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第七話 日頃の魔法トレーニング

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「今更だが、夢人は魔法の訓練でどんなことをしているんだ?」


 中学一年生のある休日、父の口からそんな疑問が発せられた。


「まあ、色々だけど。というか、本当に今更だね……」


 俺の夢での未来体験の記憶について話をしたのが小学一年生の時、実に六年も前の話だ。


「火災報知器が鳴ることもなければ、家具が壊れたこともない。それどころか物音一つしなかったからな」


 父の俺への印象は一体どうなっているのか。理性のない獣じゃあるまいし、使う魔法くらい選ぶというものだ。いや、この場合は魔法への理解や印象がずれているのかもしれない。


「魔法といっても、破壊をもたらすばかりが能じゃないからね」

「ふむ」


 いまひとつ理解が及ばない様子の父に対して、例をとって解説することにする。


「とりあえず、俺の一日を振り返りながら説明するよ」


 俺の一日は――。




 朝、起床すると一日の準備を始める。着替えや学校に持っていく物を揃えるのと並行して、念動で飛ばしたボールをゲートで短距離転移させ続ける。




「ちょっと待て」

「なに?」


 話し始めたばかりだというのに、父から待ったがかかった。


「朝からそんなことをしているのか? それにそのゲートとはなんだ? そしてボールを飛ばすと言うが、危なくないのか?」


 疑問と懸念。正直、こんなに早いタイミングで来るとは思っていなかったが、説明するものとしてきちんと対応をする。


「ゲートっていうのは、六年前の初めて魔法を見せた時にも使ったやつで、潜ったものを移動させる魔法だよ。こんな感じの」


 実際にゲートを展開し、テーブルの上にあった林檎を父の手元に転移させる。


「ぬおっ」


 驚く父。そしてそれをよそに説明を続ける俺。


「それにちゃんと加減はしてるよ。これは謂わば慣らし運転。リフティングやボールハンドリングみたいなものだからね。朝からしてるのもそれが理由」


 一日の調子を確かめる意味もあり、ある種のルーティンワークともいえる。


「なるほどな」

「じゃあ、続きね」


 納得が得られたようなので、一日の流れに戻る。




 朝食を取り終えた俺は、身だしなみを整え通学路を行く。いつも時間に余裕を持って家を出ているので、足取りは比較的緩やかなものだ。周囲の季節感ある空気を感じながら、足元のアスファルトを修復しつつ歩く。




「アスファルトの修復?」


 日常表現の中にさりげなく入れたつもりだったのだが、やはりおかしく感じるのだろう。父が再び疑問を呈する。


「そう。よくある道路のひび割れとか凹みを、土魔法をつかって修復してるんだ」

「なんだってそんなことを……」


 訳が分からない風の父。とはいえ、別にボランティア精神でやっているわけではない。これもトレーニングの一環なのだ。


「土系統の魔法は土を出した後の処分に困るからね。なるべく地面があって、その場の物を使えるような時に練習してるんだよ」


 さらにアスファルトは普通の土よりも固く、修復に微妙なコントロールを必要とするので訓練には最適なのだ。


「誰かにばれたりしないのか」


 父に疑問も尤もではあるのだが。


「常に注意は払ってるし、もし現場を見ても俺が原因だとは分からないよ」


 先に説明した通り、歩くついでに魔法を行使している。はた目には一男子学生が登校しているようにしか見えないはずだ。特殊なモーションをとっているわけでもなければ、手が発光しているわけでもない。俺が魔法を行使しているなどとは夢にも思わないだろう。


「そうか」


 ちなみに最近はあらかた修復が完了してきていることがささやかな悩みであることを付け加え、説明の続きに戻る。




 学校に着くと、適当に時間をつぶして授業を待つ。順調に時間割を消化し、三時間目の数学。コンパスが無い事に気づき、亜空間倉庫に入れている予備のコンパスを筆箱から取り出したかのように偽装する。




「亜空間、倉庫」


 どうせ質問がくるだろうと思っていたら、案の定の呟きが父から聞こえた。なので、素早く亜空間倉庫の入り口を展開する。


「……」


 驚きの声が聞こえないのでどうしたのかと思ってみてみると、口を開けて固まっていた。空中に展開される黒紫の渦はたしかに衝撃的な光景かも知れないが、ホワイトホールチックな転移ゲートと大差ないように感じるのだが。


「これが、亜空間倉庫。正確にはその入り口だけど。中には魔法で作りだした別次元の空間が広がっていて、物の出し入れができる。中に保管している物は時の流れが停止する仕様だから、保存も完璧だね」

「これは、いいな。取り出すのは簡単なのか? 中が散らかって、どこに何があるのか分からなかったりしないのか?」


 固まっていた父に構わず簡単な説明をしていると、思いのほか食いついてきた。


「意識とリンクさせているから、取り出したいものをすぐに取り出せるし、中に入っている物を忘れることもないよ」


 また、出入り口の大きさも自由に変えられるし、設置場所も任意だ。


「それは素晴らしいな!」


 ただ、魔法である以上、父には使えないのだが。それを父に伝えると、あからさまにがっかりした様子を見せた。盛り上がっているところに水を差したようで申し訳ない。


「これがあれば、母さんに怒られることなくコレクションができるんだが……」

「ああ、なるほど」


 実は我が父上、収集癖をお持ちだ。それも火山灰だとかスイカ味のドリンクの空きボトルみたいな、妙なものを保存しておきたがる。他人にとってはガラクタにしか見えないそれはしかし、本人にとっては大切なものなのだろう。書斎からあふれさせた物は予告なく捨てると宣言する母に、珍しくオロオロしながら勘弁してほしいと言っていたのは記憶に新しい。


「まあ、こればっかりはね」


 どうにもならない、といった風に言っておく。だが実は、亜空間倉庫を使えるようにはできなくとも、部屋やカバンなどの空間拡張をすることはできる。ただ、それが露見した時のリスクを考えるとやってあげることはできないだけで。あと、父を収拾に夢中にさせた原因として母に怒られたくないというのもある。


「仕方ないか……。続けなさい」


 父に促され、話を戻す。




 すべての授業を終え、学校から帰宅するとすぐにバスケットボールクラブの準備をする。着替え、シューズ、ドリンク、タオル。用意すべきものはさして多くない。準備が済んだら練習場に向かうわけだが、少し遠回りをする。建物の影で透明化の魔法を自身にかけ、身体強化を使って裏道を駆ける。




「さすがにそれはバレ……ないのか。透明化とやらを使っているから」

「そうそう」


 父も段々と慣れてきたようだ。理解がいくらか早くなってきている。


「壁を走ったり高速で移動しながらステップを刻んだりするんだ。あとは高いジャンプで障害物を飛び越えたりね」


 これがなかなか楽しく、いい感じにストレス解消になっている。


「危険じゃないのか?」

「身体強化っていうだけあって、筋力以外にも動体視力とか思考速度なんかも強化されるから大丈夫だよ。それに体に纏って循環させてる魔力が物理バリアの役割も果たすから、万が一転んだり壁にぶつかるようなことがあっても怪我はしないよ」


 心配する父にそう返す。実際、銃弾やバズーカをぶつけられようと何ともないだろう。この魔力によるバリアは、同じく魔力を持つものでしか対抗できない。実は魔法使いを非一般人たらしめているのは、広域殲滅魔法や魔道具作成などよりも先にこの基礎の身体強化だったりする。


「そういえば夢人は今まであまり怪我をしてなかったな」

「とっさの時でも身体強化をできるようにしてるからね。まあ、100%とはいかないけど」


 転びそうな時ならなんとかなるが、突き指やヤケドはなかなか厳しい。それにしても、俺の一日の振り返りもそろそろ終わりに近づいてきた。




 クラブを終え帰宅し、夕食と風呂を済ませると魔法訓練も本番だ。風魔法を空調代わりにしながら洗面器に入れた水を操作する。並行して勉強をしながらガスボンベ抜きのカセットコンロに乗せた鍋を加熱したり冷やしたりもする。勉強を終えると寝る前の気分転換だ。透明化と飛行の魔法を使い、窓から夜空に飛び出す。一通り三次元機動の確認をしたら部屋に戻り、残りの魔力をポリタンクに詰めた水に注ぎこむ。魔力が空になり倦怠感を感じる体にムチ打ちながら床に就き、俺の一日は無事終了した。




「まあ、こんな感じかな」

「……」


 ここにきて怒涛の魔法ラッシュに言葉もないといった風の父。しばらく待っていると、


「あー、よく訓練しているのは分かった。一つ疑問なのは、なんで残った魔力を全部水に注ぎこむんだ? 魔力が無くなるときついみたいだが」


 消化できたのか考えることを放棄したのかはわからないが、一応的確な質問が返ってきた。


「魔力を水に注ぎこむのは、エストラ銀の時みたいに水を魔法水にするためだけど、それはオマケ。メインは魔力を空にすることの方なんだ」


 怪訝な顔をする父にもう少し詳しく説明をする。


「魔力は筋肉の超回復とかと同じように成長するんだ。だから魔力を毎日空にして、最大量を上げようとしてるってわけ」

「おお、それなら分かるな。今までで一番訓練として納得だ」


 笑う父に他の訓練にはあまり納得がいってなかったのかと微妙な気分だ。


「あら、なんだか楽しそうね」


 買い物に行っていた母が帰ってきたようだ。魔法の訓練について話をしていたというと、私も聞きたかったとのこと。魔法大好きの母らしい発言に父と二人して声を上げて笑う。

 結局、先ほどの1.5倍の時間をかけて再説明をするはめになったのだが、こちらの方が話がいがあったので良しとしよう。



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