十人評議会
「危険か」
「そうです。普通に危険、ではありません。極めて危険です」
「そして単純に危険なだけでもない」
「そうです。彼を通じて俺たちは利益を得るでしょう。大きな利益です」
樹人のレンデュライは円卓を囲む者たちに言いきった。
「そいつが魔王じゃないってーのは、間違いないのか」
すぐ右隣に座る巨大な男が聞いた。
アルカディア十人評議会で異種族なのはレンデュライとその男、それから議長席に座る赤い服の女だけである。
彼は熊人のデルガド。
無双と言われた戦士だが、盛り上がった額に半ば隠された目には知性がうかがえる。
「魔王になるかもしれない。そのうちな。だが、問題はそんなところでは終わらない」
「魔王以上に厄介ってことか。お前がそこまで言うとは」
「あれは、違う。人間の敵とか味方とか、そんなものじゃない。この世界のものじゃないような気さえする」
「そんな者をゲストとは言え、迎え入れてしまうのか?やはり今のうちになんらかの手を打った方が」
白い髭を蓄えた神官が腕を組んで言った。
「なんらかのってどんな手です?」
「神聖魔法団による大規模な攻撃を行ってはどうか」
「それで退散すればいいが、あれがどういう種族なのかは全くわからないんですよ。失敗すれば決定的な敵意を買って、それはアルカディアに留まらない問題を起こすかもしれないんですって」
「"混沌の渦"か……。文書館の方の調査はいかがか」
皆が一斉に年老いた魔法使いを見たが、彼は首を横に振った。
「残念ながら」
「何も出なかったか?」
「なにしろ膨大なので全蔵書を調べたわけではないが、禁書の類もできる限り調査した。少なくともここ千年、かの者に少しでも似た生き物は見つかっていない。あるいは」
老魔法使いは少し言い淀んだ。
「廃された神の一柱ということも考えねばならないか」
「それは問題のある発言だぞ!」
「聞き捨てなりませんわ!」
神官とその横に座る若い修道女が腰を浮かして抗議した。
「そういう方面の調査も必要かということだ」
魔法使いは宥めるように言う。
「ひとつ、気になることがある」
目立たない顔立ちの中年の男が口をはさんだ。
「彼を遠距離から監視していた者によれば、鎧の色が一部変わったと」
「それがどうした?鎧が壊れて手持ちのパーツで合うものを使うことなどよくあることだ」
「うむ。それがな、全身煤色の鎧の手だけが、こちらに来る途中で一夜にして純白になった。違和感がないか」
「あの手甲か。たしかに色が合っていなさすぎるし、旅の途中であんな派手なものをわざわざ調達したというのもおかしな話だ」
レンデュライが肯いた。
「案外、そんなところが何か手掛かりになるかもしれない」
「正直、今の段階では俺の印象と遠方からの監視、それに他国からの怪しい情報しか判断材料がない。姐さん、どう思う。このままでは方針すら出ないぞ」
レンデュライは結論を議長席の女に振った。
「……」
反応がない。
「姐さん?起きてるか?」
「ん?ああ、聞いてなかった。ゴメン」
バタバタと書類が床に散乱する。
「寝てた?」
「いや、寝てないよ?寝てないって!」
「もういいわ……書類はちゃんと拾っとけよ」
「わかってるって!大体さ~みんな先送りする気まんまんじゃね?会議なんかする意味あるのかな」
レンデュライは苦笑した。
「難しい案件だからだよ」
「いっぺん立ち会ってみればわかるんじゃね?」
「それで何かわかるのは姐さんだけだわ。この脳筋!」
空気が一度に弛緩してしまった。
議長の女……希有な半竜人の冒険者テルファは大きくあくびをする。
「一応、学園としての策っぽいことはしておいたよ。怒られない範囲で」
レンデュライの反対側に座る黒い髪の女が申し訳程度に付け加えた。
結局それ以上なにも意見は出ず、十人委員会の会合ははそれぞれの思惑をそのままに散会することとなったのだった。




