第1話
本当は日付が変わる前の月曜の内に書いて投稿したかったのですが、忙しくて無理でした。
ともあれ、ほんの僅かばかりの時間潰しにでもなれば幸いです。
昨日は日曜だった。
つまり、今日は月曜だ。
一週間の仕事の始まりとなる最初の日。
その月曜という日が上手く行くかどうか、いやもっというならこれからの一週間が上手くいくかどうかは、その前日である日曜の過ごし方に掛かっている。
今日が上手く行けば、これから先の一週間が上手く行く。
一週間が上手く行けば、その先の一ヶ月も上手く行く。
一ヶ月が上手く行けば、その先の、――。
そう、それこそ俺の人生そのものが上手く行く、という完璧な理論。
だからこそ俺は、今日という日が人生最高の日となるように、色んなことをやってきた。
そしてその成果が、
「あー、稔? 私眠いからね? 明日も朝早いし、だから寝るね?」
おやすみという挨拶もそこそこに、ベッドに潜り込んで寝息を立てているのが、幼馴染の涼子である。
男の俺を日曜の夜中に家にあげておいて、そんで「私シャワー浴びてくる」からのこれである。
ほんと、色っぽいことの一つもなくそっこで寝るとかどういう神経してんだと問い詰めてやりたい気持ちが半分。
お疲れのようだから寝かせてやりたいという気持ちが残り半分。
俺はベッドの脇に座り込んで、涼子の寝顔をぼんやりと眺める。
なんだかんだ、俺はこの幼馴染に甘いと言うか、
「好きだって、きちんと伝えられた良いんだけどな。……無理か」
もう二十年にも渡る片思いである。
涼子に気持ちを伝えようと思うと、思うように言葉が出てこない。
好きだという気持ちが心一杯になって溢れてしまいそうな程なのに、それをかけらも言葉にすることが出来ない。
そんな、意気地なしな自分がもどかしく、同時に。
涼子の鈍感さ加減というか、ある意味天然なところに全く太刀打ち出来ないのがもどかしい。
*
涼子に関連する恋愛の苦い思い出を遡れば、まず初めに出てくるのが中学時代の話になるだろう。
登場人物は俺と涼子という幼馴染のペアにもう一人、今はここには居ないそれなりに仲の良かった同級生の女の子である。
男1の女2というなかなかな組み合わせで、その頃から三角関係のもつれが……ということは全然なかった。
俺が涼子を好きで、そのことはそのもう一人の女の子も知っていて、むしろ協力してくれる素晴らしい女の子だった。
俺の心の中では、その彼女のことは親友認定ですらあった。
その親友には時々恋愛相談に乗ってもらうこともあり、心の支えにすらなっていた。
ただ、後になって思い返せば、その親友も親友でなかなかにぶっ飛んでいて、
「稔君さ、涼子ちゃんに告白しよ?」
いやだからそれ無理だっての。出来るんなら苦労しねえっての。
「じゃあさじゃあさ、私と稔君で付き合うフリしてさ、涼子ちゃんにヤキモチ焼かせよ? そしたら二人の仲も進展するよ!」
その時は、そりゃ名案だと賛同して、早速の翌日に涼子を呼び出して、
「俺、こいつと付き合うことにしたから」
彼女の肩を抱いて言うと、それを見た涼子が目を輝かせた。そして、
「わぁ、やった。私ね、二人を応援してたんだ! 良かったね稔! ここんとこ毎日二人でお話してたから怪しいなーって思ってたんだけど、でも稔の恋が実って良かったぁ、なんてね?」
ふむ、おいおかしいぞどういうことだ? ジト目で隣を見るも、親友の目は泳いでおり、ついぞ合うことはなかった。
「作戦は失敗だった訳だが、どうしたらいい?」
涼子にヤキモチ焼かせよう大作戦が失敗したその日の帰り道、俺は親友にそう話し掛ける。
「んー。んんー、涼子ちゃんって結構鋭いトコあるからさ。もしかすると、私達のこと気付いてたのかもね?」
ん? それはどういうことだ? 俺達が付き合っているのが演技だとバレていたということか? それならば……。
「本気で付き合うっていうのはどうだろう? そうしたら、何かが変わるかも?」
俺が本気で涼子以外の誰かを好きになったとして、それで何が変わるんだ……?
「稔君は、涼子ちゃん以外の女の子のことも見るべきだと思うよ? 他にもっと良い娘が居るかもしれないし。……ほら、私とか」
あんまり気は進まないのだが、そういうのも試してみるべきか。
「えっ!? あーうんそうだね。うんうん、付き合おう、うん。他の女の子のことを知ったら、涼子ちゃんの良いところも見えてくるかもしれないし!」
そうか。そうだな、ありがとう。よし、これから俺は新しい女の子を捜しに行ってくるぜ!
「え、あーちょっと稔君。あれぇー? 私と本気で付き合ってくれるんじゃ……?」
親友が何やら言っているようだが、そんなことは知ったことではない。
俺は俺のやるべきことをやるだけだ。