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第12話 おぉ妹よ、お前はなんて賢いのか

「さすが兄ちゃんだぜ! まだゲーム始めたばっかなのに、もうそんなことに気がついちまうなんて! すごい! 大好き!」

「ははは、やめろよ三久瑠ぅ。そんなに褒めるなって。恥ずかしいだろぉ?」

「ヤダね! 褒めちゃうもんね! ついでに抱きついちゃうもんね!」

「あははは、困ったなぁ。ほら見ろよ、皆俺たちの事、見ちゃってるぞ。俺達兄妹のことを、好奇の目で見ちゃってるぞ。羨ましそうに。恥ずかしいじゃないか。な、三久瑠。現実でゆっくり、抱きついて良いからさ。今はそんなに、お兄ちゃんに愛を振りまかないでくれよ。あとでゆっくり、誰もいないところで、熱く抱き合おうじゃないか。な?」

「いや、それはちょっとキモいからヤだぜ」

「泣くぞ、兄ちゃん」


 まあ、妹にキモいって言われたことは、置いとくことにして。誰もいないとこでコッソリ、涙を流すことにして。


「そういうわけだ、三久瑠よ。お前の優秀で天才なお兄ちゃんはな、ウィンドウショッピングしてる最中に、気付いちまったんだよ。この事実に。変革の可能性を孕んだ、この仕組みに」


 事の発端はそもそも、俺が三久瑠に言われて待っている間ずっと、アイテムショップを物色して楽しんでいたことだ。

 始めは、ジロジロと商品を舐め回すように見て、営業妨害をしてやろうと考えていたのだが、しかしそこは、善良で清い心を持つ俺だ。罪悪感がふつふつと沸き上がってしまい、何も売り買いせず、ただ店にいることを、悪く思ってしまうようになった。

 なので仕方なく、俺は店でショッピングをしてやることにした。


 が、しかし。ショッピングをすると言っても、その時の俺は無一文だった。死にまくって教会で何回も復活して貰ってたせいで、文字通り身ぐるみ剥がされてたわけだ。


 でだ。そんな俺が唯一持っているものと言ったら、例の“命と引き換えに”ゲットしたドロップアイテム2つを調合して作った、蠱虫エキスだけだった。

 なので、まあ他に出来ることもなかったし、蠱虫エキスにたいした思い入れもなかったし、俺はそれを店で売っぱらってしまい、それで得た金で、何かアイテムを買う事に決めたのだ。


 そして、知った。蠱虫エキスが10ゴールドで売れるという、その事実に。


「まあ、実際運だな。運が良かった、それだけの事なんだよ、三久瑠」


 世渡りの素養の一つに“運”があると、よく言われるけれど。それはあながち、間違いじゃないのかもしれない。俺自身としては、そんな他人任せ・天任せは、好きじゃないのだが。運命とは自分で切り開くものであるという持論を持つ、俺としては。


「最も、運だけあっても、意味が無いと言えば、無いんだけど。例えば、もしも兄ちゃんが、ここで『蠱虫エキスが10ゴールドで売れる』って事に気がついたとしても、そこから『だから蠱虫エキスは代替通貨としての価値を持っている』って気がつけなかったら、なんの意味なかったわけだし」


 運は重要である。それは間違いない。しかし、その運を、自分の利益として還元できるかは、その人間次第である。

 何処かでそんな格言を聞いた覚えもあるが…どこだったか。まあ、どうでも良いか。



 三久瑠は、運も才能も知恵も身につけた、完全無欠の最強お兄ちゃんのことを“キラキラ”と輝く、ビー玉のように美しい両の目で見上げながら「やっぱ兄ちゃんはアタシの自慢だぜ!」と笑った。

 よせやい、照れるだろ。


「でもさあ、兄ちゃん。聞いていいか?」

「ん? なんだ? 良いぞ、何でも聞いてくれ。お兄ちゃん、三久瑠に聞かれたこと、なんでも答えちゃうから」


 その質問がたとえ『人は何故生きるの?』みたいな、極めて哲学的で抽象的な質問だったとしてもな。全身全霊、自分の人生全てを賭けてでも、その問いに答えてやろう。


「あのさ、兄ちゃんが、この蠱虫エキスが…“だいたいつうか”?として使えるってことに、気がついたってのは、まあわかったよ。なんとなく」

「ああ。それで?」

「うん。それでさ…兄ちゃんが、なんか凄いことに気がついたって事は、わかったんだけど。でもわかんねえんだ、アタシ。それがどんな風に、兄ちゃんやアタシの、役に立つのかが」

「…」


 おぉ、妹よ。我が愛する三久瑠よ。お前はなんて、賢いのか。

 その齢ですでに『物事を自分のメリットとなるように利用する』ことの重要性を、知っているとは。お兄ちゃんは誇らしくて、涙が出そうだ。


 手に入れた情報。得た知識。それらはどれも、自分の利益になるよう用いてこそ初めて、価値を持つ。知識を知識として持っているだけでは、それはただの粗大ゴミにすぎない。

 ああ、三久瑠よ。世の中にはそんな、手に入れた知識を、自分のものとして利用することも出来ない、残念な人間もいるってのに。なんてお前は、凄いんだ。賢いんだ。出来る子なんだ。

 すぐさま『それがどういう風に役立つのか?』って考えることが出来る。賞賛に値するぞ。将来が楽しみだ。


 そして確かに、三久瑠の言うとおりだ。


 蠱虫エキスを、ゴールドの代替通貨として利用することが可能。俺はそのことに感づいたわけだが。じゃあそれが一体どういう形で、俺達兄妹の役に立つのか? 

 実のところを言えば。この『代替通貨として使える』という情報は、俺達にとって一文の得にもならない。残念なことにも。


 この事実は、あくまで『蠱虫エキスをゴールドの代わりに通貨として用いることでプレイヤー間での商取引を円滑に行えるようになる』という、それだけの事だ。

 そして、その恩恵を受けられるのは、あくまで商業系ギルドの者達――今現在、商売するに当たって、ゲーム運営に多額の利益を搾取されている者達だけだ。


 ゲーム内で特に、大規模な商売をやってるわけでもない、俺や三久瑠には、恩恵なんて殆ど無い。


「え? そうなのか? じゃあ、兄ちゃんが気付いたのって、アタシらにとって意味なくね?」

「妹よ、それは早計だぞ」

「そーけー?」

「はやとちりという事だ。三久瑠、いいか? 確かにお前の言うとおり、この情報は俺達に、直接的な利益はもたらさないだろう。それは、ほぼ確実だ。が、しかし。この情報を武器として用いれば、話は大きく変わってくる」

「情報? 武器? ちょっと待てよ兄ちゃん。アタシにはなに言ってんのか、さっぱりなんだぜ。わかるよう、教えてくれ」

「OK。もちろんだ妹よ。この優しい最高のお兄ちゃんが、小五のお前にもわかるように、懇切丁寧に、説明してやろう。俺の言いたいこと。俺の考えてること。そして…俺の計画と、野望の全てを」


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