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騎龍転生  作者: 森野青果
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0-3

 いったい、だれが、どこで、喋っているのだろう。

 なぜいつまでも、このゲートは閉じたままなのだろう。

 耳鳴りがする。

 うるさい。

 あ……あたまが、

 あたまが、いたい。


「……より、レースを即刻中止せよとの要請が」

「なに? どこの要請だって?」

「国立天文台です」

「徹夜して寝ぼけてやがるのか。星を占って来るはずもない大外でも買ったのか。特別に払い戻すと言ってやれ」

「それが気象庁と文部科学省からも、レベル5の避難勧告が……」

「レベル……ファイブだと……?」


 ほんとうに、なんでこんなにあっけないくらい、一瞬ですべてが決まってしまうのかしらね。


「スタートしました!」


「さあ、各馬一丸となってのスタートです。先行は予想どおり十三番オンリーブラッド二馬身半のリード、続いて一番イカルスワン、そのあとに三馬身遅れて黒い巨星、八番のキュクロプスが悠々と脚を進めます……第一コーナーを回って馬群はやや縦に広がった恰好。さてタケミカヅチはどこかというと、これはいつもどおり、最後尾近くに白い馬身が流れます…」


 だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、

 たとえ落馬してでも、この子を止めなくては、

 この子は怯えている。

 こわくて、こわくて、何も見えなくなっている。こわいものから、ひたすら、逃げようとしている。

 こわいものから……

 でもそれは、


 それは何なの?


「あっ、と、ここで先頭が入れ替わって、なんと早くも八番キュクロプス。三コーナーを回ってオンリーブラッドを抜き去ると、瞬く間に引き離してゆく。これまでにないレース展開に観客席から思わず驚きの声が上がります。 キュクロプス、逃げる、キュクロプス、逃げる、逃げて、四コーナーカーブ。いよいよ最後の直線コースに入った。先頭は依然八番キュクロプス、二番手の十番ベーリングラムを三馬身半引き離してなおもその勢いは留まるところを知りません!」


 タケルは最終コーナーの遠心力を利用してホースの身体を外側へ回した。頭痛も耳鳴りも不思議とまったく静まっていた。

 静かすぎるくらいに。

 真横に並び、重い足音とともに草を蹴散らして進む群の先頭に、怯え、泣き叫びながら走る黒いホースの姿があった。むろん現実には黙々と脚を進めているようにしか見えないが、タケルには黒いホースのすさまじい恐怖を肌で感じることができた。

 いや、キュクロプスとかいった、あのホースだけではない。あれほどでないにせよ、ここに群がるホースたちは多かれ少なかれ何かを怖がり、怯えながら走っていた。そして騎手たちの誰もが、そのことに気づき、戸惑っているようだった。先頭を行くヤエカほどではないにせよ。

 唯一タケミカヅチだけが、何も恐れていないようだった。かれだけが、何かから逃げるのではなく、みずからの意思で、行くべき場所へと向かっているように思えた。


「行くよ、タケミカヅチ。あの子を助けなきゃ」

 疾走する白い身体に、タケルは鞭を入れた。


「さあ残り三百メートルをきった。外から猛然と追い上げてくるのは七番、白い稲妻タケミカヅチ! タケミカヅチが坂をもろともせず、飛ぶような勢いで猛追してきます!

残り二百メートル、三番シーエクスプレス、十番ベーリングラムを瞬く間に抜き去り、先頭を行く八番、キュクロプスを射程距離にとらえた!

すでに二頭は並んでいる、二頭はぴったりと並んでいる、十五万の大歓声が二頭を包みこむ、キュクロプスか、タケミカヅチか、白い稲妻か、黒い巨星か、三番手をはるか後方に起き去りにしたまま、白と黒、タケミカヅチとキュクロプス、二つの閃光が、いま……!?」


 タケルは何度も同じ夢をみた。

 夢は、いつも同じ終わりかたをした。

 ゴールを駆け抜ける瞬間、空から巨大な白い光が降ってきた。

 すさまじい閃光の中で、漆黒のホースが棹立ちになり、ヤエカが宙に投げ出されるのを見た。

 思っていたよりずっと華奢なんだな。

 なぜかそんなことをぼんやりと考えた。次の瞬間、タケルは急旋回するタケミカヅチの上で、彼女を抱きとめるために思いきり両手を広げた。

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