一組との顔合わせ
上級クラス全体は六つの"組"に分かれている。
我が加入したのは一組。
上級クラス一年目が一、二、三組になり、二年目になるとスライドして四、五、六組になるわけだ。
成績不良で一年目のクラスに留め置かれることもままあるため、こうした妙な分け方をしているらしい。
アリスは二組、フェイは三組だ。
相当ごねられたが、はっきり命令すれば彼女らは断ることができない。
自由意思云々を言いながらこれか、と思わぬでもないが、何かよい影響が出ることを祈るばかりだ。
「だいぶ怒ってたね。ハハ……」
先ほどの職員が若干引きぎみに笑った。
言葉の調子が砕けたものになっている。緊張していたのはフェイとアリスのせいだったのか。
「私は一年目組のパーティー運営担当教官レイランドだ。よろしく」
単なる職員だと思っていたら教官だったようだ。
年少クラスを率いていたロトノールと比べるとだいぶ線が細い。レベルもそれほど高くないのではないか。
「あんまり強くなさそうかい?」
にやりと笑う。
「いや……」
「パーティー運営担当だからね。金勘定が先に立つって言われるよ」
軍で言えば輜重兵か。人数の多いパーティーならばそうした技能も必要なのであろう。
「この時間、一組は射爆場で遠距離攻撃の訓練をしてる。ああ、あそこだ」
上級クラスの校舎は三階建の木石混合建築で、中庭を囲んで建っているが、一方が開放されており、かなり射程の長い魔法や弓なども試せるようになっていた。
的らしきものをゴーレムが抱えて動いている。
ゴーレムは簡単なものだ。感覚器官はなく、ひたすら前進する機能しかない。
それを生徒達の攻撃が射抜いて行く。
的の有効部位を破壊するとゴーレムは立ち止まり、脇に避けて新しい的を持ち、最初からやり直す。
この繰り返しだ。
上級クラスでわざわざこうした訓練を行う意味はあるのだろうか。
「魔法や弓なら実戦で試せばいいのではないのか」
「もちろん、それもやるよ?でもこのへんに上がってくると新しいスキルに目覚める子も多くてね。最初はちゃんと扱えない事も多いから、ここで自信をつけて実戦で使うのさ」
なるほど。
たしかに入学試験では見られなかった威力の高そうな攻撃が多い。
そして外していることも多かった。
矢を三本同時に撃つというスキルを見事に外してしまった少年がこちらを見た。
十代後半だろうか。悔しそうな顔をしている。
「何見てんだ!」
はき捨てるように言った。
「おいおい、ゲストの方に失礼なことを言うな」
「知ってますよ。入学試験で闘技場を半壊させたバカ野郎でしょ」
「あのなあ……」
妙な敵意を感じるな。裏があるのかもしれぬ。
我はレイランドの前に出て名乗った。
「"混沌の渦"ヨーハン・ハイデンベルクである」
「な、なんだよ」
「尋常に挨拶せよ」
頭の位置を下げ、目を合わせて言う。
「い、いちくみの……」
名前の部分が聞こえない。
「聞こえぬ。顔色が悪いぞ。大丈夫か」
「リックというんだ。そんなに脅かさないでやって」
レイランドが苦笑して言った。
「お前もだ、リック。反省しとけよ」
かすかに頷いた少年の胸にゼノギアス教団の銀の聖印が光った。
今のやり取りの理由のひとつかもしれぬ。気を付けるとしよう。
「今日から一組に加わって頂くゲストのハイデンベルク殿だ。みんな挨拶しておくように」
レイランドはその後全員を集めてそう言ったが、皆顔を見合わせているだけで何も言わない。
さきほどの挨拶のやり方のどこかがまずかったか。
ここは挽回せねば。いいところを見せておこう。
「レイランド教官。挨拶代わりにそれがしも射撃を披露いたそう」
「え、ああ、いいのかな……」
『光弾』
今回は少なめに百としよう。
竜人戦のように無様な真似はせぬぞ。
よろよろと動くゴーレム十体に十発ずつ。
ゆけ。
光が的を続けざまに貫通する。おまけにゴーレムも。
射爆場にはバラバラになったゴーレムの部品が派手に散らばった。
立っているものはいない。
なかなかの手並みだ。
「あの」
レイランドが我の横腹をつついてきた。
なんだ。
「ゴーレム……結構高いんだよね。たまに、多少、壊れるくらいはいいんだけど。十体粉々はきつい……」
そういえばこの男はパーティー運用担当教官だった。
なんだその目は。
わかった。払えばいいのであろう。
我の借金は最初の返済をする前に増えてしまった。
レイランド、なかなか恐るべき男だ。




