〝勇者〟というブラック職業
〝勇者〟と呼ばれる人たちをご存知だろうか?
それは職種であり、同時に、称号でもある。
この世界の辞書には〝人のために率先して、勇ましく行動する者〟と定義されている。主に〝魔術〟を用いて困っている人を助けると何でも屋、と考えてもらっていいだろう。
魔術とは、体内に満ちる〝魔力〟というエネルギーを源とし、様々な奇跡を起こす力のことである。勇者は、自らに宿った魔術の得手不得手に合わせて、こなす仕事を変えている。
勇者の仕事内容は多岐に渡る。
人を喰らうモンスターを討伐する。
要人の護衛をする。
未知の土地の開拓を行う。
いなくなったペットの捜索をする。
などなど、挙げていけばきりがない。
勇者に仕事を依頼するために〝ギルド〟という仲介業者を使う場合が多いが、依頼者と勇者が直接依頼をすることも可能である。すばやく、柔軟に動くことができる勇者の需要は尽きることがない。
長ったるい書類を書き、何人もの偉いさんのハンコが無ければ動けない国立騎士団や、マニュアルに沿った動きしかできない警察より、遥かに頼りになる存在だろう。
かくしてこの世界は、勇者中心にすべてが回るようになっていた。文化も、政治も、戦争も……全ては勇者たちが導いている。まるでこの世界の救世主かのごとく。
………が、それはあくまで世間一般の認識である。
実際勇者側からしてみれば〝ブラック〟な仕事でしか無い。
何がブラックなのかというと、理不尽な仕事や、報酬に見合わない危険極まりない仕事が溢れていることである。
薄給なのに長時間の束縛、依頼内容が依頼者都合でころころ代わり、挙げ句の果には難癖つけられ報酬を低くされる。
高給な依頼は、数日間に渡る遠征の末に命を賭けた死闘となることが多い。高給と言っても、せいぜい一ヶ月暮らせるほどにすぎない。
命を賭けて一ヶ月を勝ち取った、など笑うにも笑えない。しかも、依頼遂行に必要な道具・装備一式は自己負担というオマケ付き。
加えて、勇者として昇格できるのは貴族か、タレント性に溢れている者ばかり。その他大勢の勇者の一人に過ぎない。
この俺……オルト=ウィールライトも勇者だったが、二年ほどで辞めてしまった。いつまでも不合理な扱いと変わらない待遇に辟易し、精神的にも体力的にもついていけなくなったからだ。
「俺は……平穏な日常を過ごしたいだけだ!」
そう言って勇者仲間から逃げてきて、早三ヶ月。
貯金もほぼ無くなり、みすぼらしい貧乏生活を送っていた。
口にするのは野に生えた草か市場の試食品ばかり。
限界が見え、絶望に呑み込まれる寸前。
俺はふらっと立ち寄った街で最後の希望……求めていた求人票にたどり着く。
環境、条件、待遇……全てに申し分ない。
その求人票に全力をかけようと、一目見た瞬間に思った。
俺は数日洗ってない体を思い出し、新しい服を買ってから宿屋へと足を向ける。
これで貯金はほぼゼロ。
次の面接が人生の分かれ目となるだろう。
ドラゴンと対峙したとき以上の緊張を抱きながら、俺は面接へと望んだ。
新作を投下しました!
前回と同じ短めの長編ですが、お付き合いいただけると幸いです。
一話目はプロローグのため短めですが、次話以降は平均3000文字を目安に投稿しますので、宜しくお願いします。
次の投稿日は明日の夜予定です。






