表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎龍転生  作者: 森野青果
1/15

0-1


 タケルは何度も同じ夢をみた。夢の中には、いつも奇妙な生き物があらわれた。


 龍、と呼ぶには小さすぎるようで、角も牙も翼も生えていなかった。なめらかな毛で全身を覆われ、首の後ろに長いたてがみがあり、耳が長く、尻尾はふさふさした筆のようで、優しい目をしていた。

 現実には見たことがないはずなのに、夢の中のタケルはその生き物のことをよく知っているようだった。知っているどころか、愛情すらいだいているように思えた。現に、夢の中のタケルは、まるで騎龍に乗るときのように、背中にまたがっているではないか。

 この夢の中にしかあらわれない不思議な生き物のことを、仮にタケルは“ホース”と呼んでいた。

 美しく晴れわたった空を、古めかしい楕円形の競技場が取り囲んでいた。

 エブライン競技場よりは、はるかに小規模だが、それでも階段状の客席はぎっしりと観衆で埋めつくされ、ただならぬ熱気に包まれていた。


 ぼくは、このレースに出るつもりなのか?


 周りには、同じような白い布を纏った十七、八頭のホースがいて、数頭が青や黄の覆面を被らされていた。ほとんどが茶褐色か黒い毛並みの中にあって、タケルの乗るホースだけが白いのだった。

 騎手たちはそれぞれ派手な羽織を身につけ、赤、オレンジ、青などの、つるりとしたかぶとをかぶっていた。かれらの体躯がタケルと同様に小柄であることに、妙な安堵感をおぼえた。

 

 向こうで楽隊がファンファーレを鳴らすと、観衆が一気に沸いた。調子を合わせて手拍子を叩き、わああっ、と、声をあげた。

 やがて一頭、二頭、と、ホースたちは騎手を背中に乗せたまま、おかしな帽子をかぶった男たちによって、目の前のゲートへ引かれていった。その途中、ちょうど隣に並んだ騎手が、タケルに意味ありげな目配せをおくった。ガラスの半マスクを兜の上まで持ち上げたとき、はじめて女性だとわかった。美しい切れ長の目でかれを見据え、挑発的な笑みを唇に浮かべた。


 ヤエカ・フジシロ……

 どういうわけか彼女の名前を、タケルは知っている気がした。

 かれに向かって、彼女が口を開いた。


「知ってた? ちょっとだけ私の人気が勝ってるのよ。ヤエカのゼッケンが八番だから、縁起を担いだってところかしら」

 彼女の乗るホースは、全身を脂を塗ったようにつややかな漆黒の毛でおおわれていた。鬣が異様に長く、いかにも精悍な体つき。馬衣には白地に黒で「8」と染め抜かれていた。タケル自身がまたがっている馬衣には、「7」の文字がみとめられた。ヤエカは言葉を継いだ。

「それにしても、同じ枠を引くなんて、皮肉なものね。おかげで人気が四枠に集中しちゃって、このレース、商売あがったりじゃないの」


 わからないよ、先のことなんて、誰にも。


 考える間もなく、言葉が口をついて出ていた。ヤエカの赤い唇が挑発的にゆがんだ。

「ある程度はね。でもならばどうして、私たちのオッズだけが二倍をきっているのかしら

「それは……」

「教えてあげるわ。それは、このキュクロプスを私が駆り、タケルくん、あなたがタケミカヅチに乗るからよ」

 彼女はガラスの半マスクを引き下げた。そうして並んでゲートに入るとき、軽く片手を上げてみせた。急に辺りは陰に包まれ、獣特有のにおいが籠もった。タケルはホースの白い頸をそっとなでた。ほとんど無意識に、笑みがこぼれた。


 そんなに走りたいのかい、タケミカヅチ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ