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月の裏側が見たい

作者: 紫陽花

あるところに、秀美に踊り、大変しなやかな肉体を持つ娘がおりました。

娘の踊りは大変な人気で、いつもたくさんの人々に、その踊りを披露しておりました。

しかし娘のかんばせだけは器量悪く、人々は残念がっておりました。

娘はいつも、そのかんばせをひた隠し、美しい踊りだけを、人々に披露します。

そしてある時、そんな娘の美しい踊りの噂を聞きつけ、一国の王子が、その踊りを見たいと言いました。

娘は王子のいる王城に呼ばれました。

踊りの観客は、王子と、ごく僅かな武装した従者のみです。

それでも娘は、いつものように自慢の踊りを誇らしげに披露しました。

そして娘が踊り終わると、やはりその踊りは褒め称えられました。

娘はとても喜びました。

娘の踊りを見た、王子も従者も、大変喜びました。

そして王子は言いました。

美しい踊りを見せる娘の、顔が、見たい、と。

すると娘は途端に戸惑いを見せます。

なにせ娘のかんばせは、その踊りと相対するかのように、美しさに欠けるものであるのですから。

娘は王子に告げました。

一国の王子に逆らう無礼をしたくはないが、醜い顔を見せる無礼をする方が、もっと、したくはないのだと。

娘の言葉を聞いた王子は、少しの間黙った後、静かに告げました。

実は自分は目が見えないのだと。

娘の美しい踊りを、本当には見ることができていなかったのだと。

ただ、見える者ならばきっと、娘の顔を見てみたいと言うのではないかと、そう思ったのだと。

娘は、そっと告げられた王子の秘密に、とても驚きました。

一国の王子ならば、健やかであることを、国民は望む。

それは、美しく踊る娘ならば、美しいかんばせであることを、人々が望むように。

王子は、騙して悪かったと、娘に謝った。しかし、娘の踊りの、軽やかな足音が耳にとても心地よかったのだと、それは本当だと、やはり静かに述べました。

娘も王子の言葉を静かに聞くと、一言告げたのち、王子の手を持ち上げ、自らのかんばせに触れさせました。

娘は王子に言いました。

踊りを褒めてくれてありがとう。大切な秘密を打ち明けてくれてありがとう。

王子も娘に言いました。

踊ってくれてありがとう。人々には見せない裏側を、魅せてくれてありがとう。

王子は娘を歓迎し、晩餐に招きました。

その日から、娘と王子は無二の存在となりました。

そんな宴の様子を、夜空の月が見守っておりました。

月の裏側を知る者は、未だ誰もいませんでした。

おしまい

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