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家事使用人の面接

「これより、面接を始めます」


 十回以上は聞いたであろう言葉を耳にし、俺はよろしくお願いしますと頭を下げた。

 

 目の前にいる面接官は、十代半ばの少女だった。 

 白色と赤色が入り交じるドレスという大人っぽい衣装だが、大きく丸い瞳にはこどもっぽい無垢な光が宿り、子供らしい丸みのある顔つきをしている。

 しかし、彼女こそが雇用主にして、ラヴァンディエ王国を治める血が流れる者の一人……レリア=ラヴァンディエ様である。


 ラヴァンディエ王国は、二百年以上も続く世襲制の王国だ。

 政治や大企業の役員は王族が多数を占めているほど、強い権力を握っている。この国の凄いところは、その王族たちが役職に相応しい働きをしていることだ。


 当然のことなのだが、他の王国だと王族が給与泥棒になっているケースが多い。金をもらうためだけに居座り、時にふんぞり返って意味不明な指示をする、なんてよくある話だ。だがこの国では違う。

 〝民を動かすなら、まず王が動け〟

 それがこの国の鉄則らしい。全員が全員そうではないだろうが、そういう方針があること自体が異質だろう。


 俺もこの国について詳しいわけじゃないが、幼くして広大な土地を管轄しているレリア様が何よりの証明だろう。


「レリア=ラヴァンディエです。王族だからといって、変にかしこまらないでくださいね。自然体のオルトさんをぜひ拝見させて頂きたいです」


 レリア様が軽く会釈すると、王族の特徴であるミスリル金属より輝く銀の髪がさらさらと肩から落ちる。

 声音も幼いが、その佇まいは王族そのもの。言葉一つ放つために、空気がぴんと張り詰めている。


 ちなみに、俺が受けているのは〝家事使用人〟を雇うための面接である。

 男が使用人を務めることはあまりないが、力仕事や護衛も兼ねられることから、採用例が無いわけではない。

 

 俺が家事使用人の求人に応募したのは、採用されたら今の野宿生活から即開放されるためである。

 泊まり込みのため住む場所は提供され、三食きちんと用意され、加えて制服まで支給される。給料は平均より低いとはいえど、俺にはこれ以上ない職場だった。


 しかし、だからこそ、余計に緊張してしまう。

 ここが駄目なら、待ち受けるは餓死する未来だからだ。


「わ、わかりました」


 かしこまるどころか、言葉がどもってしまった。

 テーブルの下で太ももをひねり、気合を入れ直す。


「緊張されてるんですね。あ、でも安心してください。そのことは採用基準ではありませんので」


 口元を手で抑えて、くすくすと微笑んだ。

 けれど、大きな瞳はじっと俺を捉えている。面接官として、俺を選定している目だ。

 ずっと見られていると、ただの面接な筈なのに尋問を受けているような気分になる。それほど圧があった。


 加えてこの面接会場……真っ赤な絨毯にきらびやかな飾り付けが施された壁、豪勢なシャンデリアと、部屋全体から感じる〝場違い感〟が半端じゃない。


「あなたの名前は〝オルト=ウィールライト〟で間違いないですね?」

「はい」


 綴りと発音が合っているかの確認にすぎないが、今度はしっかりとした滑舌で答えられた。緊張が僅かに解れた気がする。


 次に来るであろう質問が最初で最大の難関だ。

 ここでどこまで相手の心を握るかが勝負の鍵となる。


 汗でひたひたになっている手を握り直し、次の質問を待つ。


 履歴書を見ていたレリア様の目がある一点で止まる。そして群青の瞳が俺へと向けられた。


「もしかして……元勇者様だったのですか!? どんな強靭な敵にも立ち向かい、人々を助けるあの勇者様だったと!」

「はい。つい三ヶ月前まで勇者でした」


 レリア様の目がさらに大きくなり、きらきらと輝く。

 勇者など俺は大したものではないと思うのだが……世間一般から見れば憧れの存在なのだろう。


「実はラヴァンディエ王家も、遥か昔は勇者の家系だったのですよ! 勇者同士で手を取り合い、支え合う団体を作る……それがこの国の始まりなんです」


 俺はごくりと喉を鳴らす。

 歴史までは勉強していない。もし歴代の王族や過去の事件のことを聞かれたら何も答えられない。

 もし知らないことを聞かれたら、潔く知らないと言おう。下手に取り繕って、後で無知がバレたときのリスクが大きすぎる。

 覚悟を決めて、俺は次の言葉を待った。


「凄いと思いませんか? 野心ではなく、絆で国を作ったのですよ! それをきっかけにありとあらゆる魔物を倒し、人々の問題を解決して、今の平和なラヴァンディエ王国が生まれたのです。私もその志を大切にし、国民と手を取り合い作る世界を維持するのが使命だと思っています。あなたはどう思います?」


 まくし立てるように話すレリア様。

 とりあえずここは、賛同する他ないだろう。


「……すごく崇高で、賛同できます」

「でしょう? 王族だからと傲慢に振る舞うのではなく、庶民と同じ目線で物事を見て、判断を下す。これが王としての責務だと思うのですが、どう思います?」

「全くもって同意です」


 話しては頷き、話しては頷く。

 先程から俺はレリア様の話に、ただ頷くことしかしていなかった。面接というよりも、話の長いおじさんの相手をしているかのようだった。


「もしこの屋敷に務めることになれば、この国の歴史を重んじて〝絆〟を第一に行動して頂きます。例えば誰か国民が困っていたら、手を差し伸べてください。もちろん、私に報告するだけでも構いません」


 民のために尽くすのは当然の義務。

 実情はさておいて、その考えに関して異論はない。


「もちろん構いません」

「分かりました。では、明日からのお仕事をお願いしますね」

「わかりま……え?」


 俺は固まってしまった。

 レリア様はくすりと微笑み、


「オルトさんさえよければ、採用させていただきます。部屋も食事もら今日からご用意できますので。もちろん無理にとは言いませんが……駄目でしょうか?」

「ありがとうございます! 俺で良ければぜひ、頑張ります!」

「では改めてよろしお願いしますね」

「はい!」


 俺は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 躊躇う余地などあるだろうか。このチャンスを逃せば、次にいつ巡り会えるか分からない。

 と、ここで俺はふと一抹の不安を覚える。


 ――なんかおかしくないか?

 

「ネージュ! この方に紙を!」


 レリア様がパンパンと二度手を叩くと、部屋のドアがゆっくりと開いた。ピンク色のふわふわとした髪の女性が恭しく頭を下げながら部屋へと入る。紺色の生地に白いレースであしらわれたメイド服に見を包んでいる。

 大人びた雰囲気と、メイド服を着こなせる可愛さを同時に持ち合わせている。


「はじめまして。この家の使用人長を務めますネージュ=ユイット=ヴェンよ。よろしくね」


 見た目にそぐわないふわふわとした声が、頭に響く。

 家事使用人長は、もっと厳格で規律に厳しいイメージを持っていた。しかしここは違うようで一安心した。

 

「はいっ! よろしくお願いします!」

「ふふっ、元気でよろしい。じゃあ、この雇用契約書にサインを……ひゃうっ」


 ネージュさんは何もない床の上で、豪快に尻もちをついた。ふわりとスカートが浮き、白い太ももが顕になる。俺は慌てて目を反らした。

 ひらひらと宙に舞う紙を掴み、顔を反らしながら、空いている手で倒れているネージュさんへ差し伸べる。


「大丈夫ですか?」

「ありがとう」


 鼻を真っ赤にし、はにかみながら俺の手を掴み、立ち上がった。


「ネージュ、歩き出しは特に足元に気を配りなさいって言ってるでしょう?」

「ごめんなさい、レリアちゃ……レリア様。次からは気を付けるわ」

「その言葉、もう何百回も聞いてますよ。直るまでにあと何千回聞かないといけないか楽しみですね」

「もう、意地悪なんだから……」


 二人を見ていると、姫と使用人というよりは姉妹のようだった。


「俺はこれを書けばいいんですね」

「はい。サインはこちらのペンでお願いします」


 ネージュはゆっくりと歩き、机の上にペンを置いた。

 俺は椅子に座り雇用契約書に目を通す。


 王家の紋章が刻まれていること以外、普通の雇用契約書だった。紙も一般的なもので、インクも市販されているものを使われている。

 俺は無意識に、手に魔力を込めて紙を撫でていた。


「オルトさん、それは〝契約証書(ヴォークィア)〟ではないですよ」


 俺はその言葉で初めて自分のしていることに気付いた。


 契約証書(ヴォークィア)

 それは契約を結ぶもの二人以上が、直筆で名を書くことにより発動する儀式魔術である。発動方法は至って簡単で、魔力の籠もったインクで契約内容と違反時の処罰を記すだけ。その時点で術式が発動し、両者に契約遵守を強いることができる。

 術式が解かれないよう、国同士の重要な取り決めの場合には紙自体に幾重の術式が仕込まれるケースもある。


「あっ、すみません! 決して何か疑ったりしていたわけでは……」

「分かっていますよ。この手の紙に直筆で書くときは、魔術が仕込まれてないか疑うのは常識ですし、冒険者様はよく使われますよね」


 冒険者にとって契約証書(ヴォークィア)は必需品である。

 国や人からの依頼内容と報酬を決めるにあたり、必ずといっていい程契約証書(ヴォークィア)が使われる。依頼の成功条件が途中で変わったり、報酬が少なくなったりするトラブルが多いからだ。


「そうなんですよ。だから反射的に調べるくせがついてしまって……でも冒険者より、王族の方々の方がよく使うのでは?」

「そうですね。国との条約を結ぶときや、自国の兵に対しても反乱を起こさないよう使います。私は、何だか自由を奪うようで好きじゃ無いんですけどね」


 契約証書を好まない人も少なからずいる。

 行動を強いる観点から、倫理に反しているとされるからである。

 とはいえ、魔術とは総じてそういうもの……使い道次第で良くも悪くもなるものだと思っているが、口には出さなかった。


 そして俺は、改めて紙へと視線を向ける。

 サインするためペンを持った瞬間、心の中にあったぼんやりとした不安が、不意に大きくなった。

 何か理由とか、きっかけとかがあったわけじゃない。

 内定をもらって安心したから、というのもあるかもしれないが。


 ――ここ、ブラックなんじゃないか?


読んでいただきありがとうございました!

ホワイトか……ブラックか……オルトの運命や如何に。


次の更新は明日の夜です。

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