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第16話 俺の計画を”さらに”明かそう

「三久瑠、お兄ちゃんは今まで散々、この蠱虫エキスが、ゴールドの代替通貨として利用できると言ってきた。それがどういうことか、わかるか?」

「えーっと…確か、蠱虫エキスをゴールドの代わりにお金として使って、プレイヤー同士でアイテムを買ったり売ったりすることが、出来るようになる…とかじゃ、なかったっけ?」

「そうだ、その通りだ妹よ。本当にお前は、賢いなあ。どんだけ頭が良くなれば、気が済むんだって感じだ。誇らしいぞ」


 ゲーム内通貨ゴールド。プレイヤー間で、そのやり取りを行う事は不可能。そのため、プレイヤー同士でアイテムを売買するには、一度ゲーム内の店を経由するか、若しくは、アイテムの価値をゴールドに換算して、取引を行うしかない。例えば、回復薬は一つで5ゴールドの代わり…みたいな、感じで。


 このやり方は、面倒くさい上に、利益の半分を運営に奪われる等、相当に非効率であると言うことは、もう何度も言ってきたことだ。しつこいくらいに。

 しかし、しつこく言わねばならないほどに、この仕組みは、重要で、重大なのである。


「蠱虫エキスは、その素材を店で買うのに10ゴールドが必要だ。しかし、蠱虫エキスは、店で10ゴールドで売れる。つまり、蠱虫エキスをゴールドの代わりの代替通貨として利用すれば、無駄なく商取引が可能になるって事に、他ならない」

「うん、そんくらいは、アタシでもわかる」

「で、だ。蠱虫エキスを代替通貨として利用した場合、誰が一番、その利益を享受できるか?」

「商業ギルドの奴ら…だよな?」

「そうだ三久瑠。連中は今、本来なら10ゴールドで売れる回復薬を、たったの5ゴールドで、店に売っている。そして消費者である一般プレイヤーも、商業系ギルドの奴らが5ゴールドで店に売った回復薬を、10ゴールド払って買うしかない」

「だから、アイツらは『“うんえー”に“さくしゅ”されてる』っつってたんだよな」

「あぁ。じゃあもし、蠱虫エキスを代替通貨として用いて、商業系ギルドの奴らが、回復薬を欲している俺達一般プレイヤーに直接、それを売ったとしたら?」

「…商業ギルドの奴らは、10ゴールドで回復薬を売れるってわけだな」

「その通りだ」


 5ゴールドで売っていたモノを、10ゴールドで売れるようになる。説明するまでもないだろう。これは、とんでもない事態――まさしく革命だ。


「これまで商業系ギルドの奴らは、運営に利益の半分以上を、搾取されてきた。しかし、蠱虫エキスで、他プレイヤーと直接、売買をすることによって、運営の関与を受けない取引を行う事が、可能になる。連中が、そうなることを望まないはずがない」


 これこそが、蠱虫エキスの持つ可能性だ。

 ゲーム内の経済システム、流通システムを、一新しうる、その力なのだ。


「もし、蠱虫エキスが代替通貨として利用できるとわかったら、すぐにでも商業系ギルドの奴らは、アイテム取引の全てを、蠱虫エキスを用いた取引形態に移行するだろう。なんせ、そうするだけで、今までの倍以上の利益が、見込めるようになるんだからな。乗らない手はない。――が、そこで問題が起きる」

「…問題?」

「蠱虫エキス――正確に言えば、その材料となる“オオムカデの内臓”と“クヨウ虫の体液”が、店で売ってないって、問題さ」

「…!」

「アルカディア中のアイテムショップを見てまわったが、どの店にも、その二つの素材は、殆ど置いていなかった。置いてたとしても、その数はあまりにも少なかった。まあ、言うても雑魚モンスターの素材だからな。それも虫系の。店で売ってもたいした金にならないし、アイテムバックを圧迫するしで、皆ドロップしても、持ち帰らずに捨ててるんだろう」

「…だろうな。アタシも、もしアレが兄ちゃんの命と引き換えにドロップしたアイテムじゃなかったら、持ってかなかっただろうし」

「…」


 なんだか複雑な気分だ。

 お兄ちゃんの形見を持って帰ってきてくれる優しさを感じた一方で、俺が命を代償に手に入れたアイテムは、所詮その程度のものでしかないと、罵倒されたような気もする。


「…ま、まあつまりだ。買えないんだよ、その二つのアイテムは。誰も売らないから。多分だけど、そのことも、この蠱虫エキスの有用性が明らかにならなかった原因の、一つだろうな」


 逆を言えば、兄ちゃんがあそこで爆死して、この二つのアイテムを手に入れたお陰で、その有用性が明らかとなった――と、言うことでもある。

 即ち、俺の犠牲は決して、無駄ではなかったのだ! すばらしい!


「で、話を戻すが。この蠱虫エキス、代替通貨としての有用性があるが、しかし店で売られていない。その為、今の状況じゃ、とてもじゃないが通貨として運用するには至れないってわけだ。そこで、俺達の出番だ、三久瑠よ」

「やっとかよ! 今か今かと待ちわびてたぜ! それで、どうするんだ兄ちゃん?」


 目をキラキラさせてそう尋ねる妹に、俺はニヤリと笑みを浮かべ、そして答えた。


「良いか、妹よ。俺達は今日これから、蠱虫エキスを――その素材となる、“オオムカデの内臓”と“クヨウ虫の体液”を大量に、市場に供給するのだ!」


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