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REPETITION DEAD  作者: 森戸ひろき
chapter1 : Goblin Mine
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MIRAGE(3)

「わたしも実物を見た事があるわけじゃないから断定出来ないけど、多分祭儀場跡かな。残ってた調度品の紋様とか材質から判断すると、700年前くらい?それと、龍を祀ってたような感じ」

「そうなのか、全然分からん」

「……分からんってばっかり言ってる気がするけど、イルミナって本当に勉強してたの?」



考古学なんて普通の学校じゃ習わないよ、とは言わなかった。

ここでラフティのやる気を削いでしまうと仕事が更に遅れるし、何より嬉しそうな顔を見るのは久しぶりだったから邪魔する気になれない。

あの子の笑顔を見るのは会った時以来だろうか。



「既に調査済ですから詳しく判断する必要はありませんよ。それより、住み着いた子鬼ゴブリンと深部の発見を急ぎましょう。長居しない方が良いでしょうし」

「つってもなぁ、崩落したとこなんて何処にもなかったぞ?」

「小鬼も居ないしね。やっぱ騙されたんじゃないのわたし達」



私達が遺跡に到着してから既に20分ほどが経過していた。

内部はそれほど広くもなく、5分もしないうちに全て見回る事が出来るくらいだった。


入り口から入ってすぐに大広間、奥に調度品置き場や詰め所と思われる小部屋。

それら以外に部屋は無く、広間の中央に台座の痕跡を残すのみである。

外周も含めて全て見回ったが子鬼の影も無ければ崩れた場所も無く、三周ほどして飽きてきたのが現状だ。


何の成果も無く帰ってもお金は貰えないので、暇潰しを交えながらまだ留まっているが。



「……私も、薄々騙されたのではないかと思ってはいましたが。これは問い詰めねばなりませんかね」

「暴力沙汰は勘弁しろよ。ただでさえ問題起こしたばかりなのに」

「嫌ですねぇイルミナ、私がそんな下手を打つとお思いですか?」

「本当にやめてくれ……」



相変わらず怖い事を言うクラリスを宥めつつ、当てのない探索を続ける。

壁の隙間、床のひび割れ。燭台や台座周り。手当たり次第に触って叩いて引っ張ってみる。



「……いくら調査済だからって、遺跡を荒らすのは良くないよ」

「しょーがないだろ。どこにも崩れた場所が無いんだから、後は子鬼が塞いだって可能性くらいしか残ってないんだ。見た目で分からないなら総当りでやるしかない」

「そういう話はしてないんだけど……はぁ。気は進まないけど仕方ないか。ノーム、周囲の構造調べて」



ラフティが精霊に何か指示するのと、私の行動はほぼ同時だった。

詰め所内の燭台を触っていると微かに動く気配があったので、ブロックごと壁に押し込んでみた。

奥まで動かすと、がちゃん、と音が鳴った。だが特に変化は無い。



「むぅ、何も起こらないな。明らかに仕掛けが作動したと思ったんだけど」

「老朽化して動かないんじゃない?それよりもノームに調べてもらったんだけど、中央に──」



突如、遺跡が揺れる。それと同時に大きな崩落音が広間から聞こえてきた。

慌てて部屋を飛び出すと台座跡付近が崩れており、大きな穴が空いていた。

近くに居たせいかクラリスがへたり込んでいる。



「クラリス!怪我してないか!?」

「仕掛けを作動させる時はせめて一言下さいませんか!?崩落に巻き込まれるとこでしたよ!」

「ご、ごめん……」



とりあえず無事なようで安堵するが、運良く免れただけで下手をすると殺してしまう所だったのを思うと背筋に冷たいものが流れる。


クラリスにもう一度謝罪しつつ、穴の様子を確認する。

なんらかの開閉機構があったようだが歪んで上手く動作しなかったようで、そこに無理な力が加わって崩れたようだ。時間の経過で脆くなっていたのもあるかもしれない。

中は石造りの階段になっており、瓦礫が散乱している。入り口は差し込む光で多少見えるが奥がどうなっているかはまるで分からなかった。



「結構長そうな階段だな……明かりって持ってきてたっけ?」

「一応松明はありますけどお勧めしませんね。引火するような気体が溜まっていたら怖いですし」

「うーん、どうしようか」

「……なんか順番おかしくない?」



唐突なラフティの疑問に私もクラリスも反応出来なかった。

説明を求めると、崩落の報告があったにも関わらず崩落したのは今さっきなのはおかしい、という話だった。

確かに言われてみるとおかしいのだが、特別気にする事でもないと諭す。



「細かい事は気にするなよ。嘘が本当になっただけかもしれないし」

「いくらなんでも雑すぎ。ねぇ、クラリスは誰からその話聞いたの?」

「誰と言われましても、……あれ?誰、だったでしょうか。あれ、あれ?ちょっと思い出せません」

「……はぁ。もういい」



おかしいですね、と呟きながらしきりに首を傾げている。

らしくないと言えばらしくない。会って数日の人間の何を知っているのかと言われると困るが、少なくとも見てきた範囲では周到に準備するタイプの彼女が重要な情報を誰から聞いたか、なんて事を忘れたりするだろうか。

私自身若干の気持ち悪さは感じるものの、どうせ今は答えが出せないのだから気にしないのが一番だと一人納得する。


さてどうしたものかともう一度階段を覗き込むと、今度は奥の方に明かりの揺らめきが見えた。

松明を持った小さな人影も見える。


間違いない。子鬼だ。



「……中に松明を持った子鬼が居る」

「え!?で、でもさっきまで密室だったんじゃないの?どうやって中に……」

「外に通じているのでしょう。もしかすると崩落した箇所というのはそちらだったのかもしれませんね」

「それよりも、中で火が使える事が分かった方が重要かな。行くぞ、二人共」



階段の瓦礫に気を付けつつ降りる。

後ろでクラリスが慌てて松明を灯してくれるが、既に子鬼の姿は見えなくなっていた。


狭い階段を降り切ると、短い通路の先に先程の詰め所と同程度の大きさの部屋に着いた。

大きさは大体3m四方くらい。黴臭く、冷たい湿った空気が満ちている。

それ以外の部屋はないのに子鬼が消えてしまったため何事かと思ったが、入り口付近の壁の足元に穴が空いていた。人が通れる大きさでなく、おそらく子鬼はここから来たのだろう。



「まぁ、居ないのなら仕方ないか。それにしてもこの穴、地下なのにどうやって掘ったんだ……?」

「さぁ?でもそれは別に重要な事じゃないと思いますよ。それよりも、ほら。アレを見て下さい」



クラリスが指を差す方向に明かりを近付けると、壁に何かが飾られていた。

暗い、というより黒くて見辛いが、どうやら装身具アクセサリーのようだ。

明かりを更に近づけても光を吸うほど真っ黒なそれらは、酷く不気味な物に見えた。


首飾り、腕輪、指輪。細かい装飾は不明だが、そんな形をしている。

──どこかで見たことが、あるような。

そんな気持ちから手に取ろうとして、腕を思いっきり掴まれた。

我に返り振り向くと物凄い形相でクラリスがこちらを睨んでいた。



「ちょっと何してるんですか!不用意に触らないで下さい!!」

「あ、あぁ……ごめん。でも、何だか気になって」

「また仕掛けが作動して生き埋めなんて御免ですからね!全く、さっき言った事くらい守って下さい!」

「本当にごめん……しかし、なんだろうなこれ。祭具にしたって酷い見た目だし、大体なんで地下に?」

「んん、盗難対策か、あるいは表に出せない物か。まぁそれは置いとくにしても、出来れば持ち帰りたいですねぇ。どんな価値があるか分かりませんし」



要は黙って懐に入れてしまおうという話である。

不正行為は良くないと思うが、だからといって絶対に許せないというわけでもない。どうせ正直に報告した所で私達には何の得も無いのだから、黙って持ち帰る方がむしろ普通だ。ただ、先程の事もあり手を出すのが躊躇される。

良い手段が浮かばず二人でうんうんと唸っていると、ラフティがおもむろに近付く。


そのまま止める間もなく、指輪を鷲掴みにして取ってしまった。



「あぁーーーッ!!何してるんですかこの馬鹿!!は、早く戻しなさい!!」

「……別に何も起きないよ。ノームに遺跡の構造調べてもらってるから、これ以上の仕掛けなんて無いの知ってるし。ってあれ、言ってなかったっけ」

「い、言ってませんよそんな事……あぁもう、心臓が止まるかと思いました。ラフティ、そういう情報は事前に共有して下さい。びっくりするじゃないですか」

「わたし『馬鹿』だからー、そういうの分からなくてごめんねー」

「…………ンのクソガキ……」



あの二人、どうにか仲良くしてもらえないだろうか。見てる方としては気が気でない。

まぁ。それよりも、だ。


先程から気になっていた装身具をもう一度見つめる。

微かな明かりなど意に介さぬほどの漆黒。この首飾りを私は見たことがある。

だけどそれが何時、何処でだったかを思い出せない。


手に取ると冷たさが伝わってくる。石とも金属とも取れない、曖昧な感触だ。

重さも感じているのに本当にそこに存在しているのかさえ分からない。




─あぁ、やっと帰ってきた。なんと長かったのだろう。

なんだ、今の。私か?何を考えてるんだ。

─今はまだ二人共思い出せてないけど、これがあれば私達はまた会える。

思い出す?何の話だ。私じゃない思考なのに私の頭の中から溢れてくる。

─ラフティ。クラリス。私、今度こそ間違えないから、一緒に行こう──

やめろ。私の中に入ってくるな。やめろ、やめろ!

やめてくれ!









「やめろッ!!」



たまらず首飾りを床に叩きつけた。


気付けば息が上がっていた。冷や汗もかいているし、動悸も酷い。気分に至っては最悪だ、吐き気もする。

何だ、今のは。幻覚か、それとも呪いの類いか。気持ち悪いったらありゃしない。


あれは間違いなく『私』だった。『私』が私の頭の中に居た。

思考の内容は全く意味不明だったが、それでも短い間に恐ろしい情念を感じた。

理解不能の現象に、たまらず震える。



「イルミナ……大丈夫、ですか?」

「……え?」



不審者でも見るかのようにクラリスがこちらを覗き込んでいた。

心外だと言いかけたが、周りから見れば手にとった首飾りを突然床に叩きつけただけに見えただろう。

大丈夫、と短く返事をして床に落ちたそれを拾い直す。

すぐに手放せるように警戒していたが、今度は何も聞こえてこなかった。



「……何があったのですか?ただ事ではないと思いましたが、もし幻覚でも見たのなら危険ですし、手放した方が良いかと」

「いや、いいんだ。……大丈夫」

「へ、変に意地張らないでよ?何かあってからじゃ遅いんだからね?」

「大丈夫だって、少し幻聴が聞こえただけだから。今は何ともないし、それに、これを持ち帰らなきゃ仕事が終わらないだろ?」



そう言って掲げた首飾り。

それは黒い霧となって、初めからそこに何もなかったかのように霧散した。

二人が持っていた指輪も、腕輪も。ここに存在していなかった。


そして、更に幻聴が聞こえてきた。






”──待っていたよ、愛子(契約者)達。──”






頭の中に響いた、全身の毛がよだつ悍ましい声。

どうやらこの場の全員に聞こえていたらしく、顔を見合わせる。


何か恐ろしいモノを目覚めさせてしまったのかもしれない。

私達はもう一度目配せすると、一目散に遺跡から逃げ出したのだった。

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