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第15話 俺の計画を明かそう

「“きんこー”を潰す? 兄ちゃんが?」


 我が妹、三久瑠は。突如として、テロ宣言をした自らの兄、即ち俺を、目を丸くして見た。


「どういうことなんだ? 兄ちゃん。ちゃんとわかるように、説明してくれ」

「当然だ。その為にこうして今、話してるんだからな。――まず第一に、俺が崩そうとしている均衡とは、他でもない『商業系ギルドの分布』の均衡だ。すでに言ったが、今現在、このゲームの商業系ギルドは、全ての街にほぼ均等に、分布している。そのお陰で、どの街でもアイテムに困ることはない」

「うん。それで?」

「…兄ちゃんはな、そんな風に『均等に分布している』商業系ギルドの拠点を全部、さっきまで俺達が居た街――城塞都市アルカディアに、引っ越しさせようと、計画してんだ」

「…!」


 全ての商業系ギルドが、城塞都市アルカディアに拠点を移す。即ち、生産したアイテムを、アルカディアの街に存在するアイテムショップにばかり供給し、他の街には供給しないようなる。

 すると、どうなるか?


「…アルカディア以外の街では、アイテムが買えなくなっちまう…のか? 兄ちゃん」

「そうだ三久瑠。やっぱり賢いな、お前は」

「…そうか、わかったぜ。兄ちゃんのやりたいこと。アイテムを、アルカディアでしか買えなくなっちまったら、皆アルカディアに移動するしかない。…拠点を、アルカディアに移すしかなくなる。あの街に、M&S中のプレイヤーが、集まるようになるって事だな?」


 その通りだ。さすがは三久瑠、俺の妹だ。

 恐らく三久瑠の頭の中には既に、俺と同じビジョンが浮かび上がっている事だろう。


「大勢のプレイヤー達が、拠点をアルカディアに移す。それによって最も利益を得るのは、一体誰か?」

「…統治ギルドの連中だ」

「そうだ三久瑠。お前の言うとおり。もっとも良い思いをするのは、他でもない統治ギルドだ」


 統治ギルドの収入源。それは、城塞都市アルカディアを拠点にするプレイヤー達からの、拠点登録料の徴収だ。

 一週間につき1000ゴールド。それを対価に、プレイヤー達はアルカディアを拠点として、登録して貰う。


「一人当たり、一週間1000ゴールド。じゃあもし、今より急激に、アルカディアを拠点にするプレイヤーの数が、増えたら? 当然だが、統治ギルドの収益は、急増する。とんでもない額な」


 俺の計画の狙いは、ここにある。

 計り知れない額の収益増。それを盾にして、アルカディアを支配する統治ギルドの連中と、交渉するのだ。


 …いや、交渉というのは、正しくないな。

 脅し、乗っ取るのだ。城塞都市アルカディアと、そして統治ギルドそのものを。


「だがな、この計画には一つ、問題がある。どうやって、各地に散る商業系ギルドを、アルカディアに誘致するかって言う、問題が」


 俺の計画はそもそも『商業系ギルドをアルカディアに呼び寄せることが可能である』という前提の元、作られている。

 逆に言えば、それが不可能ならば、俺が立てたこの計画は、根底から崩れ去り、机上の空論と化してしまう。


 しかし――俺には、力があった。武器があった。情報があった。

 各地の商業ギルドをアルカディアに誘致するに足る、考えが。




 ◇


「三久瑠。覚えてるか? 兄ちゃんが見つけた、このゲームの“裏技”のこと」


 三久瑠にそう尋ねると、可愛らしい妹は「え? うーん…なんだっけ…」と、首をかしげた。

 あぁ、なんと愛らしい。撫でたい。怒ってるから、撫でさせて貰えないけれど。


「5ゴールドで購入できる“オオムカデの内臓”と“クヨウ虫の体液”を、調合して作った“蠱虫エキス”が、10ゴールドで売れるって話だ。蠱虫エキスには、ゴールドの代替通貨としての価値があるって、話だよ」

「あぁ! それか! 覚えてるぜ兄ちゃん!」


 元気いっぱいに、三久瑠は答える。


 蠱虫エキス。俺の命と引き換えに手に入れた、虫系モンスターの残骸。

 そして、今やゲームの勢力図を一変させうる、恐るべきアイテム。

 ゴールドの代替通貨たり得る、計り知れない可能性を秘めたアイテムだ。


「ゲームに居たとき、お前お兄ちゃんに聞いたよな? 『蠱虫エキスが自分たちの役に立つのかよ』って。んで、俺は答えた。『これ自体は、役に立たないんだ』って」

「うん、言ってたな」


 蠱虫エキスは代替通貨として利用できる。何度も言っているが、それは確かだ。そして、少なくともその事実は、プレイヤー間で直接やり取りできる“貨幣”を、喉から手が出る程に欲している商業ギルドの連中にとっては、計り知れないほどに有益だ。


 しかしながら、俺達兄妹のように、別に商売を営んでいるわけでもない一般プレイヤーにとっては、何の意味も無い。何の利益も生み出さない。

 俺はそう言った。


 そして、その事実は変わらない。


 しかしながら…直接的に利益享受を出来ずとも、この『代替通貨として利用できる』という事実を使うことで、いとも容易く、俺達兄妹の利益と成すことが、可能なのだ。


 そしてそこで出てくる話こそ、先ほど俺が説明した『商業ギルドの拠点をアルカディアに集めることで均衡を崩す』計画なのである。


「兄ちゃんさっき、『商業系のギルドの連中をアルカディアに引っ越させる方法』が、必要なんだって、言ったよな。覚えてるか?」

「うん、覚えてるぜ」

「その方法。連中を引っ越しさせるための手段こそが、他でもない、蠱虫エキスなのさ三久瑠」

「…?」

「…わかんないか。ま、仕方ないな。小五には、まだちょっと、難しからな」

「うん、わっかんねえ。だからわかるように教えてくれよ、兄ちゃん」

「おぉ、なんて勉強熱心。良い子だなぁ、三久瑠よ。その熱心さを、忘れるんじゃないぞ?」


 今時の子供には、この三久瑠のような熱心さが欠けているからな。

 三久瑠こそまさに、世界中の子供達の、あるべき姿。この姿を教科書に載せて、広く周知させるべきだ。


 まあ、日本の教育を憂うのも、程々にして。


「蠱虫エキスで、商業ギルドの奴らを、アルカディアに呼び寄せる。その方法は、至ってシンプルだ。単純なのさ、凄くな」



「――アルカディア内にあるアイテムショップに“だけ”、大量に蠱虫エキスを、売りさばけば良いんだ。俺達が」



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