「そう、信じていましょう。私たちにはそれしかできないけど、とても大事なことだから」
珍しく真剣な面持ちのシュガーを見て2人はそれに応えるように頷き、改めて燃える屋敷を見上げる。今ここいる者にできることはないかもしれない。それでも、仲間たちの無事を祈ることはできる。それが、彼らの力になると信じて。
坑道の奥へと続く血痕を辿りながら、ヒビキとチェスを探すジョーカーたち。そのどこまでも続く血痕にココアは焦りを覚える。
(この血、一体どこまで続いてるんだ。チェスは……)
坑道にある血痕は彼らを誘導する道標になっていたが、同時にチェスの身が削れている証拠でもあった。彼が命懸けで残したものといえるであろう。
「!」
その時、先頭を歩くアイリスが前方に何かを見つけた。
「また大きな血痕、ですね」
ジョーカーがそう呟く。それはジョーカーたちがこの坑道に入った時に見たようなもので、それはチェスが少しの間この場にいたことを示している。
「ですが、血痕はまだ奥に続いていますね」
アイリスが松明で坑道の奥の方を照らすと、確かに彼女の言う通りまだ奥へと血痕が続いていた。
「行きましょう」
ジョーカーの言葉にアイリスとココアは頷き、3人はさらに奥へと進む。そうして少し行った時に、奥の方に明かりが見えた。
「敵か?」
ココアがそう呟く。
「いえ。どうやら常設されている明かりのようですね」
ココアにそう返答するジョーカー。一応警戒しながら進んでいくと、見えていた明かりはジョーカーの言った通りずっとそこにあるもので、そしてその明かりが置かれている場所は簡易基地になっていた。
「坑道の中に、このような場所が……」
思わずアイリスはそう呟く。机、木箱、紙など全てが乱雑に置かれた場所。そんな簡易基地に到着した時、ジョーカーたちは不意に血の匂いを感じた。
「!」
ジョーカーが簡易基地の左にある道の先を見ると、そこにはヒビキとチェスが重なって倒れていたのだ。
「ヒビキ様!!」
「チェス!!」
ジョーカーとココアがほぼ同時に叫び、倒れている2人のもとへと駆け寄る。アイリスも駆け寄り皆を松明で照らす。ジョーカーはヒビキを、ココアはチェスを抱いて2人の状態を確認する。幸いにも2人とも息はあるがヒビキは片足を酷く捻挫しており、チェスは言わずもがな重傷であった。
「ヒビキ様、ヒビキ様」
ジョーカーが何度名前を呼ぼうとヒビキの意識が戻ることはなく、それはチェスの方も同じだった。とその時、ヒビキの服の内ポケットから何かが落ちた。
「……?」
ジョーカーが拾って見ると、それはこの坑道の地図だった。
「アイリス、この地図を持って私たちを先導してくださいますか」
そう言って、ジョーカーはアイリスに地図を手渡した。少し驚くアイリスだったが、その地図が坑道の地図であることを知るとジョーカーに向けて頷いた。
「分かりました」
その後素早くジョーカーはヒビキを抱き抱え、ココアはチェスを背負うと2人はアイリスの後に続き、急いで坑道からの脱出をはかる。地図を持つアイリスの案内により迷うことなくどんどんと進んでいく3人。すると、少し先に出口が見えてきた。そうして、彼らはようやく暗い坑道から抜け出すことができたのだった。
坑道から出た3人は燃えるルーイン家の屋敷を目印に、屋敷前で待つ仲間たちとの合流を目指して森林を駆ける。アイリスが坑道内の簡易基地に置かれていたルーイン家の屋敷内外の地図を持ってきていたため、彼らは坑道から出ても道に迷うことはなかった。
「……」
ジョーカーは少し遠くを見る。そこでは黒い煙がまるで空に登るように上がっていて、ここからでもあの事の大きさが分かる。しかも屋敷の火は、どうやら森林にも広がってきているようだった。
「……ん」
そんな時、ヒビキの意識がうっすらとだが回復する。そのことにいち早く気付いたジョーカーは、ハッとしてヒビキを見た。
「ヒビキ様!」
ジョーカーのその声を聞いて、アイリスとココアもヒビキを見る。
「ジョー、カー……?」
小さい声でそう呟くヒビキに、ジョーカーは心からの笑みを見せる。
「はい。もう大丈夫ですよ。全て、終わりましたから」
その後、屋敷前にヒビキとチェスを連れて戻ってきたジョーカーたち。その姿を確認した瞬間残るコフの3人は嬉しさの表情を見せたが、ココアが背負うチェスを見てすぐに驚きの表情に変わる。重傷のチェスを背負うココアは、シュガーの案内でダウトとスペードが乗っている馬車に乗り込む。その2人にプリン、ソルトと続き、さらにその後にアイリスが続いた。
その間ジョーカーとヒビキは燃え続けるルーイン家の屋敷を、ただ静かに見ていた。彼らが今夜の舞台上で足掻きながら求めていた真実は歌い、踊り疲れて燃え尽き、灰となってしまったようだ。それが、この脚本の結末と、言わんばかりに。それが幸せに変わるのは、まだもう少し先のお話。
再度皆さんこんばんは、星月夢夜です。
今話でこの舞台の幕引きです。
皆さん、楽しんでいただけたでしょうか。
演者として彼らが得られたものは何か。
そして、失ってしまったものは何か。
全ての答え合わせは、またいつか。
とりあえずヒビキとベグ、お疲れ様。
それでは、本日もお世話をしてくれている家族と
インスピレーション提供の友達に感謝しつつ
後書きとさせていただきます。
次回より、新シリーズです。
星月夢夜




