4
昼休み、グラウンドでサッカーをしている男子たちを、ニナと二人で教室の窓から眺めているときだった。
教室に残っていた大人しめの女子のグループの一人が、歓声をあげた。
頬を赤く染めて、その視線の先には、佐野誠がいた。佐野は花壇でひとり、花を見ていた。同級生で花を愛でる男子なんて、普通はいない。相変わらず、変な人だなぁとあたしは呆れた。
「佐野先輩、すごく優しくて。それに、かっこいいの」
その子が熱っぽく言う。ついあげてしまった大きな声を恥じるように、音量を落とす様子が可愛らしかった。
───佐野誠は、かっこよかっただろうか。よくわからない。でも、細身で、色白ではあった。一部の女子にはウケる個性かもしれないけど、不健康そうだと、あたしは思うだけだった。
「それにすごいんだよ。去年、美術部で描いた絵が、全国大会で最優秀賞とったの」
そう聞こえた瞬間、あたしは弾かれるようにその子を見た。
たしか、この子は美術部だ。その子が呼ぶ、”佐野先輩”。佐野誠も、美術部なんだ。部活で描いた絵が、全国大会で最優秀賞。
このとき、あたしの感情を占めたのは怒りだった。
自分は絵ですごい賞を取ってる天才のくせに、凡人のあたしの絵をもらって、あんなふうに喜んでみせたわけ? きっと、内心バカにしてたんだ。稚拙な絵を描きながら、感想文で語ってるイタいあたしを。周りに言いふらしてるかもしれない。
『俺はこんなすごい賞とってんのに、凡人の絵なんかもらっても嬉しいはずないのにさぁ。あいつ、喜々としてプレゼントしてきたぜ』
美術部で、佐野に恋するこの子にも、面白おかしく話して聞かせるんだ。どこかで晒し物になっているかもしれないあの絵を思って、泣きたくなった。
───誰にでも、直視できない青い時代というのがあるわけで、あたしにとってはこの頃がまさにそれ。
とにかく周囲の視線と評価を気にして、それらにいちいち過剰反応して、ひねた妄想を繰り広げる。
中学生だったんだ、仕方なかったんだと言い聞かせても、顔をそむけたくなるような思い出の数々。
このときは、恥ずかしかったんだろうな、と思う。何にも知らずに、自己肯定感に浸ってた自分が。どうしようもなく恥ずかしくて、それが怒りとして発露してしまった。




