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金がない!

まずい。

思えばこの世界に落ちてから金に困ったことなどなかった。

この体はほとんど食事を必要としなかったし、アリアスと縁ができてからはずっと彼の力で宿に泊まれていたのでたまになにか買うくらいしか金を使わなかった。

依頼も順調にこなしていたし、魔族の角がそのうち金になるというのも頭の隅にあって、金を稼がなければいけないなどとは終に思ったこともなかった。

しかしこの事態はまずい。

この学園にきて二回目の借金。

〆て十万と五千ターラー。

あの低機能ゴーレムごときが一体五百ターラーとは納得しがたいが、抗議しても始まらぬ。

魔族の角はいつ現金化されるかわからぬし、催促されないとは言え、借金が増えるのは精神的によくない。

事実上我等の身元引受人であるエヴィア王国、ひいてはウルスラ王女の立場もある。

なんとか返す算段をせねばなるまい。


幸いここは冒険者学園。当初の目的通り迷宮に入ってそこで稼げばよいのだ。

ん?稼ぐのは目的ではなかったか。

しかしこの際細かい事は言っておれぬ。

「レイランド教官」

「何かな?」

授業を終えたレイランドを捕まえて聞いてみる。

迷宮の潜り方を。

「ああ、次の授業で入ってもらうよ」

「そうか。ありがたい」

「パーティーを決めないとね」

何だと?

「授業だからね。一人で迷宮に入られても困る」

「ああ……しかし知り合いなどいないが」

「大丈夫。みんな再編成されたばかりでパーティーも組みなおしだからね。きっと入れるよ」

「そ、そうなのか?それなら、安心、だな」


入れなかった。

パーティーにだ。

よそ者が気に入らないのはわかるが若いのに排他的過ぎるのは成長の機会を奪うぞ。

憮然として我は思った。

皆、我が話そうとすると顔を背けて他の者と関係ないことを話し出すというのは露骨すぎないか。

たまりかねて組で最も屈強そうな二十代の戦士の肩をつかんで勧誘しようとしたのだが、ずっとうつむいたまま返事もせぬ。

しまいには机に突っ伏してしまい、周囲の目に耐えられなくなった我はすごすごと自分の机に戻った。

周りの者は小さい声で話しながらちらちらとこちらを見ているようだ。

「あ、あのね、ハイデンベルクさん……」

実技担当教官のマリエルがひきつった笑いを浮かべながら声をかけてきた。

元素魔法使いのの女で、ロトノールのように現役冒険者らしい。

まさかこの女が我の借金返済を妨害しようとしているのではあるまいな。

「何だ」

我は座って腕を組んだまま上目使いで返事をした。

教官なら敬意を払うが、敵なら別だ。

「ヒッ」

なぜ自分で声をかけてから後ろを向く。

失敬ではないか。

前に回りこんでから顔を覗き込むと、泣いていた。

「こわいこわいこわいこわいこわい、こんなこわいことなかったよぉ……」

小さい声でぶつぶつと言っている。

失敗した。


自分の見た目が威圧感があるのを忘れていた。

これでも若いころはオールドワールドの貴族社会でも優美な姿を讃えられていたのだが。

しかし、なぜ怯えるのかと問い詰めるわけにもいかぬ。

ようやく正気に戻ったマリエル教官がパーティーを決めて行くと、我だけが残ってしまった。

これは困った。

いや、もう一人残っている?

我はその者の姿を探した。

教室の隅に座っている黒髪の少女だ。

フェイよりいくらか年長であろうか。

「リーティカさん、パーティーを全部断ってしまったの?でも、授業が出来ないから、どこかには入ってほしいのだけれど」

マリエル教官が困った顔で言った。

「入りたいパーティーは決まっております」

リーティカと言う名の少女は無表情に答えた。

そして立ち上がり、我の机のところまで歩いてきた。

「ヨーハン・ハイデンベルク殿。わたくしをあなたのパーティーに入れてもらえませんか」

怪しい。

とびきり怪しい。

怪しくないと思うほうがおかしい。

しかし、我に選択肢はないのだった。


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