第18話 走馬灯と疑念とウニ
妹に、口へと大量のウニを詰め込まれる刹那。
俺は走馬灯のように、一つの疑念を抱いていた。
俺の計画。それは、本当に『ゲームの勢力図を一変させうる』ものだ。経済システムを根本から覆し、新たな常識を作り出してしまう、そんなとんでもない計画だ。
しかし…それと同時に、ゲームの安定そのものを揺るがしかねない、計画でもある。もっと直接的に言うのなら『運営によるゴールドの掌握システム』に、楔を打ち込む、計画なのだ。
運営はこれまで、商業系ギルドから利益の大半を奪い、搾取し、統治ギルドに多額の統治権購入費を支払わせるなどして、ありとあらゆる手段を講じ、ゲーム内通貨ゴールドの価値を保ってきた。インフレを防いできた。
しかし。もし俺のこの計画が成功すれば、そう言った統制システムは、完全崩壊するだろう。特に、商業系ギルドからゴールドを奪えなくなる影響が顕著だ。
果たして…現在これほどまでに頑強で堅牢な“ゴールドの掌握”を行っている、このゲームの運営が、こんなミスをやらかすのか? 蠱虫エキスの素材調達費と、売却価格を同じにしてしまうなんて、阿呆みたいなミスを。
統制システムが完全崩壊しかねない致命的隙をさらすか、普通?
それこそ運営は、俺のような“悪意ある”プレイヤーが、その支配に楔を打ち込むことがないように、注意深く警戒してるものじゃないのか? 意地でも、反乱など起こせないように、してるもんなんじゃないのか?
そんな疑念が、俺の中でグルグルと渦巻く。
(もしかして…運営も、一枚岩ではない?)
運営の手による、確固たる“プレイヤー支配”と“経済掌握”。それを推し進める派閥がある一方で、それに異を唱え、ゲームの行く末を、プレイヤー達に任せるべきだと、そう考えている者がいる? ソイツが、こんな“つけいる隙”を用意した?
だとすると、恐らくソイツは、こう考えている。
『俺のような“悪意あるプレイヤー”の発生も含めて“ゲーム”であり、その結果、世界そのものが崩壊してしまおうとも、それもまた、運命なのだ』と。
もしそんな奴がいるのなら、実際の所ソイツは、テロリストに近い。このゲームの崩壊を招く、危険人物に他ならない。
まあ、それを実際に実行しようとしている俺に、言えたことじゃないが。
しかし…いるのか? そんな奴が。俺のようなヤツの発生まで見越し、隙をわざわざ用意しておいた、変わり者が? 策謀に長けた何者かが、実在しうるのか?
もしそうならば、俺はソイツの手のひらの上で、踊らされていることになるが…
「…」
いや、無駄だな。そんな見ず知らずの、運営の人間の事に思いを巡らせても、何かが変わるわけではない。答えがわかるわけではない。
俺のやることが、変わることはない。
俺は今、俺に出来ることをする。それだけだ。
それがたとえ、崩壊の序章だったとしても。
なぜ、それをなすか?
その理由は『出来るから』だけで、十分だ。
そこに、大義名分など無くとも。
俺はそんなことを考えながら、怒り狂う三久瑠が押し込んでくるウニの大群を、必死に飲み込んだ。死ぬかもしれん。
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