幼馴染み
突然決まった絵理子の家で宿泊に照れ臭いような浮き浮きしている自分に驚いているさきである。
最近の週末は足立と打合せが続いていたせいだろうか…。チョッと大きめのバックを抱えて出勤してきたさきを振り返る
「足立君とどっか行くの?」振り返り様山本が声をかけた「足立さん?どうしてですか?」「だって最近二人はよく一緒にいるから…。」「違いますよ。今日は幼馴染みの家にお泊まりするんです」「幼馴染み?それって女性?」「そうですよ。どうしてですか?」「年頃の女が幼馴染みのいえにお泊まりって…。」「良いじゃないですか。独身同士だし」「へぇ…。変わってるのね?」「変ですか?」「親とは別に住んでるの?」「いえ、ご両親一緒です。家族ぐるみの付き合いなので…。」「ふーん珍しい付き合いね。」
「そうですか?会う機会が少ないので。」
山本と話しているところへ高城がやって来た「おはよう清水さん」「おはようございます。高城さん」「今日は大荷物だね?例のお泊まり会かな?」「はい」「この年でお泊まりって変だよね?」山本が高城に話を振る「そう?別に可笑しくないでしょ」さきは高城と執務室に向かった「泊りっこ出来るお友達がいる方が凄いのに何言ってるんだ山本。羨ましいんだよ。清水さんが」「…。そうなんですか?」「確かに後三年立てば同級生も結婚して泊まりっこは難しいかもね。家族ぐるみの付き合いがお互いできれば問題ないだろうけどさ彼氏も出来ると友達より大事な人もできてくるんじゃないの?」「成程、三年後ですか…。どうですかねぇ…。」「まぁ、気にしないで行っておいでよ。楽しみにしてるのは清水さんだけじゃないんでしょ?」「はいそうします」
その昼休み、ランチルームは賑やかである。同期の渡辺、先輩の高城、山本、珍しく足立も居る。遅れて近江課長がやって来た。
「清水さん、今日は予定が有るんだよね?」足立が声を掛ける「はい、幼馴染みとお祭りに行くんです」さきは素直に答える
「祭り?何処の?」「小さな町のお祭りですから知らないと思います」「遠いところ?」「ええ。電車でゆうに2時間は掛かります」「そんなに?清水さんの出身地ってどこ?」「フフ。秘密です。横浜育ちですが出身は別なんです」「そうだろうね。訛りとか気にならないもの。あの保って人も一緒?」何気に足立が尋ねた「ええ。今日泊まる友達の家の近所なのよ、明日はお休みだって言ってたから」さきは愉しそうに答えた「そうなんだ…。じゃあ一緒って事だね」「誰だ?保って」「幼馴染みです」「オイオイ男なの?幼馴染みって」「女性と男性です」「独身?」「はい、どちらも」「清水さん。もしかしてその人と付き合ってるの?」「いいえ。お友達です」「仕事は?」「お医者様ですけど」「医者かぁ…申し分無いじゃない?」「友達ですって」さきは苦笑して席を立つ「独身なら問題ないでしょう?」相変わらずの高城「…どうしてもそっちへもっていきたいんですね?」蒼子が呆れる「うん。足立が焦って動くの待ってるんだよ❗」「足立君?高城さんってば分かりにくいですよ」蒼子は気の毒そうに足立を見る「あいつ、変な落ち着きがるだろう?諦めてるなら良いんだけどさ。呑気っていうか」高城は足立へ目線をやる
ふと高城と目があって「付き合ってもいないのにどうしろと言うんですか?」足立が苦笑する「もっと強気で攻めて欲しいなぁ」高城がけしかける「さきにその気は無さそうですけど?」蒼子は首を横に振る「愉しそうにしてるわね」蒼子は呆れて高城を見る「楽しみなの。もうお祭りの気分です。浮き浮きしてるの小さな、子供に戻った感じ」席に戻ってきたさきは自分が浮き浮きしている事を言われていると思いニコニコしている「へぇさきでもそんなことあるのね?」さきに同調しながら蒼子が横から口を挟む「酷いなぁ…。私だって浮かれることもあります。もう…蒼子さんてば」「まあまあ。珍しいからついからかいたくなっただけよ」「そう言えば渡辺さんとは、お泊まりは無いの?」高城が尋ねた「お互い実家に住んでいるので旅行にいくことはあっても自宅に泊まりはないわね」「そう言えば無いです。幼馴染みだと違うんじゃない。親だって子供の頃の自分を知ってるから懐かしいだろうしね?」「そうですよ。実家住まいって事は親も含めてお泊まりだもの。」「さきの親は行かないの?」「ええ。だって一緒って変でしょう、私だけです」「子供のキャンプじゃあるまいし親は着いていかないだろ?」黙々とランチメニューを口にしていた近江課長が口を出す「そりゃあそうだね」高城が笑った「そうだ、足立、夕方俺に付き合え。」他部署の上司から声がかかり「えっいきなりなんですか?」やや引きぎみに足立がこたえる「良いから。今日は清水さんに振られたんだ。時間あるだろ?」「はぁ特に用は有りませんが。」「ちょっと待ってください。私と足立さんは特にお付き合いをしている訳では有りませんよ?」さきが慌てて口を挟む「似たようなものだろう。時間の問題じゃないのか」近江は笑って流す「よし。渡辺さんもどうだ?」「結構です。これでも予定が有りますから。」蒼子は即答した「本当かぁ?近江課長に付き合いたくないだけだろう?」「違いますよ。高城さんこそ」「高城は誘ってない。」近江が口を挟む「ひどぃ。随分じゃないですか課長」「高城は先週行ったろう?」「そうでした。今回はパスです」「愉しそうね。」さきが呟くと「さき程じゃないけどね」蒼子が笑う「あのう、足立さんとはイベントの企画で…。」「良いじゃない。虫除けにしておけば」「そんな失礼な事…。駄目よ」「さきは、真面目過ぎよ。もっと軽く考えたら良いのに❗」「イヤそれはどうなの?足立さんに好意を寄せている人が聞いたら誤解しちゃうでしょう?」「本当に足立が好きなら噂の真相を足立かさきに尋ねると思うよ。若しくはその程度しか興味が無いって事じゃない❗」「蒼子さん。」「少なくとも私がその立場なら問い詰めるよ。真相をね」「…。足立さんもスルーしないでちゃんと言わないと❗」困り顔のさきは、何も言い返せない
「今度、清水さんも誘うからね」近江課長が優しく声を掛ける「はい、でも課長。私と足立さんはお付き合いしていませんよ❗」さきは断言する「良いじゃないか。そのまま付き合っちまえば…。」「そんな無責任な事…。」「清水さんは僕と噂されるのがそんなに嫌なの?」「嫌って…。私は今のところどなたともお付き合いをする気はないです」
「じゃあ利用すれば良いじゃないか?」「利用って…。」「面倒な誘いから身を守れるじゃないか」
「それは、その都度お断りしていますから…。」「僕らの年頃は、フリーだと面倒な誘いが、多くなるんだよ。本当は好きな人がいて困っているんなら遠慮するけど。僕もフリーだし、お互い都合が良いかと思った。」「そう言うものかしら?」「それで良いと思うけど?」「はぁ…。」「エスコートしますよ。何処へでも」「イヤ必要ないです」
にやけながら近江はさきと足立のやり取りを見ている
「次の機会に渡辺さんも清水と一緒に誘うよ」「そうですね。前以て知らせてもらえると有り難いです」「分かった」
業務が終わりプチ旅行気分のさきは東京駅に向かう「お疲れ様。清水さん気を付けてね」「ありがとうございます。行って参ります」「楽しんでおいで」「はい。」近江課長が、杉山班長が、高城が送り出してくれる❗本当に良い職場に恵まれたなぁと実感した
「さき。こっちこっち。」絵理子が一週間分の荷物を持って手を振る「絵理子さんお待たせしました。保さんも着いたんですか?」「保ももうすぐ着くってメール来てたよ。先にホームに上がろう」「エエそうね少し人が減った時に移動した方が良いわね荷物が大きいから。」「こっちよさき、付いてきて」「はい」大きい荷物を抱えた二人は階段を登り電車を待つ人が少ない処で保を待つ
「明日のお祭りは幼稚園の頃に一緒に行ったんだよ。」「そうなの?」「お互いのお母さんと一緒にね」「お母さんと…そう。きっと楽しかったのよね?」「もちろん、私達は大はしゃぎだったわね。保のお母さんも一緒でさぁ賑やかだったわ」「そう。そう言えば保さんのお母さんにはまだご挨拶してないわ…。今日いらっしゃるかしら?」「顔出せば良いわよ。おばさんは自宅で医院を開いているから。殆ど家にいるわよ」「お医者様なの?」「そうよ。子供の頃は病弱だったからお世話になったの。今の私からは想像できないでしょ?」「確かに随分と鍛えたのね」「警官になるって決めたときにこのままじゃ行けないって合気道の道場に通い始めたの」「へぇ…。凄い決心だったのね」「さきを捜すためよ。さきが居なくなってから私はずっと泣いてばかりだったの。そうしたら、保がね、さきちゃんを捜そうって…。その為には強くならなきゃいけないって、警察に入ったら捜しやすくなるんじゃないかって。だから、強くなった。言葉も一緒にきつくなったけどね」そう言って絵理子はふっと笑った「ありがとう…。ゴメンね、二人がそんなこと考えてる間、のほほんと生きてしまって」驚く顔でさきが呟く「馬鹿ね。謝らないでよ。記憶がない人を責めたりしないわ。でもさきは、自分の事をちゃんと探していたじゃないの。だから私達はまた遇えたのよ」
確かにのほほんと過ごしていた訳ではない。さきが、清水の養父母に引き取られるまでにも何度の面談があり、記憶が無くなる程の出来事が何なのか病院、警察に話を聞かれた。しかし、所詮六歳の子供が相手である。追及しようにも限界がある。結局、何も進展のないままさきは清水家に引き取られた。自分が何処から来たのか分からないまま新生活をスタートしたため、何をしても、自分は幼い子供心によそ者の感を意識した。養父母は優しく執事の高橋もさきの意思を尊重してくれた、愛情深く育てて見守ってくれた、経済的にも恵まれていた。さきが、勉強が苦手でない分、国立の大学も進学し、留学も経験した。社会勉強だとしてアルバイトも人並みに経験した。清水夫妻の海外での仕事関係の子供達とも知り合い、お互いの言葉を学ぶ機会もあった。さきは、実に恵まれた生活をしてきたのだ。実の親と生活しても果たして今の経験が出来るとは思えない。だからこそ、さきは絵理子達と過ごせる時間を大事にしたいのだ。その内、誰かが結婚する事もあるだろう、今しかないのだ。
「オーイお待たせ」保がホームを駆けてくる「お疲れ様。保さんバタバタして大変だったでしょう?」「余り待たせると置いていかれるから走ったよ」「置いていったりしませんよ。」「絵理子ならやるでしょ…。」「まあね。少しは待つわよ?私だって」「本当かぁ?さきちゃんがいるから猫かぶっているんじゃない?」「保。あんたね…。」絵理子が保を睨む「まあまあ、保さん。絵理子さんはちゃんと待つわよ?」さきは微笑む「そうよ。待ち合わせしてるんだし、まだ時間前でしょう?先に行くわけがないじゃない」絵理子は保をまだ睨んでいる
「絵理子さん、そんなに怖い顔しないで。保さんは冗談半分で言ったことでしょう?そんなに怒ることなの?」「だってさ、面白くないんだもの」ふぅと一息吐いて、さきは保を見る「今までの絵理子はそうしてたじゃないか…。」「えっそうなの?保さん」絵理子は右手を握って目の前にある保の左肩を叩いた「痛いよ。絵理子」「余計な事言わないのよ。男の癖にお喋りなんだから。言っとくけど時間までは待って来ないから先に行ったのよ?」鼻息荒く絵理子は呟く「絵理子さん。それじゃあ保さんが気の毒よ。」「良いのよ。保は…。」「どうして?二人は恋人同士なんでしょう?」さきが尋ねる「違うわよ。変なこと言わないで❗」「変かしら?至極普通にある事だと思うけれど?」「とにかく、違うのよ。保は、落ち着いていて、いずれ一緒に医院を守っていける人をお嫁さんに貰わなきゃいけないの。私みたいなお転婆で、刑事になるつもりの人間じゃあ駄目なのよ」「なんだよ。それ。うちのお袋が何か言ったのか?」「先生がそんな事言うわけないでしょ」「じゃあ何でそんなつまらない事を言うんだよ」「普通に考えたらそうなるでしょうが❗」「ならない‼(ならないわ)」保とさきが同時に声をあげる「なぁに二人して声を揃えてるのよ。気持ち悪い。」「絵理子さんって鈍感て言われるでしょ?」さきは笑った「何で決定事項なの?」憮然とする絵理子「見ていれば分かるわ。保さんも苦労するわね❗」そこへ電車が入ってきて三人は乗り込むことになった「九時頃には着くわね。父さんに連絡するわ」絵理子は母百合子の携帯にメールを送る「保も乗っていきなよ?母さんが返事に書いてある」「おぅサンキュー。助かるわ」「同じところに帰るんだから当然よ」「良いわねぇ…。皆で帰るって❗」「幼稚園のときはさきちゃんママが僕と絵理子を引き連れて三人揃って帰ったんだよ」保が懐かしそうに話す「保…。」「私は覚えが無いけれど、でも母と一緒にいられて幸せだったのね。私は今も充分幸せなのよ。養父母も大事に育ててくれたの。本当に恵まれていたから…。」「うん。さきちゃんの家に行けば分かるよ。あんなに大切にしてくれてるんだ。高橋さんも吉田さんも温かい人だよね」「そうなの。職場もいい人に恵まれているのよ」「さきの場合は、プラス思考過ぎて分かってないんじゃない?」「そんな事無いわ、苦手な人もいるのよ❗価値観が違いすぎて、どう対応すれば良いのか分からないの」「さきちゃんの苦手な人ってどんなタイプなんだろうねぇちょっと興味湧くけど。」保が呟く「さきとか良いんじゃない?」絵理子がいきなり話を振る「何が?」さきと保が声を揃える「保のお嫁さんによ。」「絵理子、お前本気で言ってる?」保が声を荒げる「ぴったりじゃない?さきならきっと上手くやれるわよ。」「上手くやれるってどういう意味ですか?」「絵理子、さきちゃんに失礼だぞ」「本当に似合ってるわ」「絵理子さん、保さんがあなた以外の人と結婚しても良いの」「勿論よ、私には、一緒に医院を守っていけないし、保のお嫁さんは、優しくて、寄り添っていける女性がぴったりなの」「さっきもそれ、言ってたけど誰かに何か言われたのか?」「勝手に思っただけよ。私とは正反対のタイプ…」「僕はそんな事考えていないし、母さんだってそうだ」「いずれは医院を継ぐでしょう?その時に一緒に手伝ってくれる人が良いじゃない❗」「絵理子さん、それで良いの?」「良いわよ。幼馴染みとして友達がしあわせになってくれたら嬉しいわ」絵理子の言葉はそれ以上続けたくないと言う意志が感じられた。さきは保を見つめる
「…。」保は諦めに近い顔をして地面を睨んでいる
「保さん、お話があるの。後でお母さんにご挨拶に伺っても良いかしら?」「挨拶?」ギョッとした様に保は顔をあげる「佐々木のおじさんおばさんには先日お目にかかったから挨拶出来たでしょう?保さんのご両親にはまだお目にかかっていないので…六歳以来だし。でも時間が遅いから明日にしましょうか?」「イヤ大丈夫。先に戻って話しておくから荷物を置いてから来るといいよ」「ありがとう。では後で伺います。」
9時を10分程の過ぎて改札を出る。混雑するので大荷物を抱えた三人は、改札が落ち着くのを待っていたのだ。絵理子の父が迎えに来てくれたのでバス乗り場には向かわず、直ぐ車にのって帰宅できた。
車中では、武夫に挨拶するさきと保が礼を言っている
「おじ様、母から預かり物が有ります、直接お渡しするように言付かっております」さきは、厳重に封をしてある包みを手渡した「ああ、電話で話したよ。」武夫はしっかり受け取り横に置いた「なぁに、それ?」すかさず絵理子が父に尋ねる「君達には関係の無いものだ。」「わざわざさきに持たせているのに?」「母は、頂き物のお酒とかって言ってたけれど?」さきが、答える「お酒?」絵理子は腑に落ちない顔をしている。さきが、保の家に顔を出してくると席をたった。
玄関のドアが閉まる音がして絵理子は父にもう一度尋ねる「それ何なの?」
「だからお酒だって…。」「お酒に弱い父さんにお酒?怪しい❗さきの事なんでしょう?本人がいない時なら話しても良いじゃない」「全く絵理子は…」「さきが、戻ってくる前に早く話してよ」
「これは、さきちゃんのお姉さんの写真だ。本当にお酒も入っているよ」武夫は写真と一緒にお酒の瓶を取り出した「お姉さん?どうして。」絵理子は少し考えてから父に尋ねる「お姉さんって会った事もないってさきは言ってたけど?」母由利子は頷いて「さきちゃんのお母さんと行方不明の清水夫妻の実の娘さんの名前が同じなの。他にも共通点が多いので調べてみようって事になったの。一番は、名前の漢字、そうそうある偶然じゃないでしょ?警察に勤めている人間としても可能性を考えるでしょう?」「じゃあ、さきは偶然、祖父母に引き取られたってこと?そんな事信じらんない❗」絵理子が胡散臭そうな表情をする「だから君達には関わり無いって言ったろう?いたずらにさきちゃんを傷付けル事にならないように私が調べる。絵理子は余計な詮索をするなよ?さきちゃんと保くんにも誰にも口外するな」最近の父には無かった強い口調である「分かりました」「可能性はあるの?」「あるわ。家を出てから、沙依子さんはダイエットしたらしいわ。私達はスマートのイメージしかないけれど以前の写真はポッチャリしているの。でも目元、口許はよく似ているわ。さきちゃんによぉく似ているし。」「DNA 検査を受けてみれば?」「さきちゃんママの検体がないのよ。何処かに残ってないかしらねぇ?」「まずは、さきちゃんママと沙依子さんが同一人物かって事を調べる事ねぇ」「父さんはどう思ってるの?」「清水夫妻もどうしたら良いのか分からないらしい。それで私にアドバイスを求めて来たんだ。しかし、確定した訳じゃない。あくまでも可能性は高いけどね。とにかく、本人の耳にはうっかり入らないように気を付けるんだぞ」父武夫の言葉に頷いた一方さきは遠藤家を訪ねていた「こんばんは。遅い時間にお邪魔します」さきは畳に膝まずき頭を下げた
「やぁいらっしゃい。さきちゃん。大きくなったねぇ」保の父一成がさきの手を取って頭を上げさせた
「はい。今の養父母に大事に育ててもらいました。」「元気に会えて嬉しいわ。」母里子も側に座ってさきの肩を抱いた「おじ様、おば様には、捜索やら色々お世話になりました」「さきちゃんは覚えてないんでしょう?そんな事気にしなくて良いのよ」「ええ。でも私達家族のために沢山の方々にご心配とご迷惑をかけてしまって…」「良いのよ。こうやって、会えたんだから」「ありがとうございます」「ここでの記憶が無いそうね?」里子が尋ねた「はい。全く覚えていません、今まで思い出すこともありません。怖い夢は何度か見たんですがそれが現実の記憶なのかも分からず仕舞いで…」「そうなのねぇ…いつかご両親の事も思い出せると良いわね」「はい。両親の事も捜し出せると良いのですが…」「無責任な事は言えないが、いつか会えるといいな」「私は記憶が無いので出来ればお二人の知っている私の家族の事をお聞かせ願えませんか?」「勿論よ。私達親子もご両親に色々お世話に成ったのよぉ。覚えていること全部お話しするわ」「明日、明後日とお時間がありましたらお願いします」「ええ是非いらっしゃい、明日は、医院もお休みなのよ。いつでもいらっしゃい」「ありがとうございます。絵理子さんと一緒に伺います」「待ってるわ」
「じゃあ明日ね。さきちゃん」保はさきを佐々木家の玄関ドアの前まで送り届けた「おやすみなさい。保さん」「只今、戻りました」「お帰りさきちゃんお風呂に入る?食事にする」「では食事からー」「そこに掛けて直ぐ準備するわ」「お手伝いします」「まぁお手伝いしてくれるの?遠い所移動して疲れているでしょうに。座ってて」「いえ大丈夫です。何を運べば良いですか?」さきは由利子の側でトレイを持って立っている「じゃあこれをお願いね」「はい。二人分で良いんですか?」「私達は済んでいるのよ。」「そうですか、遅い時間までごめんなさい」「良いのよ。絵理子はいつもこの時間なのよ」「こんなに遅い時間まで、ご苦労様ですね。」「職業柄仕方ないわよ」