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第二十八話 幸せ恋模様

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 ベッドに寝転び、天井を見上げる。あの後、なかなか側から離れようとしない二人をどうにか説得して帰宅した俺は、早々に風呂を終え自室にこもった。集中して考え事をするにはその方が都合が良いからだ。しかしいくら考えても事態を解決する妙案は浮かんでこない。


「どうしたもんか……」


 思考はループし、自身への嫌悪感のみが積み重なっていく。そしていたずらに時が過ぎていく中、一つのことを決めて携帯端末を手に取った。


「とりあえず、二人には正直に話さないとな」


 怒られるか、泣かれるか。それとも――。憂鬱な気持ちになりながら明日の予定を決め、端末をベッドの端へと放り目を閉じた。




「依存症、ですか?」

「そう」


 次の日、いつものように三人で集まると俺は二人にあることを告げた。つまり、澪と璃良は依存症を患っている、と。


「依存症って、何の?」

「俺」


 疑問を投げかけてきた澪は、俺の返しにさらに訳が分からないと言った様子だ。隣の璃良も同じ反応である。ただ、そうとしか言いようがないのも事実なのだ。より正確に言うのなら“春日井夢人依存症”となる。


「……」

「最初に違和感を覚えたのは、二人が初めて俺の魔力の大きさを感じれるようになった時だ」


 何ともコメントしようもないと言った微妙な表情の二人に説明を始める。あの時、二人とも拒絶の色は全くなく、むしろ感激したような雰囲気だった。


「当然」

「えっと、それが何か……」


 だが、本来それはあり得ないことなのだ。恐れを感じた後でそれを上回る気持ちで乗り越える、というのならまだ解る。だが、恐れ自体を感じないというのは本能のどこかが壊れているとしか思えない。それ程までに魔力差による威圧感・恐怖感というものは強力なのだ。現代兵器で例えるのならば、安全装置を外した拳銃を向けられているくらい、あるいはそれをも超える危険度なのだから。


「そして極めつけは昨日の弟子クビ宣言の時の反応」


 あの時のことを思いだしたのか、イマイチ納得いってなさそうな様子だった二人の顔色が少し悪くなる。


「あの時の言動は尋常じゃなかった」


 どれほど俺の弟子を辞めたくなかったとしても、体裁を気にしたり説得を試みたりといった方に多少なりとも思考が回るのが普通だ。しかし二人は泣いて縋った。まるで心の支えを失ったかのように。


「それに今も昨日のことを思いだしただけで不安定になってるように見える」

「そ、れは」

「……」


 自覚があるのだろう。二人ともどこか悔しそうな表情だ。だからこそ、俺は二人に告げねばならない。


「そんな――」

「まって――」

「本当に、申し訳ない」


 俺の謝罪に、焦った様子のまま固まる澪と璃良。意味が解らないのだろう。ゆえに俺は説明しなければならない。自らが犯したミスについて。




 今回の二人の依存症の原因は、修行を開始したころの魔力同調にある。


「いろんな属性を習得する時に使ったやつですか?」

「あの凄かったやつ」

「そう」


 魔力同調により魔力を受け入れやすくなった後に対象の魔力に触れると少なからず多幸感や快楽が伴う。澪や璃良を見ている限り、それは保有魔力量に差があるほど顕著なようだ。そして多幸感や快楽と言ったものは依存や中毒の温床である。つまり、俺が二人に繰り返し施した修行と俺から漏れ出ている魔力で二人は俺に縛り付けられる結果になったと言えるのだ。


「……それは、間違いないんですか?」

「あくまで仮説の段階だよ。でも、状況から見てほぼ間違いないと思う」


 ちなみに、纏う魔力を0にしてみても昨日のような反応にならないことから魔力そのものではなく、俺への依存であると判断できる。おそらく俺への好意と相まって、脳内で『俺と共に在ること=幸福』の図式が出来上がっているのだろう。


「何か害はあるの?」

「俺との縁が切れることを極度に恐れること。それに伴い俺を怒らせないようにしたり機嫌を取るようになったりと本来なら望まないであろう選択肢を取るようになることかな」


 そういうと二人は黙り込んでしまった。まあ自由の一部を奪われたと言っているに等しいのだからそれも当然なのだが。


「今はまだ解決方法を思いつかない。けれど必ず何とかして――」

「いい」


 怒っているだろう。あるいは泣かれるかもしれない。そんな俺の予想を裏切り、澪は平然とした声で俺のセリフを遮った。


「代わりに、私たちから離れないで」

「え?」

「そうですね」


 澪の言葉に璃良もそれがいいと頷く。


「夢人が私たちから離れなければ精神は安定したまま」


 いや、それはそうだが。


「だけど本来なら意にそぐわないことでも強制させられるわけで――」

「夢人くんはそんなに酷いことを私たちにするつもりなんですか?」


 しない。しないが……。


「でも将来的に困る可能性が――」


 無言で左手の甲を見せられて言葉に詰まる。そこには俺の渡した護身用の指輪が嵌った薬指が。


「……茨の道なんてもんじゃないよ?」

「なんとかなる」

「覚悟の上です」


 重量級の発言に、しかし嬉しくなっている自分に苦笑しながら頷く。


「よろしく」


 責任は取る。いや、そんなこと関係なく二人と共に在りたいと思う。幸せにし、守りたいと。今見ている笑顔をいつも見ていたいと。もちろん念のため解決策は考え続けるつもりだ。ただ、そんなのが必要ない状態にすることを最優先で考えるとしよう。




 さて、そうと決まったからには今後の行動方針についてしっかり考える必要がある。異世界転移が発生しなかったときからこっち、ほとんど目標はない状態でなんとなく生活してきた。しかし、重婚という制度が無い日本で二人とずっと共に在るという道を行くなら、何らかの対策が必要だろう。


「とりあえず、金とコネかな」


 まず、金。二人を路頭に迷わすわけにはいかないのはもちろん、金があれば解決できる事柄はかなりたくさんあるはずだ。一応今でも30億くらいの金を持っているが、いざという時のために安定した収入源が欲しいところである。

 また、コネも重要だろう。世間的には二人の女の子を侍らすというのは非難の対象なのだから、何かあった時に守ってくれる存在は確保しておくべきだ。それも、多ければ多いほどいい。


「とはいえ、できる事なんて限られてるけど」


 既にこれまでの地球とは違う。魔物や魔法があり、それが中心だ。実にファンタジーな現実で、先を読むことは難しい。土地も株も価格が安定しないし、公務員は最も多忙と言える職業になった。大企業だって今後の魔物からの素材を上手く活用できるかどうかで明暗が分かれそうだ。


「つまり、注目すべきは魔法と魔物関連」


 不安定の根元には魔法と魔物の存在があり、それが鍵となっている。既存のレールが役に立たないことを考えると、いかに早くそこを制するかが重要となるに違いない。その点、俺には夢の体験で多くの手札がある。軍資金も豊富にあるので、文字通り経済的な無双が可能だ。ただし、


「悪目立ちは避けねばならない」


 この制限が実行を難しくさせる。要らぬ危険を呼びこまないためには仕方のないことだが、歯がゆい思いを感じないわけでは無い。結局のところ、


「コツコツ危なくないコネを作りつつ、ちょうどいい商機に備えるしかないか」


 とりあえずはギルド長の歓心を買いつつ、有力者絡みの依頼を待つことだろう。あとは魔物・魔法関連の情報にアンテナを張ること。今は力を蓄え、時を待つ!


「……ところで、二人は何してるの?」


 なるべく意識しないようにしていたが、澪と璃良はひとしきり喜び終えた後、考え事をしている俺の左右にやってきて肩に寄り掛かっていたのだ。


「幸せを満喫してる」

「夢人くんは嫌ですか?」

「まさか」


 思わず即答してしまったが、実際俺も満たされているのだから仕方がない。ただちょっと、男の子的には困るというだけで。


「……」


 まあ、いいか。心地よい沈黙にそう思い、今後の方針についての考察も棚上げする。この幸福感こそがいま最重要なのだろうから。




 そんな幸せな日から一日が経った頃、俺は一人ギルドを訪れていた。目的は魔法の検証・研究の打ち合わせである。


「――と、いうわけです」

「なるほど、やはり魔法において重要なのはイメージであると」


 部屋には紙に文字を書く音が響く。


「おそらく。他にもまだ質問がありますか?」

「いえ、このくらいで結構です。あとはこれを午後からくる他のメンバーと共有すれば終わりですね」


 そう口を開いたのは二十代と思しき白衣の女性。彼女はギルド長の秘蔵っ子で、新山陽奈子(にいやまひなこ)。組織管理者としてだけでなく研究者としても優秀らしい。現に以前から件のまとめサイトの検討・考察をこの既に独自に行っており、ほとんど玉の情報は挙げ終っていた。打ち合わせなのに独自詠唱と発動点の変更の使用感からくる考察について話しているのも大概である。ちなみに魔法の適正もあり、技術的にも独学にしては随分進んでいる。


「ですが本当によかったのですか?」

「なにがです?」


 持ってきた書類の片付けをしていると、唐突にそう尋ねられた。


「研究補助員の立場でいることです。これだけ分析できるなら正規メンバーどころか単独研究で成果の独占も夢ではないのでは?」

「ああ、そのことですか」


 むしろ、それが嫌なんですよと続ける。


「まだ高校一年の人間には魔法研究の第一人者なんて肩書は重すぎます。そうでなくとも個人で背負うには少々重量があり過ぎる」


 今最も熱い魔法という分野の第一人者になんぞされたらそれだけで厄介な目に遭うことは目に見えている。ありとあらゆる勢力が強引な勧誘合戦を繰り広げるのは間違いないのだから。


「そのくらい解っているでしょう?」

「そうなんですけどね」


 だからこそ彼女だって独自研究を止めてギルド長の個人的な研究グループの一人として成果発表をするのだから。もっとも、


「ただ研究をしていた人間からするとやはり惜しく映るものでして、ね」


 そう苦笑いする新山さんを見ると研究者も大変なんだなと思う。もちろん俺に何ができるわけでもないのだが。その時、会議室の戸を叩く音が鳴る。


「進捗具合はどうでしょうか」

「順調です。とりあえず春日井さんの技術についての考察は終わりました」

「随分早いですね?」


 やってきたギルド長に新山さんがすぐに答える。片眉を上げたギルド長だったが、


「ほとんど説明いらずでしたよ。新山さんにとっては確認作業だったかと」


 俺がそう答えると得心が行ったようだ。


「なるほど。彼女は優秀ですからね」

「そ、そんなことは!」


 男二人で頷いているとどこか慌てた様子の新山さんが割って入る。先ほどまではかなり落ち着いたキャラだったはずなのだが。それによく見ると耳が赤い。……ふむ。


「そういえばギルド長は何をしに来られたんですか?」

「え? ああ、状況の確認とそろそろお昼なので一緒にどうかと思いましてね」


 突然の話題変更にギルド長は疑問顔で答え、新山さんは安堵した様子を見せる。だが、


「なるほど。それなら今日はここまでにしますので新山さんと一緒にご飯に行かれてはどうでしょう?」

「え!?」


 その安堵は一瞬で消え去り驚きの表情へ。ギルド長も意外そうな顔だ。


「もう終わりでいいのですか?」

「他の研究員の方に今日の情報を伝える必要がありますけど、それは新山さんにお願いします」


 今回の研究はギルド長立案の支部研究ということになる。もうすでにメンバーも決まっていて、今日顔合わせをする予定だったのだ。だが、まあそれは今度でもいいだろう。


「春日井くんは何か用事が?」

「そうですね、幾つかやりたいことが」


 実は特に何もないのだが、頬まで赤らめながら口を開閉している新山さんを見るにこの選択肢は正解だったと思える。


「そうですか……。では新山さん、行きましょうか」

「は、はぃ」

「お疲れ様でした」


 挨拶を告げて二人を見送る際、新山さんはこちらを見て一つ頷いた。俺のアクションから意図が伝わったのだろう。つまり『グッドラック』と。



ちょっと壊れたヒロイン+異世界の感覚も持つ主人公=ハーレム

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