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呪われた武器

病み骨の短杖ワンド

我が持ち帰った杖を武器鑑定師が見た結果、名前は判明した。

いわくありげな名前ではある。

ただし、能力はまったくわからないままだ。

アルカディア随一の鑑定師と言われる男は、名前だけを告げた後、以降の一切の鑑定を拒んだ。

と言っても、我が困ることはない。

能力など分かりきっている。

呪い、だ。

この武器に触れた者は呪われる。

それも体調が悪くなる程度ではない。

一瞬で全身が腐れて死ぬか、地獄の業火に焼かれて死ぬかの二択になるというくらいのものだ。

呪いには鎧の防御力など関係ないし、生半可な魔法で防ごうとすればその魔法自体が呪われて術者を襲うだろう。

万能の地獄の王が無限の年月に渡って降り積もった怨念そのものから削りだした滅びの工芸品アーティファクトだ。

定命の者が抵抗など、試みることすら不敬である。

オールドワールドであれば、一度の打撃を防ぐだけで"大いなる祈願"の魔法か聖遺骸を用いた武具が、これを持った者と実際に戦うとなれば上級神からの直接の支援と"聖なる侵入"の魔法が必要になるはずだ。

つまり、この世界では効果的に防ぐ術はない。

唯一にして最大の欠点は敵が必ず瞬時に無残極まりない死を迎えるので手加減が出来ないことか。

良く考えてみるとかなり大した欠点だな。


「鞘が必要だ。それも早急に」

我は鑑定が終わった後、リーティカに要求した。

我が握っていない状態では、このワンドは全方位に呪いをまき散らす悪意の塊でしかない。

落として地面に先端が突いただけで、そこから毒の沼地が出来てしまうだろう。

それは冒険者学園にしても望ましくないはずだ。

「それは脅迫じゃないのか」

彼女はそう渋ったが、そもそも"ウェポンクリエイター"に我を引き合わせた責任があろう。

「大体何にその物騒な杖を入れるんだ。触ったら呪われるんだろうに」

「こうした呪物を収めるのは逆の属性を持つ物質と相場は決まっている。つまり、聖なる者の骨か皮膚だ」

「気持ち悪いな……聖遺物を鞘に使おうっていうのか」

「それが一番良い」

リーティカは少し考えて、頭を振った。

「駄目だな。聖遺物を提供してもらったとして、それが呪いに耐えられるかどうかわからん。もし負けてしまったら提供した教団の顔をつぶすようなもんだ」

「では、悪属性を帯びた鉄石アダマンタイトでは。それでも呪いにある程度の耐性はあるはずだ」

「あれは"ウェポンクリエイター"しか加工できないんだって」

「……やむをえぬ。適当な太めの大腿骨でよい」

「は?」

「まっすぐな骨なら何でもよいが、スープを取ったあとの出汁殻だしがらなどはやめてくれ」

「いきなり条件が緩くなったな。ものすごく」


ぶつぶつ言いながらリーティカはワンドが丁度おさまるくらいの骨を何本か見つけてきてくれた。

その中から我は亜竜ファフナーの指骨を選びだした。

「なぜ、それなんだ。何か理由でもあるのか」

「いや、削りやすそうだからな」

「そんな理由かよ……」

我はワンドを口にくわえ、骨から髄を抜いて形をナイフで削って整えた。

「ヴぇふとをクれ」

「危ない!落とすからくわえたまましゃべるな!ベルトだな。そらよ」

腰に巻けるように長めの金属ベルトに鞘を取り付ける。

「でもどうするんだ。それ、ただの骨とベルトだぞ」

見ていろ。

『神聖属性付与』

やわらかな魔力光が骨鞘を包み込む。

我は骨鞘にワンドを収め、呆然としているリーティカに告げた。

「ただの骨ではない。今からこれは聖遺物だ。「ファフナーの聖骸鞘」とでも名づけよう」

「無茶苦茶だろ……」


実際のところ、この鞘が後代に伝えられることはない。

我の神聖・邪悪属性付与は身につけているものか眷属にしか効果がなく、体から離してしばらくすると効果が無くなってしまうからだ。

古代の聖人のようにはいかぬ。

だが、ないよりは遥かにマシというものだ。

骨鞘に収められたワンドは一時的にであろうがおとなしくなっており、鞘ごと地面に置いても特に何も起こらなかった。

我は稀代の工芸品アーティファクトである病み骨の短杖ワンドを飼いならすことに成功した。

出汁殻だしがらでもよかったんじゃねえの?」

「スープの匂いが移ったらどうする」

「……」


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