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第7話 爆発オチなんてサイテー

 ――“NONENAME”が復活しました


 気がつくと俺は、またもや教会の前に立っていた。どうやら――もう何度目になるかわからないが――俺は死に、復活したようだ。

 が…今回少しばかり、今までの“死”とは、違うところがあった。



 つい先ほど。俺と三久瑠の二人は、すでに幾多と挑み敗走していた、そのダンジョンへと、11回目のトライを行っていた。まあ、敗走してた原因はどれも、俺がすぐにやられてしまってたってのが、理由なわけだが。


 しかし今回は、秘策があった。

 妹の為に少しでも役に立ちたいと願う俺に、三久瑠が『兄ちゃんでも強いヤツを倒せる』と言って渡してくれた、アイテムが。謎の小瓶を持っていた。


 そして俺達は、ダンジョンに入ってすぐさま、“オオムカデ”と“クヨウ虫”なる、見るだけで背筋がゾワゾワする虫系のモンスターと出くわし、戦闘になった。


 当然のことながら。妹に少しでも良いところを見せて名誉挽回をしたい俺は、三久瑠に貰った瓶を手に、モンスターに挑んだ…わけだが。



 ――チュドーン


 爆発したのだ。瓶が。俺もろともに。



「兄ちゃん、迎えに来たぜ」


 教会の前で俺が茫然自失としていると、そこに三久瑠がやって来た。

 俺は迎えに来た三久瑠の方に視線をやると、静かに、問うた。


「…三久瑠よ、一つ…聞かせてくれ」

「なんだよ、急に?」

「さっき…お前俺に、くれたよな? 強いヤツ倒せるって言って、瓶を」

「うん」

「あのさ…あれ、なんか爆発したんだけど? それも兄ちゃんごと」

「だろうな。だってあれ、爆弾だもん」

「お前は実の兄貴に爆弾なんて渡したのか妹よ!?」


 なんでだよ! なんで兄貴に爆弾渡して、あろうことか、兄もろとも爆死させてんだよ!


「いやいやいや! これはさすがに怒るわ! 兄ちゃんでも! 怒らざるを得ねえよ! 兄貴に自爆特攻なんてさせる妹にはな!」


 確かに、確かに兄ちゃん言ったよ!? 妹を守るためなら何でもするって!

 でも自爆はねえだろ! モンスターもろともに、自爆させるって、鬼にも程があるわ!


 ていうかおい! よくよく考えたら三久瑠、お前さっき俺に『兄ちゃんのこと守ってやるぜ!』みたいなこと、言ってなかったか!? 

 なにを“お前が”兄貴殺してんだよ! 爆弾で! 爆殺しちゃってんの!?


「いや、なに言ってんだよ兄ちゃん。誰も、あれで自爆しろなんて言ってねえぜ。あの爆弾は普通、敵に投げつけて使うもんなんだぜ」

「なに!? そうなのか!?」

「そうだぜ。説明しようと思ったら、兄ちゃん聞かずにさっさと行っちまったじゃねえか。たく、人の所為にするんじゃねえよ…」


 そ、そうだったのか…

 なんたることだ! 俺としたことが、あろうことか、自分の不手際で、妹のことを疑ってしまった! 妹のことを、兄貴を爆殺して喜ぶ悪魔だと思い込んじまった! 

 夕闇明石、一生の不覚! 永遠に記憶して懺悔せねばならない最大の過ち! 死んでわびます! …あ、いや、もう死んでんのか。


「まあ、兄ちゃんが『うおおおおお!』って叫びながら爆発したときは、さすがに笑っちまったけど」

「やっぱお前、悪魔じゃねえか妹よ」


 兄が爆発して笑うなんて、なんて血も涙もない妹なんだ。

 しかし、それでも俺は、三久瑠の事を変わらず愛しているけどな。


「でもさ、兄ちゃんの“とーとい”犠牲のお陰で、倒せたぜ。あのモンスター二匹」

「む? そうか…倒せてたか。まあ俺の命を代償にしたんだ。それくらいして貰わなきゃ困る」


 これで雑魚モンスター二匹すら倒せないなんて事になったら、それこそ俺は泣いてたぞ。俺の犠牲はなんだったんだってな。


「でさ、アイツら倒したら、アイテムドロップしたんだぜ。兄ちゃんの手柄だから、やるよ。そのアイテム」


 三久瑠はそう言って、俺にアイテムを渡してきた。

 ドロップアイテムか…ふむ、何だか嬉しいな。やっぱこの手のゲームの楽しみは、強大な敵を倒して、自力でアイテムを入手することだろうし。

 ま、俺が倒したのは雑魚モンスターで、その上、自爆特攻なんて阿呆みたいな手段で倒したんだけど。


「えーと、なになに…俺の命と引き換えに手に入ったアイテムは…」

「『オオムカデの内臓』と『クヨウ虫の体液』だぜ!」

「…」


 え、待って。俺の命を代償にしたのに、ゲットできたアイテムって、そんな虫けらの残骸だけなの? 手に入ったのって。

 俺の命って、その程度の価値しかないの? 文字通り『虫けら同然』なの?


 いやいや、落ち着け。落ち着くのだ、夕闇明石。世界で一番の兄貴よ。三久瑠に世界で一番愛されているお兄ちゃんよ。

 そんなわけがないだろう。俺の命が、そんなに安いわけがない。


 そう、きっとあれだ。実はこのアイテム、こんな名前とは裏腹に、実はもの凄く価値があって、裏では高値で取引されてるとか、そういうことに違いない。店で買おうとしたら、滅茶苦茶ゴールドが必要とか、そんなアイテムに違いない。きっとそうだ。


「み、三久瑠? ちなみにだけど、この『オオムカデの内臓』と『クヨウ虫の体液』って、もし店で買うとしたら、いくらくらいかかるんだ?」

「どっちも5ゴールドだぜ」

「二つ合わせても回復薬と同じ価値しかないの!?」


 なんてことだ! こ、この俺の命が、まさかの回復薬一個と同価値!? たったの10ゴールドだと!?

 ふざけんな! 俺の命はもっと価値があるぞ! 俺の人権保護を要求する! もっと命を大切に! セーブ・ザ・ライフ!


「ちなみにだけど、その二つ店で売ったら、どっちも2ゴールドにしかならないぜ。だから実質、4ゴールドの価値しかないよ、兄ちゃん」

「この上さらに俺の命の価値が暴落した!」


 やめて! もうやめて! 俺のハートはズタボロよ! これ以上、俺から人としての尊厳を奪わないで! 人でなくなっちゃう! てか、もう人でなくなってる! 虫けら同然になっちゃってる!


「ク、クソッ! 何だこのクソゲーは! なんだこの、人様の命をないがしろにする、罰当たりなゲームは! 即刻サービス終了しろ! 発禁だコンチキショウ! R18…いや、R100認定しやがれってんだ!」

「いや、なに勝手なこといってんだよ兄ちゃん…元はと言えば全部、兄ちゃんが、アタシの話も聞かずに、自爆しちまったのが悪いんだろ?」

「そういえばそうでした」


 妹に窘められて、正気を取り戻す兄貴がいた。

 俺だ。これぞ兄妹愛。妹の愛が、狂った兄を正気に戻したのである。


「いや、しかし…マジで酷すぎるぞ、このゲーム。俺の命を何だと思ってやがる。これは、レビューサイトで悪意ある評価をしまくるしかないな、うん」

「やめろよな、マジで。いくら兄ちゃんでも怒るぜ?」


 久しぶりに見た、妹の怒り顔に、俺は恐怖半分、そして愛くるしい妹の姿に興奮半分で、「ごめんなさい、調子に乗りました」と謝る。


「…つーか、この『オオムカデの内臓』と、『クヨウ虫の体液』って、何なんだ? なんかに使えるのか三久瑠?」


 自分の命を対価にして手に入れたアイテムを見つつ、妹にそう尋ねる。

 もしこれで『何の役にも立たねえぜ』とか言われたら、その時こそ本当に、俺はこのゲームをクソゲーと心から断ずることになるだろう。

 が、どうやらその事態は避けられたようだった。


「一応の使い道はあるぜ。一応な」

「へぇ、どんな?」

「その二つを調合して、新しくアイテムを作るんだよ。兄ちゃんさ、いっぺんステータス画面、開いてくんねえか?」


 妹にそう言われ、俺は言われるがまま、ステータス画面を開く。


「そこにさ『調合・錬成』って書かれたところ、あるだろ?」

「ああ、あるな」

「それをさ、タッチして、画面開いてくれ」


 ――ブゥン


「おぉ…なんか、画面開いたぞ。ただ、全部『???』ってなってるけど」

「そりゃあ、兄ちゃんはまだ、調合書も何も、買ってねえ初心者だからな。調合レシピがアンロックされてねえんだぜ。んで、その『???』って書かれてるヤツの中に、一つ、光ってるのがないか?」

「光ってるの…あぁ、あるな。なんかピカピカしてる」

「それをタッチしてみてくれ兄ちゃん」


 ――ピロロン!

 ――『蠱虫エキス』の調合に成功しました


「…なんか『蠱虫エキス』ってのを調合できたらしいんだけど」

「それが、オオムカデの内臓とクヨウ虫の体液を使って、調合できるアイテムなんだぜ」


 なるほど。こうやって、アイテムを調合できるのか…覚えとこう。


「つまりオオムカデの内臓とクヨウ虫の体液は、この蠱虫エキス?ってのを作るための、材料だったって事だな」

「そーゆーこと」

「と言うことは、この蠱虫エキスが、なんかの役に立つって事なのか?」

「ううん。全然役に立たねえぜ」

「…」


 どうやら、やっぱり俺の犠牲は、無駄だったようだ。

 命を対価に得たアイテムを調合して作った蠱虫エキスとやらは、妹曰く『全然役に立たない』のだそうだ。

 よし、死のう。死んで生まれ変わろう。こんな情けない、役立たずな命はさっさと捨て去って、生まれ変わった新しき人生を歩むのだ。それが世のため人のため、なにより妹の為だ。


「その蠱虫エキスな、一応敵にぶっかけて、相手を毒状態に出来るんだけど…でも、毒の効果時間は短えし、ダメージも少ねえしで、誰も使わねえんだよ。なんでこんなアイテムが存在してんのか、わかんねえレベルで。だから…って、兄ちゃん。何処行くんだよ?」

「ちょっと今から、あのダンジョンに戻って、死んでくる…人として」

「…どういうことだよ」


 そんなわけで、最恐美少女三久瑠ちゃんと、その兄であるゴミクズの俺の冒険は、まだまだ続くのだった。



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