ある勇者の悲劇
※この作品は、作者の苦手な「鬱」「胸糞悪い」という要素にあえて挑戦した作品です。
特に「鬱作品」は大の苦手なので、勘違いしないでください。
国の北側に大きな建物がある。
そこには沢山の魔族たちが住んでいると言われている。
そんな場所に一人の勇敢な戦士がやってきた。
「ここか・・・。」
彼は勇者“シン”。
魔族たちを倒すために遠くの国からやってきた。
剣の腕は良く、強力な魔法も使うことができる。
性格も勇敢で、正義感が強い。
まさに、理想的な勇者だ。
シンは扉を開け、中に入ろうとした。
しかし扉を開いた瞬間、中から大きな岩の拳が飛んできた。
「ニンゲン・・・シンニュウシャ・・・ハイジョスル・・・。」
それは岩でできた大きな『ゴーレム』だった。
全身が黒っぽい岩でできており、見るからに固そうであった。
「ハイジョ・・・ハイジョスル・・・。」
「排除」という言葉を繰り返し、シンに向かい殴りかかるゴーレム。
だが、長い旅をしてきたシンには既に慣れていたことだった。
余裕で拳を避け、剣を上段に構えた。
次の瞬間、剣が青白く光り出した。
「やあぁぁぁー!!!」
シンは掛け声と共に剣を振り下ろした。
そしてシンの剣はゴーレムを斬り裂いた。
「ゴー!!!」
ゴーレムは叫び声と共にぶっ倒れた。
そして砕け散った。
「とりあえず、最初の関門は突破したか。」
シンは剣を持ったまま、奥の階段を上がった
一歩一歩慎重に上がり、次の階へ着いた。
「長いな・・・。」
かなり奥に長い廊下にやってきた。
一番奥には扉がある。
「・・・。」
シンはゆっくりと歩いた。
廊下には誰もいなかった。
だが、それが却って不気味だった。
「ん?」
シンはなにかを感じ取った。
そして行動に移した。
先ほどと同様に剣を構え、剣が青白く光る。
「はぁ!!」
だが、今度は頭上に向かって剣を振った。
その瞬間、剣から光が飛び出し、頭上に向かって飛んで行った。
「グギャアッ!!」
頭上に飛んで行った光が「なにか」に直撃した。
そしてその「なにか」は床に落下した。
ドシンッ と音を立て、「なにか」は仰向けになって倒れていた。
「『吸血鬼』か・・・。」
シンはその言葉と共に、容赦なくもう一撃を放った。
光を纏った剣が、吸血鬼の心臓を一突きした。
「ガァッ!!」
次の瞬間、吸血鬼は弾け飛んだ。
「二つ目の関門突破か。」
シンがホッとしたのも束の間、今度は横の扉が開いた。
中から出てきたのは・・・。
「まったくウルサイですね。 集中できないでしょうが!」
扉から出てきたのは、メガネをかけた『ゴブリン』だった。
見るからに頭が良さそうな身なりだった。
「おんや? そうか、勇者だったのか。」
ゴブリンはしばらくシンを眺めていると、目線を扉の中に戻した。
「おい、お前も手伝え!」
扉の中にいる誰かに大声で喋りかけたようだ。
しばらくして、再びゴブリンが喋り出した。
「ダメだ! 勇者が来ているんだぞ! 後ででもできるだろ!!」
ゴブリンが誰かに喋りかけている間に、シンは念のため背中の盾を左手に持った。
そして剣と盾を構えた。
「それから、下はちゃんと履いて来いよ。」
ゴブリンがなにか言ったが、シンは聞き逃した。
しばらくして扉の中からオークが出てきた。
ブタに似た人間のような顔をした、大柄の魔族だ。
「んで、なにをするんだ?」
「勇者を倒すに決まってるだろ!」
「ああ、そうだね。」
なにか喧嘩をしていたが、両者は納得すると持っていた武器を構えた。
ゴブリンは剣を、オークは斧を持っている。
「まったく、せっかく良いところだったのに・・・。」
「コイツを倒してすぐに戻ればいい話だろ。」
会話を終えるとゴブリンは飛び掛かってきた。
持っていた剣をシンに向かって振り下ろした。
シンは盾で防ぎ、剣は ガキンッ と音を立てた。
シンは瞬時に剣をゴブリンの胸目掛けて突いた。
しかしゴブリンは空いている方の腕でガードし、剣は腕を突き貫通した。
だがそれによって、剣が胸に到達はしたが、軽く刺さった程度だった。
「ブモオォォォー!!!」
いつの間にかシンの背後からオークが接近していた。
どうやらゴブリンに気を取られていたようだ。
シンは剣をゴブリンの腕から抜こうとするが、逆にゴブリンは剣の刃を握って放そうとしない。
ゴブリンの手はしっかり刃を握っており、手から血が流れている。
しかし邪悪な笑みをシンに見せている。
オークは勢いよくシンに斧を振り下ろした。
シンは仕方なく剣を手放し、オークの攻撃を盾で防いだ。
盾にオークの斧が勢いよく刺さり、刃が盾を貫通した。
幸いシンの体には届かなかったが、オークの力強さにより、シンは片膝をついてしまった。
「(このままだと、ヤバいな・・・。)」
シンは盾を構えたまま、空いている右手をオークに向けた。
そして、大声で叫んだ。
「ブラストファイアァァァー!!!」
その言葉と共に、シンの手の前から魔法陣が現れ、同時に炎が勢いよく吹き出した。
そして炎は、オークの体に直撃した。
「ブモオォォォー!!!」
炎に押し出されながら宙を舞い、床に勢いよく叩きつけられた。
頭や体の全面が黒焦げになり白目をむいている。
「あぁ、貴様!!」
シンは振り向き様にゴブリンに向かって掌を向けた
そしてもう一発魔法を放った。
「アイスエッジ!!!」
その言葉と共に、手の前に魔法陣が現れ、同時に無数の氷の刃が飛んで行った。
ゴブリンの顔面に氷の刃が数本ぶっ刺さった。
当然ゴブリンは勢いに吹っ飛ばされ、仰向けに倒れた。
オークとゴブリンは消滅し、跡形もなく消え去った。
残ったのはゴブリンの腕に刺さっていたシンの剣と、シンの盾に刺さっているオークの斧だけだった。
「少しだけ手強かったな。」
地面に盾を置きながら、一言喋った。
そして足を使って盾から斧を引き抜いた。
そのまま斧は投げ捨て、床に落ちている剣を拾った。
「まだ距離があるなぁ・・・。」
扉まで、まだ百メートル以上はある。
シンはため息をつきながら、ゆっくりと歩を進めた。
しかし、やはりシンは楽にたどり着けなかった。
「待て待て待て、俺様を忘れちゃ困るぜ。」
急に横の扉から何者かが現れた。
魚人だった。
「この俺様が出なくてどうするってんだ。」
とても自己主張が激しかった。
シンは無言で通り過ぎようとした。
「おい待てや。 どこへ行く!」
魚人が目の前に出てきた。
シンは持っている剣を構えた。
それを見て、魚人も戦闘態勢に構えた。
武器は持たず、素手だった。
「言っておくが、俺様はあの『バハムート』の子孫なんだぜ。」
魚人は構えながらドヤ顔をした。
シンはさっきの言葉を聞いて、思わず「ん?」という声を漏らした。
「『バハムート』はドラゴンだろ? お前、魚じゃねえか。」
その言葉を聞いた途端、魚人は構えをやめて肩をガクッと落とした。
そして溜息をつきながら、語り始めた。
「もう何百回その言葉を聞いたことか・・・。 いいか、よく聞け! 『バハムート』とはな・・・」
魚人は語り始めて、完全に無防備な状態となっていた。
それを見逃すほど、シンはお人好しではない。
剣に光を纏わせ、力一杯に剣を振り下ろした。
「ダアァァァー!!!」
「グゲアァァァー!!!」
シンの気合の叫びと、魚人の痛みによる悲鳴が合わさった。
魚人の体に大きな傷ができた。
「ちょっと待て。 人が話しているんだから、ちゃんと聞け・・・」
シンは全く聞こうとはしなかった。
魚人を今度は頭から下半身まで縦に斬り裂いた。
そのまま魚人は叫び声も上げず、地面に転倒した。
「このクソ野郎が・・・。」
その言葉と共に、魚人の体は バァン! という音と共に、風船のように弾けた。
同時に水が周りに飛び散った。
まるで、割れた水風船のように。
シンは魚人が死んだことを確認すると、目的の扉へ歩みを進めた。
そして、扉まであと一息のところまで来た。
その時だった。
「よう、今回の勇者は随分な実力を持っているようだな。」
横から話しかけられた。
シンが振り向くと、そこには一体の悪魔が腕を組みながら壁にもたれかかっている。
「ちっ、次の敵か・・・。」
シンは剣を構えた。
目の前の悪魔を警戒する。
悪魔の体色は全身が黒く、意外とオシャレな服を着ている。
二本の角が生え、背中には大きな翼、棘のある長い尾が生えている。
そして特に目立つのが、顔が無いことだ。
悪魔は組んでいた腕を外し、ゆっくりとシンに近付いた。
そして、少し距離を空けた位置で止まった。
「お前はこの扉の先にいる奴を倒すつもりか?」
シンは一切表情を変えず、悪魔を睨んでいる。
そしてゆっくりと口を開けた。
「ああ、当たり前だ・・・。」
ハッキリと言い切った。
すると悪魔は フンッ と鼻で笑い、シンを見ながら後ろ歩きをして下がった。
「ならば入るがいい。 後悔はすんなよ。」
そう言い終わると、悪魔は翼を使って勢いよく宙を飛び、高い位置にある窓から姿を消した。
その一瞬の出来事を、シンはただボーっと見ていただけだった。
シンは扉の前で、剣と盾を構えた。
一度、目をつぶって深呼吸をした。
そして扉を強く蹴り、勢いよく開いた。
バァン という音が、目の前の空間に響いた。
扉の先は薄暗い大きな部屋だった。
がらんとしており、なにもなかった。
ただ、先の方に小さめの階段があり、それを上った先に2体の影が見える。
シンは警戒をしながら、ゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
五歩ほど進んだときに、階段の上から声が聞こえてきた。
「来たか。」
渋い男の声だった。
シンは歩みを止め、階段の上を見上げた。
暗くて見えにくいが、2体の影が見える。
そのどちらかの影が喋ったのだろう。
次の瞬間、片方の影が腕を上げて手を天に掲げた。
そして、 パチンッ と指を鳴らした。
その瞬間、部屋の中はやや明るくなった。
どうやら周りにある燭台に火が灯ったようだ。
「どうだ明るくなったろう。」
再び男の声が聞こえた。
シンが周りから階段の上に目線を戻した。
そこに声の主がいた。
一人は女の姿をしている悪魔がだった。
とてもセクシーな格好をしているが、体色がピンク色だった。
翼と二本の角が生えており、目がそれぞれ違う色をしていた。
そしてもう一人は、顔全体に包帯を巻いた男だった。
包帯で顔は全く見えず、見えるのは左目だけだった。
服装は毛皮の付いたコートを着ている。
「お前がここのボスか・・・?」
「ああ、そうだ。」
包帯の男は落ち着いた声色で返答をした。
それとは反対に、シンは額に汗をかきながら警戒している。
「お前が『人間』だという噂は本当か・・・?」
シンはゆっくりと剣を男に向け、質問した。
女の悪魔がなにか怒鳴ろうとしたが、男がそれを止めた。
そして椅子から立ち上った。
「ああ、俺は『人間』だ。」
男は喋りながら、コートのポケットに手を入れた。
その時シンの目は一瞬だけ、男の後ろを見た。
男が座っていた椅子だ。
その椅子は玉座などではなく、ただのソファだった。
「な、なぜ『人間』であるお前が魔族を従えている・・・。」
シンは額に汗をかきながら、ただ男に剣を向けて睨んでいた。
すると男は、ポケットに手を入れたまま階段を下り始めた。
そして下りながら喋り始めた。
「俺はな、世界に絶望したんだよ。」
「ぜ、絶望・・・?」
男はやはり落ち着いた声色で話している。
その声色はどこか不気味であった。
「善に生きて不幸になるなら、悪に生きて幸福になったほうが良いだろう。」
「なにを・・・言って・・・。」
男の言葉が理解できず、シンは困惑している。
しかし男は階段を下りながら喋り続けてた。
「だが、偽善に生きるお前たちよりかはマシだろう。」
「・・・!?」
シンは言葉が出なくなってしまった。
男の言葉が全く理解できず、困惑し続けている。
男はというと、階段を下りるのを終え、シンの目の前にいる。
そして左しか見えてない目でシンを見つめている。
男はポケットから手を出し、肘を曲げながら両手を挙げた。
そして軽い感じでシンに向かって言った。
「どうした、俺を倒すんだろ? やれよ。」
手を挙げたまま、シンの目の前に立っている。
その言葉に、シンは多少怒った。
「な、舐めているのか・・・!?」
相変わらず剣を男に向け、睨んでいる。
しかし、男の態度は全く変わらない。
シンは怒りをなんとか抑え、冷静になろうとした。
そして剣に光を纏わせ、全速力で男に近付き斬りかかった。
「ダアァァァー!!!」
しかし、剣は床だけを斬り裂いた。
男はというと、剣を避けシンから見て右斜めの方向にいた。
シンは急いで男の方向へ剣を振った。
しかし焦っていたため、剣に光を纏わせることを忘れていた。
・・・それが彼の"唯一にして最大の失態"だった。
男は余裕で剣を避けた。
そして振り終わって宙で止まっている剣の刃を掴んだ。
その瞬間、男のつけている黒い皮の手袋から、赤い血が流れているのをシンは見た。
しかし次の瞬間、男の手が炎に包まれた。
そしてシンの剣が、男の手を中心に折れたのだった。
「そんな・・・。」
シンはその光景がとても信じられなかった。
男は手から流れている血を気にせず、シンの方を向きながらゆっくりと後退した。
「・・・よくも、・・・俺の剣を!!」
完全に怒りで冷静な判断をとれなくなっていた。
シンは折れた剣を捨て、男に対して先程オーク達に食らわした魔法を放とうとしていた。
「よほど大切なモノだったようだな。」
「エルから貰った、大切な剣を・・・、よくも・・・!!!」
準備が完了し、特大の魔法を放とうとしていた。
しかし男は一切焦る様子は見せず、シンの目の前で待機していた。
「スゥゥゥーパァァァー・・・ブラストファイアァァァー!!!」
シンは声がかれそうなほどの大声で叫んだ。
そして手に現れた魔法陣から、大型の炎がレーザーのように発射された。
それから数秒後に、炎は治まった。
炎は壁を貫通しており、外の光が部屋に入ってきた。
シンは息を荒くして、勝ち誇ったような顔をしていた。
「ふふふふ・・・、よっしゃ・・・。」
しかし、それは大きな勘違いだった。
次の瞬間、シンの腕が炎に包まれた。
「グアァァァー!!?」
シンは悲痛な叫びをあげた。
よく見ると、シンの腕を誰かが後ろから掴んでいた。
包帯の男である。
いつの間にかシンの背後に回っていたのだ。
シンは男の手を振り解くのに、数十秒もかかってしまった。
当然、腕全体は炎によって焼かれ無残な姿へと変化してしまった。
「グッ・・・、ウゥ・・・。」
シンはあまりの苦しみによって立っていられなくなり、地面にうつ伏せで倒れた。
目は真っ赤になるほど涙を流してしまい、そんな目で男を睨んでいる。
「腕は使い物にはならなくなったな。」
落ち着いているようでどこかバカにしているような声色で、男は言った。
シンは腕だったものを動かすことができない。
当然ながら武器は持てず、魔法も使えなくなったのだ。
「この・・・、野郎・・・。」
しかしまだシンは男を睨み続けている。
男はポケットに手を突っ込み、しゃがんでシンを見ている。
やがて口を開いた。
「世間では勇者だと言われて称えられていたようだが、俺の前では所詮「無能な猿」だったってわけだ。」
シンは怒りのあまり、唸り声をあげることしかできなかった。
男はそのまま立ち上がり、階段の近くまで歩を進めた。
そしてそこからシンを見ながら口を開いた。
「そういえば、さっき"エル"とか言ってたな。」
"エル"。
それは、シンが勇者の旅に出る前から一緒の村で暮らしていた恋人の名だ。
シンが使っていた剣はエルから授かったもので、シンはとても大切にしていたのだ。
だから先程、剣が折れて怒り狂ったのだ。
「エルに・・・、手を出すな・・・。」
シンは嫌な予感がして、咄嗟に男へ口走った。
男はそのまま地面に倒れているシンを眺めていたが、やがて右側に顔を向けた。
そして言葉を発した。
「ノアベルト、こっちに来てくれ!」
その言葉と共に、若干の揺れがした。
誰かの足音のようだ。
ふと、シンも男が見ている方向に顔を向けると、そちらにはレンガでできた大きな入口があった。
そこからなにかが出てこようとしていた。
しばらくすると、入口から大型のミノタウロスが出てきた。
牛の頭で、上半身裸でかなりの筋肉質。
身長は4、5メートルはありそうだ。
「お呼びですか?」
「ああ。 さっき言った通り、コイツに見せてやれ。」
男がそういうと、ミノタウロスは左手をシンに見える位置に持ってきた。
・・・その時であった。
先程ほどまで怒りに満ちていたシンの表情が、血の気の引いた顔に変わった。
ミノタウロスの左手には、両腕を掴まれて空中をぶら下がっている女性の姿があった。
女性は全身裸になっており、体には白いなにかが大量に付着していた。
そして体のどこからか、白いなにかが出ていた。
「そ・・・そんな・・・、こ・・・こんなことが・・・。」
シンはかなり動揺している。
それもそのハズである。
ミノタウロスが掴んでいる女性こそ、シンの恋人である"エル"だからだ。
「これが現実だ。 お前は世界も救えないし、大切な人も救えない。」
男はシンを見つめながら、静かにそう言った。
シンはというと、色々な感情が押し寄せ、もはや正常ではいられなくなってしまった。
「殺せ・・・。 俺を・・・殺せ・・・。」
何度もそう訴えるシン。
もはやその姿は「勇者」と呼ばれた者の姿ではなかった。
しかし男は元勇者の願いに答えなかった。
「ガンドルフォ!」
その言葉と共に、ミノタウロスが出てきたところと反対側の入口からも何者かが出てきた。
それはオーガだった。
オーガはシンを掴み上げた。
「なにを・・・。」
シンはこれから自分に起こることが理解できなかった。
しかし、それは当然のことだった。
直後に男が衝撃的な発言をした。
「お前はこれから「女」になるんだ。」
男はポケットに手を突っ込みながら、掴み上げられているシンを見上げながら言った。
当然シンはどういうことか理解できなかった。
「ガンドルフォは基本女好きだが、女顔もしくは中性的な男を「女」にすることも好きなんだ。」
「な・・・、なんだと・・・!?」
「良かったな、中性的な顔で。」
その言葉が、男だったシンが最後に聞いた 包帯男 の最後の言葉だった。
シンは何もできないまま、オーガに連れていかれたのだった。
「やめろ・・・、やめろ・・・。」
もはやシンには叫ぶ気力もなかった。
「マッド様、お疲れさまでした。」
女悪魔が包帯男に近付いてきた。
翼と尻尾を動かしながら、物欲しそうな顔で男を見つめている。
すると男は女悪魔の首を掴み、強く握った。
「ああっ♥ マッド様ぁ・・・♥」
女悪魔は苦しむどころか、気持ちよさそうな笑みを浮かべていた。
男はそのまま床に女悪魔を叩きつけた。
「あんっ♥」
卑猥な声を出しながら、女悪魔は床に倒れた。
「あとで死者蘇生を済ませておけ。 生贄は何でもいい。」
男は一切顔を向けず、女悪魔に命令をした。
息を荒げながら女悪魔は「はいぃ・・・♥」と答えた。
男はミノタウロスの方へ歩を進めた。
「もう連れ帰っていいぞ。」
そして、そう命令した。
ミノタウロスはエルを連れて戻っていった。
男は階段の近くへ行き、先程までシンが入ってきた扉の方を向いた。
「さてと、どういうことだオーガスタス。」
扉の方へ声をかけた。
すると、扉からさっきの顔無しの悪魔が入ってきた。
「ちぇっ、アイツならアンタを殺してくれるかと思ったのによ。」
「ほう、そうか。」
男と悪魔の会話内容は物騒だが、互いに落ち着いた声色で話している。
すると悪魔は宙を飛び、男を見下ろしている。
「いつかアンタからボスの座を奪ってやる。」
「何度目だ、その台詞。」
やはり互いに落ち着いた声色で会話していた。
そして悪魔は、そのままシンが空けた穴から外に飛び去った。
「今日も特に、忙しくはなかったな。」
包帯男はそう言って、階段を上った。
そしてソファに座り、昼寝をし出した。