表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

プカプカと

作者: ParticleCoffee

 トビラが開き、プカプカと浮きながらナイフが入ってくる。

 細長い刃と黒い樹脂の柄だけの飾り気のないペティナイフだ。

 ナイフは、室内の全員の視線を受けながら、ゆっくりと一直線に進んでゆく。

 課長の机の前でとまった。

 ナイフが課長の眼前に突きつけられる。

 課長が『なんのイタズラだ』と言う目で周りの人間を睨みつける。

 ふいにナイフが素早く動きだし、

 ――トスンッ

 と、課長の胸に刺さった。

 全員、何が起きたのかわからず呆気にとられる。

 課長もしばらく何が起こったかわからない様子だったが、自分の胸に突き立ったナイフとシャツにしみ出る赤いものを見て、自身の最後とも言うべき自体をようやく理解できたようだ。

 途端に顔面を叩きつけるように机に倒れこんだ。

 それにセキを切ったかのように、室内は阿鼻叫喚に包まれた。

 その話を、部屋にいた十人の社員全員が証言をする。

 が、捜査を担当する刑事は信じようとはしなかった。

 課長が評判の良い人物でないことから考えて、『十人の中の一人が犯人で、残り九人がかばっている』、と刑事はハナからそう決めてかかっているのだ。

 証拠隠滅の恐れがあるとし、全員が被疑者として逮捕勾留された。

 刑事とその同僚数人に囲まれて、個室で個別に『お話』をすることとなる。

 軟禁状態での、権威をカサにきた、陰湿で、執拗で、一方的な『お話』が数日にも渡っておこなわれる。

 そのうちに心身ともに打たれ強くない契約社員のひとりが、やってもいない殺人事件の告白を始める。

 残りの九人は、『あいつが犯人だ』という刑事作の素晴らしい台本の劇をさせられることになった。

 まもなく、犯人役の一人を除く全員が開放される。

 何一つ言葉をかわすこともなく、各々が疲れ切った表情でその場を後にした。

 そうした事の顛末を知ったナイフは憤る。

「自分の『手柄』を横取りされてしまった」と。

 今回の達成感を胸に、しばらくはおとなしくしているつもりでいたが、こうなってしまうと黙ってはいられない。

 ナイフは、そう簡単に犯人の座を明け渡すつもりはなかった。

 自分を閉じ込めている箱を切り開くと、証拠品保管室から抜け出す。

 階段を登り、廊下を進み、玄関をすり抜け、建物の外へと出る。

 なんの計画もない脱出だったが、ダレに見咎められることもなかった。

 ナイフはプカプカと浮きながら、偽物の犯人のもとに向かってゆく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ナイフには一体どんな動機があったのか。 特定の個人を狙った以上は何らかの動機があったと思われますが、それが最後まで気になりました。 でもこれは謎のままでいいのかもしれませんね。 [一…
[良い点] 面白かったです。途中も何らかの風刺になっているように感じましたし、最後も自分好みの終わり方でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ