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怪しい仲間

この少女は怪しい。

あからさまにうさんくさい。

我が過剰に怯えられているのも、実は彼女がなんらかの噂を流しているからではないのか。

理由はないがそう思えてしまう。

整った顔にはどんな表情も浮かんでいない。

「わたくしはリーティカと申します。聖十字教会の教えを奉じております」

胸に白い十字架の聖印が下がっている。

「同じ聖十字の教えを戴く者として、ハイデンベルク殿に協力いたしたいと思います」

筋は通っているか。しかしこの地方でも聖十字教会の信徒は多くないはずだ。

そもそもこの学園に聖十字教会の神聖魔法使いはいない。

我の使う魔法と正統派の魔法使いの使うそれとの差が目立つと困るので、一応調べてあるのだ。

「よろしく頼む」

しかし、これを逃してはパーティーが組めぬ。

我は彼女に手を差し出した。

「武器を調達しなければなりませんわね」

リーティカはそれを無視して言ったのだった。


「武器を買うのか」

「いえ、迷宮で調達するのですわ」

リーティカによれば、迷宮六階に一人一度限り武器を生成してくれる魔法装置が存在しているという。

「もちろん材料は必要ですけれども。それはわたくしが持っております」

それが本当ならずいぶん便利なものだ。

たしかに今の我には武器らしい武器がない。

光弾が通用しない敵がいればお手上げなのだ。

「それはありがたい。材料の対価はいくらかな」

「いえ」

リーティカはそこで初めて微笑んだ。

「お助けできればそれで結構ですの」

「ふむ」

「あのー」

マリエル教官が遠慮がちに声をかけてきた。

「二人でパーティーを組むってことでいいですかね……」

「よかろう」

「もちろん結構ですわ」

意図はわからぬがこの誘いに乗ってみる他はない。


我等は校舎の地下にある迷宮の入り口にやってきていた。

冒険者学園には迷宮への入り口が四箇所ある。

上級クラスの校舎に付属するそれは二階に直行出来るもので、許可のあるパーティーにしか開放されない。

五人パーティーが一つ、四人パーティーが四つ、三人パーティーが一つ、二人パーティーが一つ。

計二十六人。

最初に七十人いて、我等三人が加わり、二十五人、二十四人、二十四人に割り振っていたはずだ。

「人数が合わないようなが気がするが」

「そうですか?」

地下への階段を歩きながら聞いてみた。

リーティカは振り向かない。

「マリエル教官も何も仰いませんでしたし、特に問題はないと思いますわ」

マリエルは確かに何も言わなかった。

特に操られている様子もない。

「緊急に一組だけ人数が増えるアクシデントがあったのかな?」

「さあ、聞いておりませんわ。もしそうしたことがあったなら、みなさんに言っていただかないと困りますわね」

あくまでもひとごとのようだ。

「もうそろそろ敵が出てきますわ。よろしくお願いいたします」

リーティカは流れるように我の後ろに回った。

「我は武器がないのだが」

「それだけ大きいのに、女性を前に立たせるつもりですの?」

そう言って彼女は試すようにこちらを見た。


何やら腹立たしいが、当り前のことでもある。

アリスやフェイと一緒に行動しているせいで常識がおかしくなっているな。

我はそのまま進んだ。

「私の前でいいのですか?」

「確かに、女性を前に立たせて隠れるなど、あるべきことではない。武器がなくても攻撃を遮るくらいは出来よう」

「騎士のようなことを仰います」

「まあ、見ているがいい」

そう言うとリーティカの形のいい眉がかすかに寄った。

少々面食らわせることが出来たか。


二階に現れるのは四足歩行の中型レプタイルと、それに使役されている小さな鳥だ。

レプタイルの長い口吻には多いもので十匹ほどの小鳥が隠れており、鉄のような嘴でこちらの目を狙ってくる。

気を取られていると本体に足を噛まれて引き倒されるというわけだ。

中級クラスの頃から何度も相対しているだけあって、一組のパーティーの戦いぶりは慣れたものだった。

長い口吻の先を踏まれると口を開けることが出来なくなることを利用して、ほぼ攻撃を受けることなく倒して行く。

「つまりませんわね」

リーティカが言う。

「そうか?」

「こちらに何も来ないんですもの」

それは我が呼び出して置いた光弾のせいであろう。

即座に撃たなくてもよいのなら維持したまま動けるのではないかと考えたのだが、思った以上に使い勝手がよい。

こちらが動くと勝手に追従してくれる上、味方だと認識したものは避けるのだ。

「無駄に戦うこともなかろう」

突っ込んで来た無謀な小鳥は黒こげになって転がっている。

「せっかく盾に使ってやろうと思ってましたのに」

さきほどと言うことが違うではないか。

「ははは」

我は不覚にも面白くなってきてしまった。


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