さきと沙依子の関係
清水夫妻は吉田の運転する車で、DNA 検査を依頼した病院に到着していた。担当の医師から説明を受ける待合室で結果を聞くためである。
時間になって助手らしい男性が部屋に案内してくれた。
五分と待たずに医師が現れた。知人であるのでかしこまった挨拶は抜きである
「結果的に申し上げるとさきさんは、清水さんのお孫さんである可能性が高いです。どうしても親子の判定と違って確率は下がりますが、ほぼ間違いないでしょう。出来れば、さきさんのお母さんである沙依子さんの検体と確認できればもっと高確率で判定出来るのですが…」「ありがとうございました。それだけで充分です。あの子、さきはうちの孫、沙依子の娘だったんですね。」「でも沙依子さんが娘を独り残して姿を消す理由を捜さなくてはさきさんに話すのは難しくなりますよ?」「どうしてもそれがネックなんです。さきが血の繋がった孫なのが嬉しい半面、沙依子はどうしているのか。」
「加山先生。この事は暫く秘密にしてください」「清水のおじさん。先生なんて他人行儀な呼び方止めてください。父がお二人に助けて貰ったから今の僕が有るんですよ。それにこれは守秘義務があるので第三者に口外してはいけないんですから。勿論さきちゃんにもね」「ありがとうございます。さきにはきちんと話すつもりよ。ただ沙依子の事が有るからまだ話せないわ。沙依子は一体何処へ行ってしまったのかしら…。」「家を出て幸せで居たのかしら?さきが記憶をなくす前に住んでいた所を見つけてね、同級生のお宅に伺ったのその時の話ではとても仲良しの家族で行方不明になる理由が全くわからないって言われたの」「少なくとも親子で幸せに暮らしていた時期があるってことだ」「そうですね」
「もっと詳しく調べてもらおう」
「さきちゃんの記憶が戻ることは無いんですか?」「最近は全く口にしないわお友達に会った事で何か思い出すかと思ったけれどそう上手くは行かない様よ」「そうですか…。よほど怖い思いをしたんでしょう。無意識に思い出せなくしているのかも知れませんね」「無意識にそんなこと出来るの?」「思い出したく無い程怖いのなら無理して思い出さなくて良いさ。充分さきはうちの娘だしな」
また何かあったら手を貸して下さいね。「ええ勿論です。」「たまには遊びにいらっしゃい」「機会が有りましたら…。是非」
病院の玄関で車を待ちながら
「良い先生になったね。悠一君は」「ええ。沙依子のお婿さんにとも
考えていたんですが、上手く行かなかったです」「そんなこと考えていたのか?」「悠一君なら沙依子の事を大事にしてくれると思ったんです。当人達に話したことは有りませんよ。ただ、悠一君は沙依子の事をいつも守ってくれていたでしょう。行く行くはお婿さんに来てくれないかしらって❗」
「なら良かった。反って傷付けてしまうところだった」「ええ結果的には口にしなくて良かったです」
吉田に家まで送ってもらって万里子は着替えて菓子店のオープン準備に向かった。いよいよ開店間近なのだ
さきは足立と二人で企画について話していた。自転車通勤が多いさきは自転車を押しながら歩いている
「自転車、僕が押すよ。結構歩き辛いでしょう?」「平気よいつも乗ってるからたまには歩くのも良いわ。足立さんこそいつも電車なのに歩いて疲れない?」「運動不足だから散歩みたいなもんだよ。」「次の駅で電車に乗ってください。私は自転車で帰るから」「良いじゃない。デートみたいでしょ?」「はぁ…。」「でも企画はどうですか?」「うんもう少しでまとまる。」「そうですか…。私はお役に立ちそうもないです」「そんなことないよ。結構ダメ出しされて絞れてきたんだから」「そうですかねぇ」
そこへ電話が掛かってきた「チョッと失礼」さきは携帯を見た画面は、遠藤保と表示されている「はい、さきです。保さんこんばんは」「さきちゃんもう家に着いた?」「いえ未だです、何か急ぎですか?」「絵理子と横浜駅にいるんだ」「横浜駅に?迎えを行かせましょうか?週末?特には予定してないけれど。では急いで帰ります」電話を切って足立に急用があると伝えて自転車を漕いだ
「この間の人?」「えっ」「確かこの間東神奈川でばったり会ったときもその名前を聞いたよ」「あっそうでした?そうよ幼馴染みなの」「その割に随分と楽しそうだね、チョッと妬けるな」足立は苦虫を噛む
「どうしてですか?近くに住んでないから会えると嬉しいし、楽しいです。普通だと思うけど?」「僕にはその感覚がわからない」「どうしたんですか?」「いや良いよ。気にしないで。また来週ね。僕は駅までゆっくり歩くよ。清水さんはもう行っちゃって」「では急ぐのでこれで失礼します」さきは自転車を漕いだ
「ただいま。すぐ出掛けます」さきは高橋に声をかけて二階に上がった「お帰りなさい。さきさん。お客様はもうおみえです」「えっ?」「リビングにお通ししてございます」「あのう…お客様って。どなたなんですか?」「遠藤さんと、佐々木さんです」「横浜駅に迎えにいくはずだったのに。」「はい、さきさんから連絡をいただいた時は、私横浜駅におりまして、駅で遠藤さんと佐々木さんとばったり会ったので、一緒に戻って参りました。さきさんの携帯にもメールと電話を掛けたのですが気付かなかった様ですね」「あら本当だわ」「只今、奥様がお相手をしていますよ。リビングへどうぞ」「すぐ行きます。高橋さんありがとうございます」「イイエ。次いででしたから」にっこり笑顔で頷いた
さきは急いでリビングへ向かった
「ただいま戻りました。いらっしゃい絵理子さん、保さん。」「お帰りなさい、さき」「お帰り。さきちゃん」「お帰り、さき」えりこも保も振り向いてさきを迎える
「もう着いていたのね。慌てて横浜へ向かうところだったわ」「メールをみなさい。メールを。2回は送ったよ❗」と絵理子が呆れて言った「済みませんでした。ところで今日は?何かあったんですか?」「さき週末にうちに来ない?」「はぁ。良いですよ。何かあるの?」「お祭りがあるの。うちに泊まってゆっくり過ごそうよ」強制的に頷かせそうな勢いである「お祭り?」戸惑うさき「良いわねぇ予定が特にないなら出掛けてきたら?」と万里子「そうですね。是非」「これで決まり。金曜日に仕事が終わったら一緒に帰ろう❗私も今週はこっちにいるから」「そうなの?」「金曜日に戻るからちょうど良いじゃない」「わかりました。準備していきます。プチ旅行ですね。」「大袈裟ねぇ。横浜と比べて田舎だから?」「お泊まり会なんてあまり経験がないですもの」「学校の友達の家に泊まること位有ったでしょう?」「うちの学校では禁止されていたから…」「禁止?何で?」「結構父兄がうるさかったのよ。父兄同伴でキャンプとかなら問題ないのに自宅に泊まりっこはダメだったのよ。よく勉強会っていっては泊まってたけれどね」万里子が代わりに答える
「変なの。」絵理子が驚く
「だから初めてなのよ。この年で」
「保もうち来る?」「僕?行っても良いけど。泊まらないよ?」「当たり前でしょ‼六歳の頃みたいに川の字で寝るわけないでしょ?」絵理子の厳しい答えに「えー流れ的にそうじゃない?」のほほんと保が答える「違うっつうの」「保さんって面白い人ね」さきは吹き出した
「さてと、そろそろ帰ろう絵理子」「一緒に帰るの?」「ホテルは別よ❗」「僕は病院の寮だから」「絵理子さんは?」万里子はが尋ねた「品川駅の近くに宿を取っているので」「どうぞ泊まって行きませんか?」万里子が誘う「ありがとうございます。明日、朝一番で会議があるんですよ。何も無ければ是非っと言いたいところなんですが。」絵理子は丁重に断る「残念です。また今度ね。」「はい、ありがとうございます」2時間程して絵理子と保は帰っていった
「急なお客様だったけれど楽しいお話だったわね。」「ええ。ビックリしたわ。あの二人、あれで付き合ってないって言うの変よね?」「さきもそう思う?」「お似合いよね…」「でも二人とも縁談を断ったんだもの、その気は無いんじゃないかしら?」「本人達がその気になるまで待つしかないわ」