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猫の目で見る世界  作者: 灰羽アリス
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 9月も後半になり、体育祭が近づいていた。グラウンドでの予行演習も、どんどん、本格的になっていく。


 その日は、2・3年生合同で、玉入れとリレーと、ムカデ競争の練習を行う予定になっていた。


 あたしはニナと二人で、一番楽そうだという理由から、出場競技として玉入れを選んだ。走らなくていいし、ケガの心配もないし、汗もかかない、ネットにお手玉を入れるだけの簡単なお仕事だ。


「玉入れぐみ、集合」


 先生の掛け声で、玉入れを選択している2・3年生がネットの下に集う。佐野誠の姿もあった。


 あたしたちの学校はいわゆるマンモス校で、各学年8クラスほどある。それゆえ、運動会の組み分けも、赤組と白組に加え、青組まである。あたしは赤組で、佐野は青組だった。


 赤と白と青のお手玉が三つのネットの下に無造作にばらまかれ、先生の笛の合図で、みんな一斉に玉入れを開始した。

 

 砂ぼこりが舞う地面から、自分の組の色玉を拾い上げ、ネットに向かって投げ入れる。ニナもあたしもそんなつもりはなかったのに、気づけば汗をかくほど本気で玉入れに興じてた。なんだ、意外に楽しいじゃん、玉入れ。ニナと笑い合っていた、その時だった。


「おい、佐野!ふざけんなよ!」


 怒鳴り声に、あたしはびくっとそちらを向いた。赤組のはちまきを首にかけた、いかにも目立つタイプな色黒の男子が、佐野に詰め寄っていた。


「ウケねらいかよ。こんなとこでふざけても、ぜんぜん面白くねぇから」


 赤組のネットには、青い球が数個混ざって入っていた。あたしは、すぐにわかった。佐野には、赤が青に見えてる。二つの色を間違えて、青を、赤組のネットに入れてしまったんだ。


「マジ、萎えるわ」


 佐野をなじった男子に、他の男子も追随する。背中にかいた汗が冷え、足ががくがくした。佐野は、わざとやったわけじゃない。あたしは知ってるのに、違うんだと声をあげられない。


「いるよね、ああいうやつ」


 隣でニナが嘲笑する。佐野は困った顔で笑ってた。


「ごめん、間違えちゃった」


 その声が、寒々しく響く。


 ああ、佐野はこうやって周囲から孤立していくんだ。なんで、玉入れなんて選んだの。怒りは、選択を間違った過去の佐野に向く。


「佐野、真面目にやれよ」


 体育の先生が、言った。周囲から失笑が漏れる。

 この体育教師は、3年2組の担任で、つまり、佐野の担任だった。


 なんで、あんたまで佐野を笑いものにするの。色覚異常のこと、あんたなら知ってるはずでしょ。……もしかして、知らないの? うそ、ホントに?


「すみません」


 佐野は、へらりと笑う。


 ここに機関銃があったなら。あたしは迷わずそれを手に取って、あの色黒の男子筆頭に、この場にいるやつらを全員撃ち殺してやる。体育教師は、念入りに。激しい殺意が沸いた。


 気持ちが悪くなって、そうして都合のいいあたしは、それを理由に逃げたんだ。佐野を取り巻く、意地の悪い世界から。


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